結婚している・付き合っているパートナーの傾向が突然変化した、という経験はあるでしょうか?
たとえば急に高級なレストランに行きたがるようになったり、これまで無関心だったアウトドアにハマり出したり、あるいは高価なジュエリーやファッションアイテムを買い始めたり――。
実はその変化、パートナーが「誰かに誘惑された」ことのサインかもしれません。
そんな興味深い視点を示したのが、中国・厦門大学(XMU)の研究チームです。
研究者たちは「恋愛関係にある人が、別の魅力的な異性に出会ったとき、どのような消費行動をとるか?」という疑問に、いくつかの実験を通して挑みました。
この研究は2024年12月2日付の『 Current Psychology 』誌に掲載されました。
目次
- 異性に誘惑された時の「男女の消費行動の違い」とは?
- 人は異性に誘惑されると、既存の関係を強めるために「消費行動」を変化させる
異性に誘惑された時の「男女の消費行動の違い」とは?
恋愛における「浮気の兆候」や「関係維持の心理」は、これまでも心理学で長らく研究されてきました。
しかし、多くの研究は性的欲求や関係満足度に焦点を当てており、“消費行動”との関係に注目した研究はきわめて稀でした。
今回の研究チームは、恋愛中の人間が「魅力的な他者」に出会ったとき、どのような行動をとるのか、特に「消費行動のパターン」にどんな変化が起きるのかを追いました。
注目したのは、「体験的消費(旅行、ライブ、スカイダイビングなど)」と「物質的消費(服、アクセサリー、ガジェットなど)」の2つです。
研究は複数の実験から構成されました。
Study 1では、まず非独身の男女(約200名)を対象に、ロマンティックな誘惑を受けた場面と、そうでない場面を想像させ、その後に起こる消費行動の違いを調査しました。

その結果、男性は誘惑後に体験的消費を、女性は物質的消費を選ぶ傾向が顕著に見られました。
つまり男性は、パートナー以外の魅力的な異性に出会ったとき、体験的消費(旅行、冒険など)を選びやすくなり、女性は同様の状況で、物質的消費(服、装飾品)を好む傾向が強まったのです。
この違いの背景には、「どのような魅力的自己像を演出したいか」という性別による違いがあります。
男性は“行動力があり、人生を楽しめる男”というイメージを演出したがります。
一方で、女性は“洗練され、美しく、価値ある女性”という印象を作りたがるという傾向があるとわかります。
では、このような変化は、いわゆる「浮気心」の証拠なのでしょうか?
新しく出会った「魅力的な人」に自分を良く見せたいので、そのように消費行動を変化させるのでしょうか。
続く実験によると、実はその「逆」だったようです。
人は異性に誘惑されると、既存の関係を強めるために「消費行動」を変化させる

Study 2では、独身者と恋愛中の被験者を比較しました。
その結果、魅力的な異性に出会ったとき、消費行動の傾向が変化したのは「非独身者」のみでした。
これは、消費行動が「新しい相手を惹きつけるため」ではなく、「今のパートナーとの関係を補強するため」に行われている証拠と考えられます。
Study 3では、「罪悪感」が測定されました。
その結果、魅力的な異性に出会ったとき、被験者の多くは、今のパートナーに対する罪悪感を覚えると分かりました。
特に、消費行動の傾向が変わった人にその傾向が強く表れました。
Study 4では、被験者に「自分はどれだけ良いパートナーだと思うか」を自己評価してもらいました。
その結果、異性から誘惑された人は、自分をよりポジティブに評価する傾向があり、その感情が消費行動に強く影響していたと分かりました。

これらの研究から分かるのは、既にパートナーがいる人は、魅力的な異性から誘惑された時、その相手に少しでも惹かれてしまった自分に罪悪感を覚え、パートナーとの関係を強めようとすると分かります。
男女でどう行動するかは異なりますが、消費行動によって「より自分を魅力的に見せる」ことで、今のパートナーとの絆を強めようとしていたのです。
もちろん、今回の研究には限界もあります。
たとえばこの研究は主に中国の都市部の若年層を対象にしており、文化的背景や世代、恋愛観の違いによって、異なる結果が出る可能性もあります。
また、実際の購買データではなく「購買意向(どちらを選ぶか)」を測定しているため、実際の行動とは異なるかもしれません。
それでも、今後この研究が発展すれば、恋愛状況を分析するマーケティング戦略や、関係維持のための新しい行動モデルの構築 など、さまざまな分野への応用が期待されます。
そして何より、この研究は、自分のパートナーに生じた小さな“変化”の理由に気づかせてくれます。
「最近、彼がやけにアクティブだな…?」 「彼女が急にブランド物に目覚めたぞ?」
そんな行動変化の裏には、もしかしたら小さな恋の揺らぎが潜んでいるのかもしれません。
参考文献
Encountering romantic temptation nudges men and women toward different types of purchases
https://www.psypost.org/encountering-romantic-temptation-nudges-men-and-women-toward-different-types-of-purchases/
元論文
I am better when I am bad: effects of romantic alternatives on nonsingle men’s versus women’s experiential and material purchases
https://doi.org/10.1007/s12144-024-07068-0
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部