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856回ヘビの毒を注射した男のハイパー抗体から「猛毒19種から保護する抗毒素」が誕生!【ヘビ毒の万能薬へ】


アメリカのバイオ医薬企業、Centivax社の研究チームは、特定の毒ヘビ19種に対する広域解毒カクテルを開発中。ティム・フリード氏は、自らの体に856回毒を注射し免疫を強化することで、多様な毒ヘビに対応する抗体を得た。この抗体を元にした解毒カクテルは、既存の毒素阻害剤varespladibと組み合わせ、19種の猛毒に対して最大100%の防御効果をマウス実験で示しました。この研究は2025年に科学誌『Cell』に掲載され、幅広い効能を持つ新たな解毒薬として注目されています。

自分の体にヘビの毒を856回も注射するーーそんな狂気の行動が、世界中の命を救うかもしれません。

信じがたいこの話は、実際にアメリカで行われた最先端の免疫学研究に基づいています。

バイオ医薬企業Centivax社の研究チームは、「世界で最も危険なヘビ毒19種に効く広域解毒カクテル」を開発中だと報告しました。

すでにマウス実験ではその成果が出ており、年間10万人の命を奪うとされる毒ヘビ咬傷に対して画期的な治療法として注目されています。

狂気の行動から「ヘビ毒の万能薬」が生まれようとしているのです。

この成果は、2025年5月2日付の科学誌『Cell』に掲載されました。

目次

  • ヘビ毒を856回も注射した男性から「ハイパー抗体」が得られる!
  • 「3剤カクテル」は猛毒19種に保護効果を示す!万能薬の誕生に近づく

ヘビ毒を856回も注射した男性から「ハイパー抗体」が得られる!

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ヘビ毒による死者は後を絶たない / Credit:Canva

蛇に咬まれて死亡する事故は、21世紀に入った今なお、特にアジアやアフリカの農村地帯で頻発しています。

WHOの推計によれば、毎年8万人から13万8千人が毒ヘビにより命を落とし、30万人から40万人が四肢切断などの重い後遺症を負っているとされています。

現在の標準治療は、主に馬などの動物に毒を注射して、その血液から抗体を取り、それを人間に投与する血清療法です。

しかしこの手法には、特定の毒ヘビにしか効かないこと、副作用が出やすいこと、動物に依存しており保存も困難であることなど、さまざまな課題があります。

そのため、どの毒ヘビにも効くヒト由来で安全な解毒薬が長年求められてきました。

このような背景の中で、異色の人物が現れました。

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ヘビ毒856回注射した男からハイパー抗体が得られる / Credit:Canva, Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

2001年から17年間にわたり、世界中の毒ヘビの毒を自身の体に合計856回も注射した男性がいたのです。

彼(ティム・フリード氏)は、少量の毒を何度も体に打ち込むことで免疫系を鍛え、どんな毒にも反応できる抗体を自らの体内に作り出そうとしていました。

彼が扱った毒には、ブラックマンバ、タイパンなどが含まれており、その種類は極めて多様です。

そして、この“ハイパー免疫者”の血液は、まさに解毒剤の宝庫でした

彼の体は、一度に数種類のヘビの神経毒に効果のある抗体を生成していたのです。

そこで研究チームは彼の血液から毒に対して幅広く反応する抗体を選別しました。

その結果、2種類の強力な抗体(LNX-D09とSNX-B03)が発見されました。

さらに、既存の毒素阻害剤であるバレスプラジブ(varespladib)を加えることで、3成分からなる解毒カクテルが完成したのです。

「3剤カクテル」は猛毒19種に保護効果を示す!万能薬の誕生に近づく

この解毒カクテルは本当に有効なのでしょうか。

研究チームは、WHOが最も危険と定めるカテゴリー1および2に分類された毒ヘビ19種の毒液を用い、マウスを使った実験を行いました。

対象となったヘビは、ケープコブラ、ブラックマンバ、キングコブラ、タイパン、タイガースネークなど、地域も属も異なる猛毒種でした。

それぞれの毒液を致死量でマウスに注射したところ、当然ながらすべてのマウスが死亡しました。

しかし、LNX-D09、SNX-B03、varespladibの3剤カクテルを投与すると、すべてのケースでマウスに対する防御効果が得られました。

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13種類の猛毒に対して100%、6種類の猛毒に対して部分的な防御効果を与える抗毒素が誕生 / Credit:Jacob Glanville(Centivax)et al., Cell(2025)

研究チームによると、この新しい抗毒素(毒素を中和できる抗体のこと)は「13種類の毒に対して100%の防御効果を示し、残りの6種類の毒に対しては部分的な防御効果を示した」とのことです。

この結果は非常に驚くべきものです。

それぞれの成分が異なる毒の主成分に対して作用することで、3剤カクテルは毒の多様性を網羅的にカバーできたのです。

研究チームは、この3剤カクテルに4つ目の成分を加えることで「万能抗毒素」を開発できると考えており、「4つ目の因子は何だろう?」と新しい追加成分を探しています。

そしてその間も、今回開発された抗毒素の研究は続けられます。

ヒト臨床試験でその有効性が裏付けられるなら、より安価で容易な治療が可能になると考えられます。

ダメになりやすく高価な抗毒素を複数保管する代わりに、この製剤を1種常備するだけでよいのです。

約60種の毒ヘビが生息するするインドのような国では、まさに万能薬のように活躍するでしょう。

また、世界中のどこでヘビに咬まれても、同じ薬で治療できるようになるかもしれません。

これはつまり、解毒の革命が始まろうとしている、ということです。

そしてその始まりは、一人の男性の“狂気”じみた行動でした。

856回もの毒注射によって生み出された抗体が、世界中の命を救う「万能解毒薬」の礎になろうとしています。

 

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参考文献

One man, 856 venom hits, and the path to a universal snakebite cure
https://newatlas.com/biology/universal-snakebite-cure-man-856-venom-hits/

This man injected himself with snake venom 856 times, helping create an antivenom for all snakes
https://www.scimex.org/newsfeed/a-man-injected-himself-with-snake-venom-856-times-and-may-have-helped-create-an-antivenom-for-all-snakes

元論文

Snake venom protection by a cocktail of varespladib and broadly neutralizing human antibodies
https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.03.050

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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