南米アマゾンの熱帯雨林では以前から、「金」を得るために土壌の採掘が行われてきました。
ところが金採掘が一度なされた場所では、どれだけ時間が経っても森林が再生しない現象が知られています。
これは一体なぜなのか、長年の謎となっていました。
しかし今回、米・南カリフォルニア大学(USC)の最新研究で、ついにその謎が解明されたようです。
報告によると、アマゾン熱帯雨林で採用されている金採掘の特殊な方法が原因で、地形そのものが変わり、水が保てない土地に変わっていたことがわかりました。
詳しく見てみましょう。
研究の詳細は2025年5月19日付で科学雑誌『Communications Earth &Environment』に掲載されています。
目次
- 金採掘で何が起こっていたのか?
- 森林が再生できない仕組み
金採掘で何が起こっていたのか?
研究チームは今回、南米ペルーのマードレ・デ・ディオス地域の熱帯雨林にある2カ所の放棄された金採掘跡地を調査しました。
採掘が行われたのは小規模な現場で、いずれでも通常の採掘方法とは異なる「サクション・マイニング(suction mining)」という方式が行われています。
サクション・マイニングとは、高圧の水砲で地面を洗い流し、金粒子を含む土砂を水で流しながら選別する手法です。
水と混ざった土砂が泥水のような状態になり、傾斜のある水路(スルース)に流されます。
この水路では、比重の重い金粒が沈殿し、軽い土や有機物(栄養豊富な表土など)はそのまま流れ去ってしまいます。
そして金だけを選別したあとは、大量の砂の山・砂利・石くれや、人工的にできた水たまり(停滞池)が現場に残されるのです。
(重機を使った通常の掘削式の採掘方法であれば、地面を物理的に掘り返して金を探すので、表土の一部を回収・再利用でき、土壌損傷が少ない場合があります)

チームはドローンと土壌センサー、電気抵抗トモグラフィーと呼ばれる最新の技術を駆使し、土地の温度・水分・地中構造を調査しました。
すると、砂の山の表面温度はなんと摂氏60度に達し、周囲の森林に覆われた土壌に比べて最大100倍もの速度で水分が排出されることが判明したのです。
土壌の深さ1.5~2メートルにわたり乾燥した層が広がっており、雨が降ってもすぐに蒸発。地中に水がとどまらず、植物の根が水を吸収できない状態になっていました。
チームを率いたウッドウェル気候研究センターのアブラ・アトウッド博士は「苗木を植えても、まるでオーブンの中で木を育てるようなものです」と語っています。
森林が再生できない仕組み
では、なぜこうした砂の山や停滞池が森林再生を阻んでいるのでしょうか?
本来の森林土壌は、雨水を適度に保持し、根に水分を届ける「スポンジ」のような機能を果たしています。
しかしサクション・マイニング後の土地では、そのスポンジが消え去り、砂利だらけの“ザル”に変わってしまっています。
地表は熱を吸収して灼熱化し、降った雨はすぐに地下深くに消えてしまう。結果、木の苗は乾燥と高温で枯れてしまうのです。

一方、調査では標高の低い場所では土壌水分が高く、自然再生が進んでいることもわかりました。
これは地下水へのアクセスが比較的確保されているためであり、森林再生において「水へのアクセス」が決定的なカギを握っていることを示しています。
この研究により、これまでのように「苗木を植えればそのうち回復する」といった楽観的な再植林戦略では不十分であることが明確になりました。
チームは、再生を成功させるには次のような対策が必要だと提言しています。
・採掘で形成された砂山を平坦化し、表面の過熱を防ぐこと
・人工池や水たまりを埋め戻し、地下水位を上げること
・吸水性のある土壌材を使用し、根が水分に届く環境を整えること
これらの対策により、植物が地下水を吸えるようになり、再植林の生存率が格段に向上する可能性があります。
金採掘が行われたアマゾン熱帯雨林では、自然環境が元に戻るまでに数十年以上の年月が必要とされており、森林再生のためには人為的な地形修復が不可欠となるのです。
参考文献
Why forests aren’t coming back after gold mining in the Amazon
https://dornsife.usc.edu/news/stories/amazon-gold-mining-impedes-reforestation-efforts/#:~:text=Key%20findings%3A,of%20sand%20and%20stagnant%20ponds.
元論文
“Landscape controls on water availability limit revegetation after artisanal gold mining in the Peruvian Amazon”(Atwood et al. 2025)datasets
https://doi.org/10.4211/hs.05a0490e971f491fa64c62cbde499a6a
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部