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地球の海が暗く「サングラス化」し中まで光が届かなくなりつつあると判明


イギリスのプリマス大学の研究によると、過去20年間で地球の海の21%が暗くなり、太陽光が届く「フォトゾーン」が最大100メートル浅くなっています。これは、沿岸の栄養塩の流入や気候変動が原因と考えられ、海洋生態系や人間の生活に重大な影響を与える可能性があります。しかし、明るくなった海域も存在しています。研究者たちは、これを「海洋版の森林伐採」と称し、今後の詳しい研究と対策が必要だと指摘しています。

イギリスのプリマス大学(UoP)で行われた研究によって、過去20年間で地球の海の21%が“サングラスを掛けた”かのように暗くなり、太陽光と月光が届く「フォトゾーン」が最大100メートルも浅く縮小していることが判明したと発表。

これは、海の「明るい層」が失われつつあることを意味し、その変化の規模は想像を超えています。

科学者たちはこのままでは地球上でも最大規模の「生き物のすみか」が失われかねないと警鐘を鳴らしています。

海の光景が暗く変わりゆくこの現象は、海洋生態系はもちろん、私たち人間の生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

しかしいったい何が原因で地球の海は暗くなりつつあるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月27日に『Global Change Biology』にて発表されました。

目次

  • なぜ今、海の明るさを測るのか
  • 巨大サングラスをかけ始めた海
  • 生態系・漁業・気候――連鎖する暗黒ドミノ

なぜ今、海の明るさを測るのか

なぜ今、海の明るさを測るのか
なぜ今、海の明るさを測るのか / Credit:Canva

私たちが暮らす地球には、太陽の光が届く「フォトゾーン(有光層)」と呼ばれる海の明るい層があります。

一般に水深約200メートルほどまでの層を指し、海洋生物の約9割がこの光のある領域で暮らしているとされています。

太陽光のおかげで植物プランクトンが光合成を行い、海は地球全体の酸素供給や炭素の循環を支えています。

また、光があることで魚や他の生物も時間帯に合わせた行動ができ、豊かな海の食物連鎖(食物網)や漁業資源が維持されています。

言い換えれば、フォトゾーンは海と地球の生命を支える“青い心臓”ともいえる存在なのです。

しかし近年、沿岸域を中心に海水の透明度が低下し、海が緑色に濁ったり暗くなったりする現象が各地で報告され、海中の光環境の変化が懸念されていました。

栄養豊富な川の水や農業排水が海に流れ込むことでプランクトンが増殖し、水が濁る「グリーン化」や、土砂や有機物の流入で光が減る「暗化」が起きているのです。

とはいえ、こうした変化が地球規模でどの程度進行しているのかはこれまで明らかではありませんでした。

そこで英国プリマス大学とプリマス海洋研究所の研究チームは、衛星データを駆使して約20年間にわたる全球のフォトゾーンの変化を詳しく調べ、この「海の暗化」が世界中で起きているのかを検証することにしました。

巨大サングラスをかけ始めた海

画像
図は、海がどこで「サングラスをかけた」のかをひと目で示す地図と、その影響を受けた海域をランキングしたグラフの2部構成になっています。上の世界地図(パネルA)では、衛星が観測した青緑色の光(490 nm)が年々どれだけ減衰したかを色で表現しており、赤い部分は水がより光を吸い込んで暗くなっている場所青い部分は逆に明るくなっている場所、白は統計的に変化のない場所を示します。北極・南極周辺や北東大西洋、北西太平洋などの広い海域が深い赤で染まっていることから、暗化が沿岸だけでなく外洋の主要海域にも及んでいる様子が直感的に分かります 。下の棒グラフ(パネルB)は国際水路機関(IHO)が区分する各海域を、面積のうち何%が暗化したかで順位付けしたもので、バーが高いほどその海域で暗化が進んでいる割合が大きいことを示しています。同じ図には、バーの上に実際に暗化した面積(1万 km²単位)が数字で載っており、たとえばボスニア湾では半分以上の海面で光が届きにくくなったことが一目で分かります。

研究チームは2003年から2022年まで約20年間にわたり、衛星による海洋観測データを解析して海の明るさの変遷を追いました。

NASAの地球観測衛星「MODIS Aqua」が提供する490nmでの光減衰係数(Kd(490))という指標に注目し、水中で光がどれだけ減衰するか(つまり水の透明度)を全球で比較したのです。

この係数は値が大きいほど水が濁って光が届きにくいことを示すため、Kd(490)の増減から各海域の「明るさ」の変化を評価できます。

研究者らは海全体を約9km四方ごとのグリッド(ピクセル)に区切り、各地点のフォトゾーンの深さ(光が届く水深)を算出して年ごとの変化を解析しました。

今回は従来の“表層光量の1%”のみを基準とするのではなく、Calanus属プランクトンの光感受性を取り入れてフォトゾーンを定義し、夜間に届く月光による光環境の変化も含めて詳細に評価されています。

