嗅覚を使ってトリュフを探すブタがいることは知られています。
しかしまさかゴリラまでもがトリュフを探していたとは、誰が想像したでしょうか。
この驚きの行動は、中部アフリカ・コンゴ共和国にあるヌアバレ=ンドキ国立公園(Nouabalé-Ndoki National Park)に暮らす「ニシローランドゴリラ」で発見されたものです。
実は何年も前からこの行動は観察されてきたのですが、研究者らは「ただ地面を掘って虫を探しているだけ」と考えてきました。
しかしコンゴの野生生物保全協会(WCS)の最新研究で、ゴリラは昆虫ではなくトリュフを掘り当てていたことが判明したのです。
研究の詳細は2024年9月20日付で科学雑誌『Primates』に掲載されています。
目次
- 地中深くのトリュフを掘り当てていた!
- トリュフ掘りは仲間に伝播する?
地中深くのトリュフを掘り当てていた!
ヌアバレ=ンドキ国立公園に暮らすニシローランドゴリラ(学名:Gorilla gorilla gorilla)は何年も前から、地面を引っかいて何かを掘っている様子がたびたび観察されてきました。
研究者らはそれが主に昆虫を探す行動だと考えていました。
ところが10年にわたる詳細な観察と調査により、その目的が全く異なることが明らかになったのです。
ニシローランドゴリラたちは、実は地中に隠れているトリュフの一種(Elaphomyces labyrinthinus)を掘り当てていることが確かめられました。
このトリュフは地中深くに埋まっており、嗅覚や記憶、そして手先の器用さを駆使しないと見つけ出せないことで知られています。

また研究チームが、 複数のゴリラ群を対象に観察したところ、特定の群れではトリュフを掘る行動が頻繁に見られるのに対し、別の群れではほとんど見られないという違いも確認されました。
この行動は、単なる個体の癖ではなく、社会的あるいは文化的な要素が含まれている可能性があると研究者たちは指摘しています。
トリュフ掘りは仲間に伝播する?
また興味深いことに、ある雌のゴリラが地元の群れを離れて別の群れに参加した後、それまで行っていなかったトリュフ掘りの行動を始める様子が観察されました。
これはトリュフ堀りの行動が環境要因だけでなく、社会的な影響によっても変化することを示しています。
この発見は、野生動物の「文化」的行動を示す証拠のひとつとされ、チンパンジーやオランウータンに見られる行動伝播と同様、ゴリラにも文化的伝承がある可能性が浮かび上がってきました。

この研究を主導したガストン・アベア(Gaston Abea)氏は、ヌアバレ=ンドキ国立公園に最も近い村ボマッサ(Bomassa)の出身で、先住民バアカ族(Ba’Aka)の出自を持っています。
2000年に保護区での勤務を始めた彼は、地元の自然に対する深い理解と、追跡技術における卓越した能力を活かし、徐々に研究の世界へと足を踏み入れました。
2005年以降、彼はヌアバレ=ンドキ地域で訓練を受けた100人以上のコンゴ人研究アシスタントのうちの一人となり、現在ではこれまでに7本の論文に共著者として名を連ねるほどになっています。
そして今回の研究が、自身の研究キャリアにおいて初めて筆頭著者として発表した記念すべき論文となりました。
アベア氏はこう話しています。
「かつて私たちの祖先はゴリラを狩っていました。しかし今は保護する立場にあります。
これからは自分のような若いバアカ族が、保全の担い手として活躍することを願っています」
参考文献
Gorillas in Congo’s Nouabalé-Ndoki National Park Scratch the Ground for Truffles, Not for Insects as Long Assumed
https://newsroom.wcs.org/News-Releases/articleType/ArticleView/articleId/24325/Gorillas-in-Congos-Nouabale-Ndoki-National-Park-Scratch-the-Ground-for-Truffles-Not-for-Insects-as-Long-Assumed.aspx
元論文
Long-term observations in the Ndoki forest resolve enduring questions about truffle foraging by western lowland gorillas
https://doi.org/10.1007/s10329-024-01151-7
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部