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動画漬けの夜更かしが止まらない:あなたの“自制心”が危ない!


オランダのユトレヒト大学を中心とした研究チームの調査で、SNS利用における自制心の失敗が就寝時間を遅らせる一因であることが明らかになりました。SNSを長時間使用すること以上に、自制心の欠如が深夜までの利用を促し、特に中学生において学業成績の低下と関連が見られると報告されています。短時間で刺激を得やすいTikTokなどが、特にこの現象を加速させる可能性があります。研究は単発の調査であるため、因果関係の証明にはさらなる追跡調査が必要とされています。

オランダのユトレヒト大学(Utrecht University, UU)を中心とする研究チームが行った調査によると、TikTokなどのSNSを「どれだけ長い時間使っているか」よりも、たとえば「やめようと思っているのについ見続けてしまう」ような自制心の失敗が、実際に就寝時間を大幅に遅らせる原因になっていることが分かりました。

健康や学業成績に悪影響を及ぼすと懸念されていたSNS利用ですが、ただ長く使うだけではなく、「やめたい」と思いつつもつい使い続ける心理状態が、夜更かしを助長しているのです。

では、私たちはどのようにして、この「SNSによる寝る時間の先延ばし」の連鎖から抜け出すことができるのでしょうか?

研究内容の詳細は『Acta Psychologica』にて正式に発表されました。

目次

  • あと少し…が止まらない!?
  • SNSの“自制心の失敗”が就寝時間を狂わせる!
  • 寝不足と学業低下、犯人は“自制心崩壊”!?

あと少し…が止まらない!?

あと少し…が止まらない!?
あと少し…が止まらない!? / Credit:clip studio . 川勝康弘

寝る前に「あと少しだけ」と思って動画を見始めたはずが、ついつい夢中になって気づけば深夜――そんな経験をお持ちの方は少なくないでしょう。

実際、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出制限やリモート授業の普及で、SNS利用は以前より大幅に増加したと報告されています(Dixon, 2022)。

一方で、「SNSに長時間費やすこと」が若者の学業成績やウェルビーイング、睡眠の質の低下と関連しているという研究(Domoff et al., 2020;Sha &Dong, 2021)もあれば、それほど顕著な影響は見られないという研究(Du et al., 2018)もあり、その結果は必ずしも一貫していません。

もともとSNSの使用時間ばかりに注目されがちでしたが、「やめたいのにやめられない」という自制心の欠如こそが夜更かしや学業パフォーマンスの低下につながっているのではないか――この点が近年注目され始めています。

そこで今回研究者たちは、「TikTokをどれくらい使っているか」だけでなく「自制心の失敗によって使ってしまう状況」に着目し、睡眠や学業への具体的な影響を検証することにしました。

SNSの“自制心の失敗”が就寝時間を狂わせる!

SNSの“自制心の失敗”が就寝時間を狂わせる!
SNSの“自制心の失敗”が就寝時間を狂わせる! / Credit:clip studio . 川勝康弘

まず研究チームは、中国の中学生とオランダで学ぶ中国人大学生の二つのグループを対象に、オンラインでアンケートを実施しました。

参加者には「TikTokをどのくらいの頻度・時間使っているか」に加え、「勉強や睡眠の時間に支障があると分かっていても、つい使ってしまった経験があるか」という“自制心の失敗”についても詳しく尋ねたのがユニークな点です。

さらに、中学生の学業成績はテスト科目の平均点を、大学生の学業パフォーマンスはGPA(成績指数)を指標とし、あわせて睡眠の質や就寝時間の先延ばし(ベッドタイム・プロクラステーション)、気分や学校(大学)生活への満足度といったウェルビーイングも測定しました。

分析の結果、「TikTokをどれだけ長く使っているか」よりも、「使いたくないのについ使い続けてしまう自制心の失敗」が、就寝時間の先延ばしと特に強く結びついていることが分かりました。

これは中学生グループでも大学生グループでも一貫して確認され、夜更かしを加速させる鍵は“時間”よりも“やめられない心理”にある可能性が示唆されました。

一方、学業成績との関連については、中学生では目に見えるマイナス影響が示唆されましたが、大学生では必ずしも同様の傾向は見られなかったことも特徴的です。

研究者たちは、この違いには年代や学習環境の差などが関係しているかもしれないと考えています。

こうした結果から、“自制心のコントロール”が大きな課題になることが示唆されました。

寝不足と学業低下、犯人は“自制心崩壊”!?

寝不足と学業低下、犯人は“自制心崩壊”!?
寝不足と学業低下、犯人は“自制心崩壊”!? / Credit:clip studio . 川勝康弘

今回の調査では、TikTokを「どれだけ長く使っているか」という量的な指標だけでは説明しきれない側面があることが示されています。

特に「使いすぎだと分かっていてもやめられない」という自制心の失敗が、就寝時間を遅らせる大きな要因になっていたのは両グループ(中学生・大学生)共通の傾向です。

また、TikTokのような短尺動画アプリは、ユーザーが短時間で楽しめる刺激を途切れなく得やすいため、“自制心の失敗”を起こしやすいメカニズムが存在すると考えられています。

とはいえ、学業成績やウェルビーイングといったもう少し“遠い”結果に関しては、年齢や学校環境の違いもあって影響の出方が異なりました。

たとえば中学生では自制心の失敗と学業成績の低下が結びつく傾向が見られた一方、大学生ではその関連ははっきりとは示されませんでした。

研究チームは、勉強の進め方や日常スケジュールが大きく変わる大学生にはほかの要因も絡んでいて、影響が見えにくくなった可能性を指摘しています。

また、ウェルビーイングや学業成績といった結果は、睡眠不足や長時間のSNS利用など、複数の要素が重なってじわじわと変化していくかもしれないため、「短期的には変化を捉えにくい」という見方もできます。

つまり自制心の失敗による動画視聴が積み重なれば、より長期的にウェルビーイングや学業パフォーマンスを下げる可能性もあるというわけです。

このように、SNS利用の影響を考える際には「単純な使用時間」よりも「本当はやめたいのに続けてしまう心理状態」に注目することが重要だと改めて示唆されました。

研究自体は一度きりの調査であるため因果関係を完全に証明するものではありませんが、今後さらに長期間の追跡調査などを行えば、「自制心の失敗」がどのように学業や健康、日々の満足度を左右するのかが一層明らかになるかもしれません。

いずれにしても、“夜更かしから抜け出したい”と思う人にとっては、単にSNSの使用時間を気にするだけでなく、自分がどのような状況や感情でスマホを手に取っているかを見直すことが大切だといえそうです。

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元論文

TikTok use versus TikTok self-control failure: Investigating relationships with well-being, academic performance, bedtime procrastination, and sleep quality
https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2024.104565

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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