こうした手法により、世界中のどの海域で水中の光が強まり、どこで弱まっているのかをマッピングしたのです。

その結果、海の光の届き方には驚くべき変化が起きていることが判明しました。

主な数字を挙げると次の通りです。

21%にあたる広大な海域で、フォトゾーンの深さが有意に浅くなり(水が暗くなり)、光の届く生息空間が縮小しました。

9%(面積にして約3,200万平方キロメートル、アフリカ大陸に匹敵する広さ)の海ではフォトゾーンの深さが50メートル以上も減少しました。

そのうち2.6%の海域では、フォトゾーンが100メートル以上も浅くなる大幅な暗化が見られました。

一方で全球の約10%(約3,700万平方キロメートル)にあたる海域では、逆に光の届く層が深くなり(水が明るくなり)、フォトゾーンが拡大していました。

研究チームが作成した地図(本記事では非掲載)によると、赤い部分が暗化(フォトゾーンが浅くなった)した海域、青い部分は明るく(フォトゾーンが深くなった)なった海域、白は有意な変化が見られなかった海域を示しています。

実際、海が暗くなった傾向は特定の地域で顕著でした。

外洋では北大西洋のメキシコ湾流の北部や北極海・南極海の周辺でフォトゾーンの大幅な浅化が観測されており、こうした地域は気候変動の影響が特に顕著な海域でもあります。

また、沿岸域や内海でも暗化が広がっており、例えばバルト海などでは陸地からの大雨や河川を通じた栄養塩・土砂の流入によってプランクトンが増え、水が濁って光が減少したと考えられます。

論文の図1 B(IHO 海域別ランキングの棒グラフ)では、日本にかかる主要 3 海域(日本海、オホーツク海、太平洋の北西の沖合)はいずれも上位 4 分の1 以内に入っており、特に 日本海が4位という突出した値を示しています。図1 A で北海道以北や日本海側が濃い赤で塗られているビジュアルを数量面で裏づけています。特に日本海は、面積の約半分(46~48%)が暗化判定を受けたという点で、地中海やカリフォルニア沖と並ぶ“暗化ホットスポット”と研究チームが位置づけています。

ただし、海が暗くなる一方で明るさが増した海域も存在します。

研究によれば、同じ20年の間に全球の約1割ではフォトゾーンが深くなり水中の光環境が改善していました。

地域によって変化の方向は様々で、例えばイギリス周辺では北海の一部が暗くなった一方、イングランド南岸の海峡やスコットランド北方の海域では明るくなったところも報告されています。

このように地域ごとの差異はあるものの、全体としては「海が暗くなる」という大きな世界的傾向が浮かび上がったと研究チームは結論づけました。

生態系・漁業・気候――連鎖する暗黒ドミノ

生態系・漁業・気候――連鎖する暗黒ドミノ
生態系・漁業・気候――連鎖する暗黒ドミノ / Credit:Canva

では、なぜ海はこのように暗くなっているのでしょうか。

研究者たちは、その原因は一つではなく複数の要因が重なっていると指摘しています。

沿岸では、人間の活動に伴う栄養塩や有機物の流入増加(農業からの肥料流出や豪雨の頻発など)により水中のプランクトンや泥などの粒子が増え、光が遮られている可能性があります。

一方、外洋では気候変動による海洋循環パターンや水温の変化がプランクトンの繁茂パターンを左右し、水の透明度低下につながっていると考えられます。

要するに、沿岸からの汚濁物質の供給増加と地球規模の気候変動という二つの潮流が相まって、世界の海で光が届きにくくなっているのです。

さらに研究では、夜間に月光が届く層も浅くなっている可能性が示唆され、夜行性の生物にとっても深刻な影響が出るかもしれないといいます。

光が届く海の層が縮むことは、生き物にとって「住める場所」が小さくなることを意味します。

フォトゾーンが浅くなると、そこで光を頼りに生きるプランクトンや魚などの生物はより表層近くに集まらざるを得なくなります。

「もし広大な海域でフォトゾーンが約50メートルも縮小したら、光を必要とする生物たちは表層へ押しやられ、餌や生息場所をめぐって互いに競争しなければならなくなるでしょう。それは海洋生態系全体に根本的な変化をもたらす可能性があります」と、プリマス海洋研究所のティム・スマイス教授(Tim Smyth)は警告しています。

研究チームはこの暗化現象を「海洋版の森林伐採」と呼ぶこともあり、「地球上でも最大級の生息域喪失の一つ」に相当すると表現し、今後さらに詳しく調査する必要があると述べています。

さらに、このフォトゾーンの変化は海の生物だけでなく私たち人間にも無関係ではありません。

「私たち人間も、呼吸する空気や食べ物となる魚、気候の調節といったあらゆる面で海のフォトゾーンに頼っています。そう考えると、今回の発見が示す状況は本当に懸念すべき事態だと言えます」と、本研究を主導したプリマス大学のトーマス・デイビス准教授(Associate Professor)はコメントしています。

現時点で海の暗化が具体的にどのような影響を及ぼすかは完全には解明されていませんが、その影響は「深刻なものになる可能性が高い」と研究者らは指摘しています。

今後は、要因のさらなる特定や地域ごとの詳細なデータ収集を通じて、10年・20年という長期スパンで暗化の進行度合いを把握し、対策を講じる必要があるでしょう。

静かに進行する海の暗化は、地球規模で起きている重大な環境変化として捉えられており、生態系への影響を引き続き研究するとともに、その動向を注視していくことが求められます。

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元論文

Darkening of the Global Ocean
https://doi.org/10.1111/gcb.70227

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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