近年、再生可能エネルギーの重要性がますます高まっており、太陽光発電はその中核を担っています。
しかし、従来の太陽光パネルは重量があり、設置場所が限られるという課題があります。
これに対し、英国のPower Roll社が開発した軽量で柔軟なソーラーフィルムは、新たな可能性を切り拓く技術として注目されています。
2025年2月18日付で『ACS Applied Energy Materials』誌に発表された研究では、この新しい太陽光発電の製造技術が詳しく検証されています。
目次
- 太陽光発電できるフィルム「ソーラーフィルム」を開発
- ソーラーフィルムは薄くて軽く持ち運びが簡単!次世代のクリーンエネルギー
太陽光発電できるフィルム「ソーラーフィルム」を開発

従来のソーラーパネルは、重く硬いため、設置場所が限られます。
屋根などは主な設置場所ですが、それでも限界があります。
Power Roll社によると、世界中の商業施設の屋根のうち、少なくとも30%は従来のソーラーパネルに対応できず、その面積は250億平方メートルを超えるという。
こうした課題がある中で、Power Roll社は2012年以来、低コストで製造でき、太陽光発電できる「ソーラーフィルム」の開発に取り組んできました。
Power Roll社が開発したソーラーフィルムは、従来のシリコン系太陽電池とは異なり、特殊なマイクログルーブ(微細な溝)構造と酸化鉱物の一種「ペロブスカイト」を組み合わせた独自の技術を採用しています。
このフィルムは非常に薄く、軽量であり、1平方メートルあたり50万個の微細な溝が備わっています。

製造プロセスでは、「ロール・ツー・ロール」方式(ロール状の基材を巻き出して加工し、再びロール状に巻き取る生産方式)を採用し、プラスチック基板上にエンボス加工を施した微細な溝を形成します。
その上にペロブスカイト層を塗布することで、低コストで大量生産が可能になるのです。
またこのように製造された「ソーラーフィルム」では、モジュールの一部が損傷しても全体的なパフォーマンスには影響しません。
では、このソーラーフィルムは主にどのように使用できるのでしょうか。
ソーラーフィルムは薄くて軽く持ち運びが簡単!次世代のクリーンエネルギー

Power Rollのソーラーフィルムは、その柔軟性と低コスト性により、さまざまな用途での活用が期待されています。
例えば、従来のソーラーパネルを設置しづらいカーブした建物の外壁や車両の屋根、農業用ビニールハウスの屋根などにも応用が可能です。
また、未電化(オフグリッド)地域や災害時の緊急電源としても有効であり、従来のディーゼル発電機の代替としての利用も期待されています。
そしてPower Roll社は、薄型かつ高効率なソーラーフィルムをより多くの市場に提供するための研究開発を続けています。
最近では、シェフィールド大学(TUOS)との共同研究により、新しいタイプの構造を考案し、エネルギー生成の効率や製造コスト、製造の容易さがさらに向上させることができました。
実際、この取り組みによって電力変換効率が最大12.8%も向上しています。
このPower Roll社の技術は、エネルギー効率の向上と持続可能な電力供給の実現に向けて、世界中に大きな影響を与える可能性があります。
もしかしたら将来、ソーラーパネルではなく、ソーラーフィルムが主流になる時代が到来するかもしれませんね。
参考文献
Solar film you can stick anywhere to generate energy is nearly here
https://newatlas.com/energy/power-roll-solar-film-anywhere-update/
POWER ROLL SHAPES FUTURE OF ADVANCED MANUFACTURING FOR SOLAR IN COLLABORATION WITH UNIVERSITY OF SHEFFIELD WITH LATEST PAPER RELEASED
https://www.powerroll.solar/post/power-roll-shapes-future-of-advanced-manufacturing-for-solar
元論文
Back-Contact Perovskite Solar Cell Modules Fabricated via Roll-to-Roll Slot-Die Coating: Scale-Up toward Manufacturing
https://doi.org/10.1021/acsaem.4c02734
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部