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火星の大気が失われる「スパッタリング現象」の観測に初成功!


火星はかつて水に満ちた惑星であったが、磁場シールドが弱いために大気が宇宙空間に失われ、地上の水も蒸発したと考えられている。今回、米コロラド大学の研究チームは、火星の大気がリアルタイムで宇宙に逃げ出す現象「スパッタリング」を初めて観測した。これは太陽風のイオンが火星の大気に衝突し、分子を大気圏外に弾き飛ばす現象である。この観測は火星探査機「MAVEN」の9年以上にわたるデータ解析に基づくもので、特にアルゴンガスの濃度変化を追跡した結果、スパッタリング現象が確認された。また、太陽活動が活発であった際に大気成分の失われる速度が増大したことも明らかにされた。これらの発見は、火星が水を失う過程に対する理解を深めると同時に、地球の未来に対する洞察も与える可能性がある。

赤く乾燥した惑星として知られる「火星」ですが、かつては湖や川が流れる水の惑星でした。

どうして火星の水はなくなってしまったのか?

その最大の要因は、火星の磁場シールドが弱いために、大気が宇宙空間に失われていき、その過程で地上の水も蒸発してしまったからだと考えられています。

ただ理論としては確かだったものの、実際に火星の大気が失われていく物的証拠は確認されていませんでした。

しかし今回、米コロラド大学ボルダー校(UCB)らの研究で、ついに火星の大気がリアルタイムで宇宙空間に逃げ出していく現象「スパッタリング」を観測することに初成功したのです。

研究の詳細は2025年5月28日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されました。

目次

  • スパッタリングとは、どんな現象?
  • 火星のスパッタリングを初観測!

スパッタリングとは、どんな現象?

画像
Credit: canva

「スパッタリング」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。

しかしこの現象は、磁場に守られていない惑星では、大気を失わせる大きな原因になり得るものです。

そもそも太陽からは、常に高速で飛び交う粒子の風――太陽風が吹きつけています。

地球はその攻撃を強力な磁場シールドで防いでいますが、火星にはそれがありません。

つまり、火星の大気はほとんどむき出しの状態で太陽風にさらされているのです。

このとき、太陽風の中のイオン(電気を帯びた粒子)が火星の上層大気に突入すると、中性の気体分子に衝突してエネルギーを与えます。

そのエネルギーが十分に大きい場合、分子は火星の重力を振り切って、宇宙空間へ飛び出してしまうのです。

これが「スパッタリング」と呼ばれる現象です。

まるで見えない隕石が大気にぶつかり、粒子を弾き飛ばすようなこのメカニズムは、長い時間をかけて火星の大気を薄くしていきました。

これまでも理論的には存在が予測されていたものの、スパッタリングそのものを実際に観測するのは非常に困難でした。

なぜなら、宇宙に飛び出す微小な粒子の動きは極めて微弱で、他の現象と区別するのが難しいからです。

火星のスパッタリングを初観測!

研究チームは今回、NASAの火星探査機「MAVEN」が2014年から蓄積してきた9年以上の観測データを徹底的に解析しました。

鍵となったのは、火星の大気中に存在する「アルゴン(Ar)」という希ガスです。

アルゴンは反応性が低く、他の影響を受けにくいため、スパッタリングの影響を示す「痕跡」を検出するのに最適な物質とされていました。

チームはまず、太陽風の電場が火星に向かって入り込む領域で、アルゴンの濃度が通常よりも高くなっていることを発見しました。

これはスパッタリングによって新たに弾き飛ばされたアルゴンが検出されたことを意味します。

つまり、火星の大気が宇宙空間に失われていく瞬間を観測することに成功したのです。

こちらは1976年に撮影された火星の大気の画像。

This is a photo of the surface of Mars taken by the Viking 1 orbiter in 1976.

It looks like something out of a sci-fi film you’d see today.

(And yes, that *is* a smiley face in that crater…)

Credit: NASA/JPL-Caltech, processing by Andrea Luck (@andrealuck.bsky.social)

[image or embed]

— Paul Byrne (@theplanetaryguy.bsky.social) 2025年3月17日 11:21

さらに注目すべきは、2016年1月に発生した大規模な太陽嵐(ICME)の際、アルゴンの濃度が100倍以上に跳ね上がったという観測です。

これはスパッタリングの効果が、太陽の活動によって大きく強化されることを裏付けています。

このときの計算によると、スパッタリングによって火星から失われたアルゴンの量は、従来の予測の4.4倍以上にも達していました。

さらに酸素や二酸化炭素など他の成分にも同様の影響があったと考えられます。

これらの結果は、火星の大気が過去にどのようにして失われたのか、そしてそれが水の喪失につながったのかを理解する上で、極めて重要な証拠となるのです。

火星がかつて“青い惑星”だった可能性は、多くの科学者の夢と関心を引きつけてきました。

そして今回の研究は、その夢を現実的なストーリーへと一歩近づけました。

スパッタリングは、決して劇的ではありません。

しかし何億年というタイムスケールの中で、太陽風という侵略者が、火星の大気と水を静かに、確実に奪っていったのです。

私たちは今、火星がどのようにして現在の姿に変わったのか、その「消失の歴史」をようやく語り始めることができる段階に来ています。

その物語は、地球の未来についても、何かを教えてくれるのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Scientists Have Clear Evidence of Martian Atmosphere ‘Sputtering’
https://www.sciencealert.com/scientists-have-clear-evidence-of-martian-atmosphere-sputtering

元論文

First direct observations of atmospheric sputtering at Mars
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt1538

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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