近年、「ジェネリック医薬品なら、先発薬と同じ成分だからどれを使っても大差ない」とよく言われてきましたが、オハイオ州立大学による研究によって、そうとは限らない可能性が浮かび上がりました。
同じ成分・用量であっても、製造国によって重篤な副作用の報告数に大きな差が見られるというのです。
たとえばインド製のジェネリック薬は、アメリカ製のものに比べて入院や障害、死亡などの重篤な副作用が約54%増えるという結果が示されています。
「値段が安いけれど効果は同じ」というイメージの強いジェネリック薬が、実際は製造環境や検査体制などの違いで安全性に差が出ることがある—そんな衝撃的な発見は、多くの人にとって意外なニュースと言えるでしょう。
今回の研究は、単なる噂話や個人的な感想ではなく、実際に多くのデータを使って分析した結果であるため、医薬品をめぐる常識に一石を投じるものとなりそうです。
果たして私たちは、これからどのようにジェネリック薬と向き合っていけばいいのでしょうか。
研究内容の詳細は『Production and Operations Management』にて発表されました。
目次
- ジェネリック医薬品の普及とその裏事情
- ジェネリック医薬品はコスト競争で質が低下するリスクがある
ジェネリック医薬品の普及とその裏事情
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ジェネリック医薬品は、先発薬と同じ有効成分を使いながら価格が安いというメリットがあり、世界中で多くの患者が利用されています。
高価な先発薬に比べて医療費を抑えられることから、国や保険制度にとっても重要な存在です。
こうした背景から、「ジェネリック薬であれば、どこの会社が作っても品質や安全性は同じ」と一般的に考えられてきました。
しかし実際には、製造プロセスや生産拠点は一様ではありません。
長年にわたるコスト削減やグローバル化の流れの中で、ジェネリック薬の製造はアメリカやヨーロッパなどの先進国から、インドをはじめとする新興国へとシフトしてきています。
これ自体はコスト面では大きな利点をもたらすものの、製造環境や検査体制が国によってどのように異なり、それが製品の品質にどう影響しているのかは、いままで十分に明らかにされてきませんでした。
今回の研究は、まさにこの「どこで作っても本当に同じなのか?」という疑問に正面から取り組むものです。
ジェネリック薬は同じ成分であればすべて等しいかのように扱われてきましたが、実は製造される工場の所在地や品質管理の実態によって重篤な副作用のリスクが違う可能性を探るため、研究者たちは膨大なデータを駆使して分析を行いました。
これまで開示されてこなかった薬品の製造工場情報を独自の方法で突き止めたことで、ジェネリック薬の「見えにくかった部分」に光を当てたのです。
ジェネリック医薬品はコスト競争で質が低下するリスクがある
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研究チームはまず、医薬品の製造工場を特定するために「Structured Product Labeling」と呼ばれる公開データを活用しました。
通常、どの工場で薬が作られているかは情報公開が限られているのですが、このデータをうまく解析することで、同じ成分・用量・剤形(たとえば錠剤やカプセルなど)でありながら、アメリカ国内で製造されたものと、インドをはじめとする新興国で製造されたものを正確に区別できるようにしたのです。
次に研究者たちは、米国食品医薬品局(FDA)が運用する「FAERS(Adverse Event Reporting System)」という副作用報告のデータベースを利用しました。
これは、医師や患者などが実際に経験した副作用を記録する大規模なシステムです。
そこで特に「入院」「重度の障害」「死亡」といった深刻な結果をもたらす重篤な副作用に絞って、インド製ジェネリックとアメリカ製ジェネリックを比較しました。
今回の分析では合計2,443種類のジェネリック薬が対象となりましたが、そのうち新興国で製造されたジェネリックの大部分(約93%)がインド製だったため、事実上「インド製 vs. アメリカ製」の比較となりました。
そして同じ成分・同じ剤形・同じ用量の薬を厳密にマッチングした結果、インド製ジェネリックでは、アメリカ製ジェネリックに比べて重篤な副作用の報告数が約54%も多いことがわかったのです。
さらに興味深いのは、こうした差が特に「長く市場に出回っている(=成熟期)のジェネリック薬」で顕著に見られた点です。
販売開始から時間が経つほど薬の価格競争が激化し、コスト削減が優先されることで製造や品質管理に影響が及ぶ可能性が指摘されています。
研究チームはこれらの結果について、ジェネリック薬の「安全性や品質をめぐる常識」に改めて注意が必要だと結論づけています。
では、なぜこうした差が生まれるのでしょうか。
一つの要因として指摘されているのが「コスト競争」の激化です。
ジェネリック薬は、発売から時間が経つと価格がどんどん下がり、多くの企業がコストを削る努力をしなければ利益が確保しにくくなります。
結果として、品質管理の徹底や十分な検査体制にかけるリソースが限られ、製造環境に問題が起こりやすくなる可能性があります。
また、米国食品医薬品局(FDA)の工場検査方法にも違いがあります。
アメリカ国内の工場は抜き打ちでの検査が一般的なのに対し、海外工場では事前通知のうえ実施されることが多いため、検査準備の段階で問題点を隠せてしまうリスクが指摘されています。
それでは私たちはどうすればいいのでしょうか。
研究チームは、FDAをはじめとする規制当局が検査体制を厳格化し、海外でも抜き打ち検査を実施するなどの改善策を提言しています。
また、製薬会社や消費者への情報開示を進め、「どの国・どの工場で作られた薬なのか」を患者や医療機関が知ることができる仕組み作りが望まれます。
こうした透明性が高まれば、品質の高いジェネリックを選ぶことも可能になるでしょう。
もちろん、ジェネリック医薬品の利点が失われるわけではありません。
価格の低さによって多くの人が必要な治療を受けられるメリットは非常に大きいものです。
ただし、その安全性や品質が製造国やコスト圧力によって左右される可能性が明らかになった今、私たちは「安いから同じ」と思い込み過ぎるのではなく、必要に応じて医師や薬剤師に相談しながら最適な治療を選んでいくことが大切だと言えます。
参考文献
All generic drugs are not equal, study finds
https://www.eurekalert.org/news-releases/1074063
元論文
EXPRESS: Are All Generic Drugs Created Equal? An Empirical Analysis of Generic Drug Manufacturing Location and Serious Drug Adverse Events
https://doi.org/10.1177/10591478251319691
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部