人魚伝説のモデルになったとされる水棲哺乳類「マナティー」。
このほど、米フロリダ州にあるブルースプリング州立公園にて、700頭以上のマナティーが一堂に会する驚きの光景が目撃されました。
これは同域で記録された中で、史上最大規模の群れだといいます。
マナティーたちはなぜこんなに集まっていたのでしょうか?
目次
- なぜ一堂に会したのか?
- 個体数が大幅に回復した要因とは?
なぜ一堂に会したのか?
マナティーは、ジュゴンと並んで「海牛(かいぎゅう)」と呼ばれる草食性の水棲哺乳類です。
ジュゴンは海に住んでいるのに対し、マナティーの多くは河川や湖などの淡水系に生息しています。
マナティーの姿は丸くて大きく、最大だと全長390センチ、体重1500キロにも達します。
全体的にどこかぬいぐるみのような愛らしさを持っていますが、とても寒さに弱い生き物です。
なぜなら彼らは体脂肪が少なく、体温を長時間維持するのが苦手だからです。
水温が20℃を下回ると命の危険すらあります。
そんなマナティーたちにとって、アメリカ南東部・フロリダ州のブルースプリング州立公園の淡水域はまさに命を守るオアシスです。
この泉では年間を通じて水温が約22℃に保たれており、冬になるとマナティーたちが寒さから逃れて次々と集まってきます。
とくに冬の間はこの湧水域が“避寒地”として機能し、親子連れのマナティーが何十頭、何百頭と詰めかけるのです。
今回の調査では、成体736頭と子ども80頭この泉に集結していました。
実際の映像がこちら。
※ 視聴の際は音量にご注意ください。
これは同公園で観測された中で過去最大規模の群れであり、まさに歴史的記録となりました。
実は1970年にこの泉で確認されたマナティーはわずか14頭にすぎませんでした。
それがわずか数十年でここまで回復した背景には、長年にわたる地道な保護活動があります。
個体数が大幅に回復した要因とは?

マナティーはもともと、人間の活動によって深刻な脅威にさらされてきました。
とくに問題となったのがボートとの衝突や生息地の破壊による餌不足、水質汚染や藻類の大量発生といった要因です。
これらの要因によって、多くのマナティーが命を落としてきました。
こうした状況を変えるために設立されたのが「セーブ・ザ・マナティー・クラブ」です。
1980年代からブルースプリングを拠点に活動を続けてきたこの団体は、マナティーの識別調査や個体ごとの写真記録、傷跡からの追跡、さらには病気の兆候のモニタリング、子どもの健康チェックなど、さまざまな支援活動を行ってきました。
その成果は数字に表れています。
1991年当時、フロリダ州全体にいたマナティーの数は約1,267頭。それが2025年にはおよそ8,350頭へと増加しているのです。
マナティーはかつて、絶滅危惧レベルが「危機的(endangered)」とされていましたが、保護活動の甲斐もあり、2017年には「脅かされている(threatened)」にランクが変更されています。
このように絶滅が危惧されている生物も熱心に保護活動を行えば、失われかけた種を蘇らせることが可能であることを物語っています。
今回目撃されたマナティーの群れはまさにその証拠となるでしょう。
参考文献
Over 700 Manatees Gather In Florida Park, The Largest Group Ever Seen There
https://www.iflscience.com/over-700-manatees-gather-in-this-florida-park-the-largest-group-its-ever-seen-79442
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部