かつて痛風は「ぜいたく病」と呼ばれ、豊かな食生活を送る人の病気だと考えられていました。
今でもビールや肉類を好む人はリスクが高いと言われ、生活習慣が大きな要因とされてきました。
そのため痛風と診断された患者は気恥ずかしさを感じるかもしれません。
また痛風患者に対して「不摂生」「自己責任」「おじさんの病気」などと偏ったイメージを持つ人もいます。
しかし、最近の研究がこの常識を覆そうとしています。
オタゴ大学(University of Otago)を中心とする国際研究チームは、大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、痛風の発症には遺伝的要因が深く関わっていることを示唆しました。
この研究の詳細は、2024年10月15日付の『Nature Genetics』誌に掲載されています。
目次
- 痛風の症状と原因――本当に「ぜいたく病」なのか
- 痛風の発症は遺伝的要因が大きかった
痛風の症状と原因――本当に「ぜいたく病」なのか
痛風は、血液の中に尿酸がたまりすぎることで起こる病気です。
尿酸は、食べ物や体の中の細胞が分解されるときにできる「プリン体」という物質から作られます。
通常は腎臓を通じて尿と一緒に排出されますが、排出がうまくいかなかったり、尿酸が多く作られすぎたりすると、血液の中にたまり、高尿酸血症という状態になります。
そして尿酸が多すぎると、体の中で結晶になり、関節にたまります。
特に足の親指の関節にたまりやすく、突然激しい痛みが起こることがあります。
関節が赤く腫れ、歩くのもつらくなることが多いです。
この痛みは数日から1週間ほど続き、治った後も再発しやすい特徴があります。
また、痛風が進行すると腎臓にも影響を与え、尿路結石や腎臓の働きが悪くなることもあります。

痛風のリスクを高める食品には、プリン体を多く含むものが挙げられます。
特に、レバーやアンコウの肝、イワシ、カツオなどの魚介類、肉類、ビール、魚卵などが高プリン体食品として知られています。
これらを過剰に摂取すると、体内で尿酸が増加し、痛風の発症リスクが高まるのです。
また、アルコールも尿酸の排出を妨げるため注意が必要です。
このように、これまで痛風は食生活と密接に関係すると考えられており、特にアルコールや肉類の過剰摂取が主な原因とされてきました。
しかし、なぜ同じ食生活を送っていても発症する人としない人がいるのか、その理由は長年の謎でした。
今回の研究では、痛風の発症リスクには食生活だけでなく、遺伝的要因に焦点を当てました。
痛風の発症は遺伝的要因が大きかった
研究チームは、260万人分のゲノムデータを解析し、その中で12万人が痛風を発症していることを確認しました。
さらに、尿酸値の変動に関するデータを併せて分析し、痛風のリスク因子を特定しました。

その結果、痛風と強い相関を持つ遺伝的変異が377カ所特定されました。
そのうち149カ所は、これまで痛風と関連づけられていなかった部分です。
また、65カ所の遺伝子座は尿酸値の変動には影響を与えているものの、痛風そのものには直接関与していないことも判明しました。
こうした分析結果から、尿酸値が高いことと痛風を発症することは必ずしもイコールではなく、遺伝子の影響が病気の発症に重要な役割を果たすことが示唆されました。
オタゴ大学のトニー・メリマン氏は、次のように主張しています。
「痛風は遺伝的要因による疾患であり、患者のせいではありません。
痛風は生活習慣や食生活が原因だという迷信を打ち破る必要があります」
これまで痛風は、食生活の影響が大きいと考えられていましたが、今回の研究で遺伝的要因を無視できないことが明らかになりました。
もちろん食事や生活習慣の改善も重要ですが、個人の遺伝的リスクを把握することで、より効果的な予防策を講じることが可能になるでしょう。
痛風は「ぜいたく病」ではないのかもしれません。
患者自身や周囲の人々も、気恥ずかしさや偏見を持つことなく、正しい見方でこの病気と向き合っていきたいものです。
参考文献
Huge Study Shows Where Gout Comes From – It’s Not What We Thought
https://www.sciencealert.com/huge-study-shows-where-gout-comes-from-its-not-what-we-thought
Study finds genetics, not lifestyle, is a major cause of gout
https://medicalxpress.com/news/2024-10-genetics-lifestyle-major-gout.html
元論文
A genome-wide association analysis reveals new pathogenic pathways in gout
https://doi.org/10.1038/s41588-024-01921-5
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部