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ダイソン球は恒星版ケスラーシンドローム地獄を作る


オックスフォード大学の研究により、ダイソン・スウォームのような巨大宇宙構造物は、管理不足により恒星版ケスラーシンドロームのような連鎖衝突を引き起こし、自滅する可能性が高いことが示されました。これにより、地球外文明がダイソン・スウォームを維持するのは極めて難しいと結論づけられ、長期間にわたる安定運用が求められることが明らかになりました。この研究はダイソン球が見つからない理由の一端を説明しており、長期維持の挑戦とそのための高度な管理の重要性を浮き彫りにしています。

無数の人工衛星(スペースソーラーパネル)を恒星の周囲に敷き詰め、そのエネルギーを丸ごと収穫する――SFで描かれるそんな「ダイソン球」の亜種型として知られるダイソン・スウォームの未来像に、思わぬ落とし穴が見つかったようです。

イギリスのオックスフォード大学(Oxford)で行われた研究によって、このような巨大構造体は放っておけば“恒星版ケスラーシンドローム”とも言える連鎖衝突によって自滅しかねないことが示されました。

もし宇宙人が管理を怠れば、恒星を覆うメガ構造の維持は難しく、人類が発見する前に失われてしまうかもしれません。

これまでダイソン球が見つかっていないのも、もしかすると維持管理の困難さが大きな原因なのでしょうか。

この研究成果は2025年4月29日にプレプリントサーバー『arXiv』にて発表されました。

目次

  • ダイソン球とは何か? 夢と現実のギャップ
  • ダイソン球が見つからない本当の理由とは?
  • 塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓

ダイソン球とは何か? 夢と現実のギャップ

典型的なダイソン球は強固なフレームで 恒星を完全に覆ってしまいます
典型的なダイソン球は強固なフレームで 恒星を完全に覆ってしまいます / Credit:Canva

恒星の周囲を無数の人工物で取り囲み、その放射エネルギーを余すところなく回収するという発想が「ダイソン球」です。

1960年代に物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した概念で、人類よりはるかに進んだカルダシェフ・スケールII(タイプII)の文明が、自らの恒星から膨大なエネルギーを得る手段として想定しました。

極端に言えば、地球上のエネルギー問題を解決する究極策として太陽を丸ごと発電所にするようなものです。

SF作品でもたびたび登場するロマンあふれるアイデアですが、実現には途方もない工学技術が必要になるため、現実にはまだ遠い未来の話です。

ただアイディアの発展は続いており、ダイソン球として様々な構想が提示され、亜種が増え続けています。

その中で最も有力視されているのがダイソン・スウォームと呼ばれるものです。

ダイソン球の一種ダイソン・スウォームは 無数の太陽光パネルで恒星を囲みます
ダイソン球の一種ダイソン・スウォームは 無数の太陽光パネルで恒星を囲みます / Credit:clip studio . 川勝康弘

「ダイソン・スウォーム(群)」は言わば宇宙版ソーラーパネルの大群で、百万~数十億もの小型衛星が所定の軌道を公転しながら恒星エネルギーを収集します。

これだけの数の人工物を安定に運用するには極めて高度な自律制御システムや冗長なバックアップ機構が必須であり、何千年・何万年もの長期にわたって自己修復しながら動き続けることが求められます。

もし制御が途切れれば衛星同士が衝突を起こし、ドミノ倒しのようにシステム全体が崩壊してしまう危険性があるのです。

ダイソン球は地球外知的生命探査(SETI)においても重要な概念です。

高度文明がダイソン球を建設すれば、恒星から放射される可視光線の多くを遮って代わりに赤外線の廃熱として放出するはずだと考えられています。

この特徴的な赤外線信号は遠方からでも観測可能なテクノシグネチャー(人工物のしるし)になり得るため、科学者たちは宇宙望遠鏡データの中から「不自然に赤外線が強い恒星」を探してきました。

過去には赤外線天文衛星WISEのデータなどからいくつかの候補星が報告されたこともありますが、後の解析で星の背後にあった塵だらけの銀河による紛れ込みだった可能性が指摘されるなど、いまだ決定的な証拠は見つかっていません。

ではなぜ、これほど合理的にも思えるダイソン球がどの星にも見当たらないのでしょうか。

今回発表された新たな研究は、その理由の一端を示すものかもしれません。

ダイソン球が見つからない本当の理由とは?

ダイソン球が見つからない本当の理由とは?
ダイソン球が見つからない本当の理由とは? / Credit:Canva

なぜ異性文明の構築したダイソン・スウォームがみつからないのか?

