海の底、誰も足を踏み入れたことのない深海には、まだ人類の知らない世界が広がっています。
今回、そんな未知の世界に挑んだのが、日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のチームです。
調査チームは、2020年に新たに指定された日本の沖合深海底の海洋保護区で、大規模なモニタリングを実施。
その結果、驚くべきことに15種もの新種生物を発見し、さらに7000歳を超える巨大なツノサンゴや深海の頂点捕食者であるヨコヅナイワシを見つけることにも成功しました。
目次
- 新たに指定された日本の「深海保護区」
- 15種の新種生物を発見!7000歳のサンゴやヨコヅナイワシも
新たに指定された日本の「深海保護区」
海洋環境の悪化が地球規模で深刻化するなか、2010年に愛知県で開催された生物多様性に関する国際会議では、未来に向けた新たな戦略「愛知目標」が採択されました。
この会議では「2050年までに健全な地球を維持し、すべての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される」ことを新たな戦略目標とすることが採択されています。
これ「愛知目標」です。
その一環として、各国は2020年までに海域の10%以上を保護区として保全することが求められました。
日本は当時、海域の保護率が8.3%にとどまっていましたが、2020年12月、新たに「沖合海底自然環境保全地域」を指定することで、保護率を13.3%に引き上げ、目標を達成しています(下図を参照)。

指定された保護区は、伊豆・小笠原海溝、中マリアナ海嶺と西マリアナ海嶺、西七島海嶺、マリアナ海溝北部の4つの海域にまたがります。
これらは水深2000メートルを超える深海底に広がる領域であり、特殊な技術や設備がなければ調査が難しい場所です。
そこでJAMSTECのチームは、さまざまな調査船や無人探査機を使用して、大規模な深海モニタリングを実施。
その結果、深海には驚きの世界が広がっていたのです。
15種の新種生物を発見!7000歳のサンゴやヨコヅナイワシも
モニタリング調査の成果は、まさに驚くべきものでした。
JAMSTECのチームは、調査航海5回、計58日間にわたる調査を通じて、500種以上の生物を確認し、そのうち15種が新種であることを突き止めたのです。
これら新種は、刺胞動物門、紐形動物門、環形動物門、節足動物門、棘皮動物門に属しており、特に節足動物の新種が多く確認されました。
新種が発見された水深は400~3623メートルに及び、特に西七島海嶺では10種もの新種が見つかりました。
こちらが新種たちの写真。

さらに調査の中で特に注目されたのは、推定7000歳を超えるとされるツノサンゴが見つかったことです。
西マリアナ海嶺の水深525メートル地点で発見されたこのツノサンゴの群体は、高さ約308センチメートル、幅441センチメートル、基部の直径28センチメートルにも達していました。
成長速度から計算すると、7000年もの歳月をかけて育ったと推定され、地球上で最も長寿な生物のひとつである可能性が示唆されています。
それから西七島海嶺では、深海域のトップ・プレデター(頂点捕食者)であり、希少種として知られる「ヨコヅナイワシ」(最大全長は253センチメートルにもなる)も確認されました。
ヨコヅナイワシは水深2000メートルを超える深海に棲む硬骨魚類として世界最大級であり、その生態には今なお謎が多く、今後の研究が期待されています。

今回の調査で、沖合海底自然環境保全地域が健全な状態を維持していることが確認され、保護区指定の意義が改めて浮き彫りになりました。
一方で、深海生物の多様性についてはまだ十分に解明されておらず、今後も引き続き調査とモニタリングを続けることが求められます。
地球最後のフロンティアとも言われる深海。そこにはまだ、私たちの想像を超える命の営みが広がっています。
そして、それを知ることが、未来の地球を守る大きな一歩となるのです。
参考文献
沖合深海底の海洋保護区から15種の新種を発見
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20250417/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部