もし、1枚の画像からゲームの世界が自動生成され、まったく新しいプレイ体験が生まれるとしたらどうでしょうか。
AIの進化により、それが現実になろうとしています。
その最前線に立つのが、画像1枚から複数のゲームプレイを生成するAI「Muse」です。
マイクロソフトが開発したMuseは、画像を解析してゲームプレイを生成し、開発者が新しいアイデアを迅速に試せるよう支援できるのです。
この技術の可能性については、2025年2月19日付の科学誌『Nature』に掲載されました。
目次
- Museがゲーム開発に与える影響
- Museの現実的な可能性と今後の展望
Museがゲーム開発に与える影響
近年、AIはゲーム業界において大きな進化を遂げています。
その中でも特に注目されるのが、画像1枚からいくつかのゲームプレイを生成するAIモデル「Muse(別名:World and Human Action Model, WHAM)」です。
Museは、マルチプレイヤーアクションゲーム『Bleeding Edge』の人間のゲームプレイデータを基にトレーニングされています。
研究者たちは、このデータを活用し、パラメータ数が1500万から16億に及ぶ複数のモデルを訓練しました。
膨大な時間のプレイヤーデータを学習し、プレイヤーの行動パターンやゲーム内の物理法則を理解するよう設計されているのです。

その結果、Museは、入力された1枚の画像から環境やオブジェクトを解析し、それをもとにゲームの世界観やルールを自動で設定します。
ゲームの世界をリアルに再現し、その画像につながる異なるゲームプレイを生成できるのです。
そして新たなゲームプレイが生成されたあとは、ゲームコントローラーを使ってキャラクターを部分的に操作できます。
では、このAIモデルは、音楽生成AIや文章生成AI、画像生成AIと同じように、独自のゲームをどんどん生成できるということなのでしょうか。
Museの現実的な可能性と今後の展望
「Museを使えば、様々なゲームが生成される」と考えるのは間違いです。
なぜなら生成されるゲームプレイはゲームの雰囲気を示すものであり、完全なゲームメカニクスを持つわけではありません。
Museはあくまでゲーム開発を支援するツールであり、「ゲームを開発する」というよりも「アイデアを見つける」ためのものです。

Museで示されたアイデアを販売可能なゲームにするには、従来のように、多くの時間をかけて開発を行わなければいけません。
しかも、現時点でのMuseのゲームプレイ映像は、解像度380×180ピクセル、フレームレート10fpsに制限されており、楽しいゲームプレイとは程遠いものです。
さらに、Museが生成できるゲームのジャンルも限られており、現在は『Bleeding Edge』に近いものしか生成できません。
マイクロソフトの研究者ホフマン氏は、Museを「最小限のモデルで何が可能かを示す試み」と説明しており、今後さらなる品質向上が期待されています。
この技術が発展するなら、開発者は短期間で多様なアイデアを試すことができるかもしれません。
MuseのようなAIによって、プレイヤーにとって斬新でワクワクするような新しいゲームが誕生する可能性があるのです。
AIがゲーム業界にどのような変革をもたらすのか、今後の進化に注目が集まっています。
参考文献
Microsoft’s Muse AI Edits Video Games on the Fly Muse is a proof of concept for more consistent AI gameplay
https://spectrum.ieee.org/ai-video-games
元論文
World and Human Action Models towards gameplay ideation
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08600-3
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部