テラフォーミングとは、地球外の惑星を改造して人類が住める環境にする計画です。
その最有力候補となっている惑星は「火星」ですが、ポーランド科学アカデミー(PAN)のレシェク・チェホフスキ(Leszek Czechowski)博士は、とんでもなく大胆な火星のテラフォーミング方法を提案しています。
それは火星に氷でできた小惑星をぶつけるというものです。
これにより「火星の極端に低い気圧を高めながら、気温を上げ、液体をもたらすことが理論上可能である」といいます。
研究の詳細は2025年3月に開催された第56回月・惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference)で発表されました。
目次
- 火星に「氷の岩」をぶつける? 奇抜に見えて実は合理的
- 氷の小惑星をどこから持ってくるのか?
火星に「氷の岩」をぶつける? 奇抜に見えて実は合理的
現在、火星の大気圧は地球の約0.6%(1000分の6)しかないほど薄い状態です。
そのため、私たちが生身のままスーツなしで火星の大地に立つと、体内の水分がすぐに沸騰し、爆発してしまいかねません。
また火星の気温は平均でも-60℃と低く、川や海のような液体も確認できていません。
そこでチェホフスキ博士は、火星の大気圧を人間でも住めるレベルにする方法として、氷の小惑星をぶつけるという方法を提案します。

今回のチェホフスキ博士の研究では、主に理論モデルとエネルギー計算を用いて、火星の気圧を「最低限、人体が即死しないレベル」まで高めるのに必要な物質量とその搬送手段を試算しました。
その結果、氷の小惑星を火星に数回衝突させることで、気圧上昇と温暖化の両方に効果がある可能性が見出されました。
氷の小惑星を火星にぶつけると、衝突の熱エネルギーによって大量の水蒸気やガスが放出され、大気の形成の一助になると考えられるのです。
これは奇抜で無謀な提案に見えますが、火星のような巨大な惑星の大気圧や気温を変える上では、実は合理的な方法なのです。
しかし問題は別にあります。
それは氷の小惑星はどこから持ってくるのかということです。
氷の小惑星をどこから持ってくるのか?
チェホフスキ博士が着目しているのが、火星より外側に位置するカイパーベルト(Kuiper Belt)です。
カイパーベルトには氷を多く含んだ小天体が無数に存在していることがわかっています。
しかし問題は、こうした天体をどうやって火星まで運び、安全かつ効果的に衝突させるかという点にあります。
カイパーベルトの天体は、太陽に近づきすぎると熱や重力で崩壊する可能性があり、また重力アシストなどで導くと途中で失敗するおそれもあります。
そこで博士は、重力ではなく、核融合炉で駆動するイオンエンジンのような推進装置を作り、それによって氷の小惑星を軌道制御する方法を提案しています。
ただこうしたイオンエンジンの開発は、まだ空想の段階でしかなく、それを実際に開発するには膨大な資源とコストがかかるでしょう。

それでも、この研究が重要なのは「物質が存在する場所」と「現実的に使える手段」の両方を具体的に提示した点にあります。
地球外天体の活用というアイデアは、これまでロマンの域を出なかったものの、今回の研究によってエネルギー計算の裏付けが与えられ、「やろうと思えばできる」可能性が初めて現実的に語られるようになりました。
これは火星を第二の地球とする夢に一歩近づくための重要な理論的ブレイクスルーといえます。
今後は、天体の制御技術や衝突シナリオのシミュレーションが進めば、さらに具体的な工程としての道筋が見えてくることでしょう。
参考文献
Terraforming Mars Will Require Hitting It With Mulitple Asteroids
https://www.universetoday.com/articles/terraforming-mars-will-require-hitting-it-with-mulitple-asteroids
元論文
Energy problems of terraforming Mars(PDF)
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2025/pdf/1858.pdf
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部