starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

「そこまで関係するの?」妊娠中のライフスタイルが子どもの運動能力に影響する


フィンランドのトゥルク大学の研究によると、妊娠中の母親のライフスタイル、特に食生活や体型、精神的健康状態が、子どもの運動能力に影響を与えることが判明しました。健康的な食生活を送る母親の子どもは運動能力が高まりますが、体脂肪が多いと運動発達が遅れる可能性があります。また、母親の抑うつ症状が子どもの運動能力を向上させる意外な関連が見られ、これには妊娠中のストレスにより胎児が発達戦略を早期に適応するメカニズムが関与していると考えられます。この研究は、妊娠中の健康管理が子どもの未来に重要であることを示唆し、さらなる研究の必要性を指摘しています。

「妊娠中にどんな食事をするか、体調をどう管理するかが、赤ちゃんの健康に影響する」——そんな話を一度は聞いたことがあるかもしれません。

でも、実はそれだけではなく、子どもの運動能力にも関係があるとしたらどうでしょうか?

フィンランドのトゥルク大学(University of Turku)の研究チームが2025年1月に発表した研究によると、母親の食事や体型、さらには妊娠中の気持ちの状態が、子どもの運動能力に影響を与えることが分かりました。

特に、健康的な食生活を送ることが子どもの運動能力の向上につながり、逆に体脂肪が多いと運動の発達が遅れやすくなる可能性があるそうです。

さらに興味深いのは、妊娠中に落ち込みがちな気分になることが、意外にも子どもの運動能力を高めることにつながるかもしれない、という点です。

この意外な発見は、どのようなメカニズムによるものなのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。

目次

  • 妊娠中の生活が子どもの未来を変える?
  • 妊娠中の母親のメンタルが子どもの運動能力を左右する?

妊娠中の生活が子どもの未来を変える?

トゥルク大学の研究チームは、「過体重または肥満の女性が出産する子どもは、運動発達にどのような影響を受けるのか?」という疑問を探るために、フィンランド南西部で2013年から2017年にかけて実施された臨床試験のデータを活用しました。

この研究には、妊娠18週未満でBMIが25以上の女性439人が参加し、妊娠初期および後期の食生活、体脂肪率、妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus, GDM)の有無、抑うつ・不安症状などが記録されました。

その後、子どもが5~6歳になった時点で追跡調査を行い、生まれた子どもの運動能力を「Movement Assessment Battery for Children –Second Edition(Movement ABC-2)」という国際的な運動能力評価ツールで測定しました。

なんだか長い名称ですが「Movement ABC-2」は、日本語で言うと「子どもの運動評価バッテリー 第2版」というような意味になります。

これは子どもの運動能力を総合的に測るために開発されたテストで、手先の器用さ、目と手の協調、バランス能力の3つの主要なスキルを評価します。

ちなみに初版は1992年に登場し、2007年に改訂されて現在の第2版が広く使用されています。

こうしたデータをもとに、母親の妊娠中のライフスタイルが子どもの運動発達にどのような影響を与えるのかを統計的に解析したのです。

研究の結果、子どもの運動能力には母親のライフスタイルが大きく影響することが判明しました。

まず、母親が健康的な食生活を送っていた子どもは、運動能力テストのスコアが高い傾向にありました。

Credit:canva

特に、妊娠初期に野菜や果物、魚、全粒穀物を多く摂取していた母親の子どもは、手先の器用さや目と手の協調能力が優れていたのです。

魚の摂取量が多いほど、その傾向が顕著であることも分かりました。

一方で、母親の体脂肪率が高いと、子どもの運動発達が遅れる可能性があることも明らかになりました。

特に妊娠後期に体脂肪率が高かった場合、子どもが発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder, DCD)を持つリスクが高まる傾向が見られ、後期の体脂肪率が1%増加するごとに、運動障害のリスクが1.12倍に上昇していたという。

また、妊娠糖尿病(GDM)については、子どもの運動能力に統計的に有意な影響を与えないという結果が出ました。

これは、GDM自体よりも、それに伴う食生活や体重管理の影響がより重要なのかもしれません。

しかし、今回の研究で意外だったのが、妊娠中の母親の抑うつ症状が、子どもの運動能力向上と関連していたことです。

妊娠中の母親のメンタルが子どもの運動能力を左右する?

Credit:canva

今回、意外な結果として報告されているのが、抑うつ症状が強い母親の子どもは、目と手の協調スキルが高い傾向にあったことです。

妊娠中の母親のメンタルが、出産から5年後の子どもの運動能力に影響するというのは一見するとよくわからない関連です。

研究チームは、この予想外の結果についていくつかの仮説を立てています。

ひとつの可能性として、妊娠中のストレスが子どもに「早期適応型の発達戦略(faster developmental strategies)」をもたらすことが挙げられています。

これは、母体のストレスにより、胎児が発育段階から環境の困難に備えるように変化するという仮説です。この適応メカニズムの一環として、運動能力が向上する可能性があると考えられています。

また、ストレスや抑うつが増えると、体内でグルココルチコイド(特にコルチゾール)というホルモンのレベルが上昇することが知られています。

コルチゾールは胎児の脳の発達に重要な役割を果たし、特に妊娠後期にそのレベルが高まると、認知能力や運動能力の発達が加速する可能性があるとされています。

抑うつ症状とは、気分の落ち込みや意欲の低下が続く状態を指しますが、では妊娠中は落ち込んでいた方が子どもの将来のいいのか、というとそれは早計な判断でしょう。

今回の研究では、参加した妊婦のほとんどが比較的低い抑うつスコアを示しており、強い抑うつ症状がある場合に同様の結果が得られるかどうかは現在のところ不明です。

研究者たちは、「今回の研究結果の臨床的な意味合いはまだ明確ではなく、さらなる研究が必要だ」と指摘しています。

妊娠中の選択が子どもの未来を作る

妊娠中の母親のライフスタイルは、想像以上に子どもの未来に影響を与えているようです。

食生活を改善することで子どもの運動能力を高める可能性があり、過度な体脂肪の蓄積を避けることで運動発達の遅れを防ぐことができるかもしれません。

また、妊娠中のメンタルヘルスと子どもの発達の関係については、今後さらに深く掘り下げるべきテーマでしょう。

現在の産科医療では、妊娠中の食事指導は主に栄養面に焦点が当てられています。

しかし、本研究の結果を踏まえると、今後は「運動発達を促すための食事指導」が新たに組み込まれる可能性も考えられます。

母親の選択が、子どもの未来を形作る——この事実を知ることで、より良い選択ができるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Lifestyle choices during pregnancy can impact child’s motor development up to the age of 5–6 years
https://www.utu.fi/en/news/press-release/lifestyle-choices-during-pregnancy-can-impact-childs-motor-development-up-to-the

元論文

The effect of maternal risk factors during pregnancy on children’s motor development at 5–6 years
https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2025.01.047

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2025
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.