考えられる答えは2つあります。

1つは観察可能な範囲に異性文明が存在しない可能性。

もう1つはダイソン・スウォームという巨大建造物の維持運営の困難さに起因するものです。

つまり、ダイソン・スウォームのような無数の人工衛星を長期間に渡り恒星の周りに張り付けておくことは、思いのほか難しい可能性があったのです。

そこでラクキー氏は超高度文明が構築した人工衛星の“大群”が長期間にわたり存続できるかどうか、詳細な理論検討とシミュレーションを行いました。

その結果、何もしなければ避けがたい連鎖衝突(コリジョン・カスケード)の脅威が浮かび上がりました。

これは、地球周回軌道の宇宙ごみ問題で知られるケスラーシンドロームにも似た現象です。

一基の衛星が故障して軌道制御を失うと、やがて別の衛星と衝突して大量の破片(デブリ)を生みます。

その破片はさらに別の衛星に次々と衝突し、連鎖的に衝突事故が広がってしまいます。

ダイソン球という巨大システムにおいて最初の衝突が発生するまでの時間は、「衛星群が覆う面積の割合で軌道周期を割った程度」しかないという計算も示されました。

言い換えれば、恒星を取り囲む範囲(カバー率)が大きいほど衝突開始までの時間が短くなるということです。

エネルギーを効率よく集めようと衛星を高密度に配置すれば、それだけ早くカスケード崩壊が始まるわけです。

もちろん高度文明も衛星が安定して運行できるよう軌道を構造化するでしょう。

たとえば赤道面に複数のリング状軌道帯を作るなどの工夫が考えられますが、ラクキー氏によれば、そうした方法でも初期衝突の発生を大幅には遅らせにくいそうです。

「ある程度のランダム要素が加われば、結局衝突は避けられない」という指摘です。

ただし軌道を整然と配置することで衝突時の相対速度を下げる効果は期待できます。

低速の衝突なら破片の飛散が多少抑えられるため、カスケードの増幅を鈍化させることはできるでしょう。

しかし一度でも高速衝突(ハイパーベロシティ衝突)が発生すれば危機的です。

ラクキー氏は「ひとたび衝突カスケードが始まれば、超高速衝突の場合は極めて迅速に壊滅的な事態へ発展する」と強調しています。

まさに宇宙規模のドミノ倒しです。

さらに長い目で見ると、静的な衛星配置ではいずれ破綻すると結論づけました。

恒星系内の他の天体による重力擾乱が無視できないためです。

例えばその恒星系に木星クラスの巨大惑星が存在したり、恒星が連星系だったりすると、重力の影響でダイソン・スウォームの衛星軌道は少しずつズレを蓄積します。

リドフ-コザイ効果などによって、当初は別々の軌道面を回っていた衛星同士が数百万年スケールで傾斜角を変化させ、最終的には衝突コースに乗る可能性があるそうです。

ラクキー氏の計算では、太陽系を例にすると木星のような惑星の重力だけで数百万年以内に衛星群が不安定化し得るとのことです。

連星の場合はわずか数千年で衝突カスケードが誘発されるケースもあるといいます。

数百万年や数千年といった時間は人類史から見れば途方もなく長いですが、恒星規模の構造物を維持するには決して十分とはいえません。

さらに恒星の放射エネルギーも問題です。

ヤルコフスキー効果によって、衛星が自転しながら日射と熱放射を不均衡に受けると、経年で徐々に軌道にズレが生じます。

同じ軌道帯に投入した衛星がばらける原因になりうるのです。

恒星の自転による重力場の歪みや、太陽風・コロナ質量放出(CME)などの宇宙天気も、衛星群に少なからぬ影響を与えます。

このように多種多様な要因が重なり合い、ダイソン・スウォームは放置すると軌道ゆらぎを蓄積し、いずれ衝突コースへと入ってしまうというわけです。

塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓

塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓
塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓 / 太陽光パネルの残骸で覆われている恒星/Credit:clip studio . 川勝康弘

これらの結果が示すのは、たとえ恒星を囲む壮大なメガ構造を築けるほど技術が発達した文明でも、その維持には絶え間ない管理が欠かせないという厳しい現実です。

ラクキー氏は論文の中で「一見するとメガスウォームは不変で無敵な永久構造にも思えるかもしれないが、積極的な維持管理なしには長持ちしない」と述べています。

重力や輻射による摂動を完全に封じ込める方法はなく、放置すれば軌道が重なって衛星同士が衝突し、やがて全体が粉砕されてしまうからです。

そのため超高度文明がダイソン球を運用し続けるには、軌道空間を徹底的に制御し、壊れた衛星を修理・交換し続ける必要があります。

そこまでの労力を長期間にわたり文明全体で支えられるかどうか、社会的・政治的にも大きな課題になるでしょう。

(※AIによるパネル間距離の自動制御などの仕組みも管理維持においては重要になるでしょう。)

もしそうした努力を惜しめば、結局「塵と化す」未来を迎えてしまうかもしれません。

今回の研究は、「なぜダイソン球が見つからないのか」という問いに対する一つの答えを与えているとも言えます。

構想としては合理的に見えるダイソン球でも、長期的には崩壊リスクが極めて高いため、積極的に維持されていなければ観測される間もなく消えてしまうのかもしれません。

もちろん論文では衝突回避策も検討されており、自己修復・自己複製可能な衛星群や軌道清掃のアイデアなども提案されています。

しかしどれも実行には困難が伴い、恒星スケールのプロジェクトを維持するのがいかに難しいかが改めて浮き彫りになりました。

私たち人類が将来、太陽系規模のエネルギー計画に乗り出すなら、こうした研究から得られる教訓はとても大きいです。

いつか宇宙にソーラーパネルを敷き詰める日は来るのでしょうか。

そのときは「ダイソン球崩壊シンドローム」を防ぐために、壮大な維持管理システムの構築が不可欠になるはずです。

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元論文

Ground to Dust: Collisional Cascades and the Fate of Kardashev II Megaswarms
https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.21151

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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