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人類で最初に冷凍保存された男「ジェームズ・ベッドフォード」


ジェームズ・ベッドフォードは、冷凍保存された世界初の人物として知られています。末期がんを患い治療の見込みがない中、1967年に当時開発が始まったばかりの人体冷凍保存技術を選びました。彼の身体は、血液の代わりにジメチルスルホキシドとリンゲル液の混合溶液が注入され、冷凍保存されています。ベッドフォードの冷凍保存は、その後アルコー 延命財団によって管理されていますが、当時の技術では細胞を損傷なく解凍・蘇生するのは困難とされています。彼の復活は、今後の技術的進歩に期待されています。

「100年後にまた会おう… 」

SF世界でよく見られるコールドスリープが実現すれば、そんなキザな台詞も言えるようになるでしょう。

しかし残念ながら、人体冷凍保存の技術はいまだに完成していません。

人体冷凍保存とは、現在の医療では治癒不可能な人体を冷凍し、未来の医療の発展を待った後で人体を解凍・治療しようという考え方です。

この解凍技術の発明がネックになっているのですが、一方で人類はすでにいくつかの人体を実際に冷凍保存しています。

そこで今回は世界で最初に冷凍保存された男「ジェームズ・ベッドフォード」について見ていきましょう。

彼は今もなお、冷凍された状態で復活の時を待っているのです。

目次

  • 人体冷凍保存を決意するまで
  • 冷凍保存された世界初の人物となる

人体冷凍保存を決意するまで

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Credit: canva

ジェームズ・ハイラム・ベッドフォード(画像はこちら)は1893年4月20日に、米マサチューセッツ州ピッツフィールドに生まれました。

彼の人生は教育と冒険に満ちたものでした。

4歳のときに命を脅かすジフテリアにかかり、数週間におよぶ闘病生活を送りました。

回復後は勉学に励み、名門カリフォルニア大学バークレー校で心理学や教育学を学び、のちに高校教師をしながら、教育学の博士号を取得します。

ジェームズの専門は職業訓練とキャリア開発であり、この分野に関する著書をいくつも出版しました。

彼は1938年の取材で、こう語っています。

「多くの若者が未来に対して疑念や悲観、不安を抱えています。私はそれを少しでも和らげたいのです」

ジェームズは若者たちの将来を支援する一方で、世界中を旅して回りました。

アフリカでサファリを楽しんだり、南米の熱帯雨林を探検したり、ヨーロッパ各地を飛び回ったりと、冒険心旺盛な人物でした。

彼は順調な人生を送っていましたが、70代になってついに病に冒されます。

末期のがんでした。

がんは肺へと転移し、もはや治療は不可能で、余命いくばくもない状態だと医師に宣告されます。

ジェームズは自らの人生の旅が終わることを受け入れたくなかったのでしょう。

彼は当時まだほとんど認知されていなかったある革新的な技術に望みを託そうと考えました。

それが「人体冷凍保存」です。

冷凍保存された世界初の人物となる

ジェームズが冷凍保存について調べ始めた1960年代当時、人体冷凍保存の技術は一部の科学者たちによって注目され、研究が始められた頃でした。

死期が近づく中、ジェームズはアメリカ冷凍保存協会(ACS)の会長ロバート・ネルソンとコンタクトを取ります。

ネルソンはジェームズが求める「寿命延長の技術」を提供できると伝えました。

そして1967年1月12日の午後1時15分、ジェームズは「なんだか気分が良くなってきた」とのつぶやきを最後に、静かに息を引き取ります。

冷凍保存協会の医師たちは直ちに行動を開始しました。

彼の体が蘇生不能になってしまう前に、冷凍保存のための準備を完了させる必要があったからです。

医師たちはジェームズに人工呼吸器を装着し、脳への酸素供給を維持しました。

続いて、血液は冷凍後に解凍すると膨張によって血管を傷つける可能性があるため、血液の代わりにジメチルスルホキシド(15%)と体液の組成に近いリンゲル液(85%)を混ぜた溶液を静脈に注入しました。

これらの準備が終わると、ジェームズの体は金属製の円筒形カプセルに収められ、葬儀場から冷凍保存施設へと運ばれました。

こうして彼は人体冷凍保存された世界初の人物となったのです。

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アルコー延命財団により引き取られたジェームズ/ Credit: Cryonics Archive

ただ、その後のジェームズの眠りは安らかなものではなく、頻繁に移動が繰り返されています。

アリゾナ州の施設で2年間保管されたのち、1969年にカリフォルニア州の冷凍保存施設に移されました。

その後、1973年に再び別の場所へと移送されましたが、次第に施設での維持管理が困難になります。

そこでジェームズの息子であるノーマン・ベッドフォードが1982年に父の人体を引き取り、南カリフォルニアの家族のもとで冷凍保存を続けました。

しかし最終的に、アルコー延命財団(Alcor Life Extension Foundation)が1991年にジェームズの管理を受け入れると申し出て、現在まで至っています。

ジェームズは冷凍保存から約60年が経過した今も復活の時を待っていますが、冷凍保存の専門家によれば「ジェームズの復活は難しい」と考えられています。

というのも当時の冷凍保存技術はまだ原始的なものであり、もし解凍したとしても、ジェームズの細胞を傷つけずに蘇生するのはほぼ不可能と見られるからです。

人体冷凍保存はジェームズが眠りについた後に急速に発展していき、細胞を傷つけることなく人体を冷却する技術が大きく改良されています。

ジェームズが無事に復活を遂げるには、未来における高度な解凍・蘇生技術の誕生を待つしかないでしょう。

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参考文献

A California man was the first to be cryogenically frozen. His body still awaits revival.
https://www.sfgate.com/sfhistory/article/california-man-first-to-be-frozen-16770641.php

Evaluation of the Condition of Dr. James H. Bedford After 24 Years of Cryonic Suspension
https://www.cryonicsarchive.org/library/bedford-condition/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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