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【全長2.6m】車サイズの巨大ヤスデ、謎だった「顔」を発見!しかし研究者は困惑


石炭紀に生息した巨大な節足動物「アースロプレウラ」の頭部が、英国ロンドン自然史博物館による研究で初めて明らかにされました。これまで胴体はよく知られていたものの、頭部の化石は見つかっておらず、その特徴が不明のままでした。今回の研究では、フランスで発見された幼体の化石をCTスキャンで解析し、頭部はヤスデの体を持ちながらムカデに似た特徴を持つことが解明されました。特に、エビやカニに見られる眼柄と、ムカデに似た大アゴが確認され、アースロプレウラの特殊な進化的位置が示唆されます。この発見は、アースロプレウラの食性や生活様式に新たな考察をもたらしましたが、成体の頭部化石の発見がさらなる解明に重要とされています。

太古の地球は、虫ぎらいでは絶対に住めないほど、昆虫を含む節足動物たちが大型化していました。

その中でも特に巨大で、”史上最大級の節足動物”とされるのが絶滅ヤスデの「アースロプレウラ」です。

全長は最大で約2.6メートルに達したと推定され、長さだけでいえば自動車サイズになります。

その一方で、アースロプレウラは胴体部分こそ詳しく復元されているものの、これまで頭部が見つかっていませんでした。

しかし今回、英ロンドン自然史博物館(NHM)らの研究で、ついにアースロプレウラの「顔」の全体像が明らかになったのです。

研究者たちが驚いたのはアースロプレウラの胴体はヤスデの特徴を持っていたのに対し、頭はヤスデではなく、ムカデの特徴を持っていることでした。

研究の詳細は2024年10月9日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

 

目次

  • 自動車サイズの古代ヤスデ、「顔」が見つかっていなかった
  • 史上初、アースロプレウラの「顔」を復元!

自動車サイズの古代ヤスデ、「顔」が見つかっていなかった

アースロプレウラ(学名:Arthropleura)は和名で「コダイオオヤスデ」と呼ばれるように、ヤスデのグループに属しています。

今から約3億4600万〜2億9000万年前の石炭紀に生息していました。

アースロプレウラの体サイズは種類によって様々ですが、特に巨大なものは成体で全長2メートルを超え、中には全長2.6メートル、体重50キロに達するモンスター級の個体もいたと推定されているほど。

一部のウミサソリと並んで”史上最大級の節足動物”と称されています。

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アースロプレウラの復元イメージ / Credit: commons.wikimedia

アースロプレウラは当時の大陸配置で見ると、赤道周辺に広がっていた沼地の森林に住んでいました。

そのため、アースロプレウラの体や脱皮の殻が土砂の中に埋没し、無酸素状態で腐敗や分解が防がれて、化石として残りやすくなったのです。

アースロプレウラの化石はその後、大陸移動によって世界各地に移動し、1800年代後半から主に北アメリカとヨーロッパでよく見つかっています。

しかし一方で、胴体部分の化石は数多く見つかっているものの、これまで頭部の完全な化石が見つかっていませんでした。

というのも、アースロプレウラの化石のほとんどは脱皮の際に残された外骨格の殻であり、本体は頭の開口部からモゾモゾと這い出てきたため、頭部の殻が崩れて消えやすかったからです。

それゆえ、アースロプレウラの復元像で見られる頭部はすべて、研究者たちの想像に頼っていました。

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アースロプレウラの復元イメージ / Credit: ja.wikipedia

しかしロンドン自然史博物館らの研究チームは今回、頭部まで保存されたアースロプレウラの幼体化石を2つ再発見したことで、アースロプレウラの「顔」を初めて復元することに成功しました。

史上初、アースロプレウラの「顔」を復元!

改めて再発見された化石は1970年代にフランス中東部ブルゴーニュ地方で見つかった2つのアースロプレウラ幼体で、今日まで博物館のコレクションとして保管されていたものです。

全長はまだ10センチにも満たない小さなものでしたが、研究者らは全身がほぼ完全に無傷の状態で残されていることに驚きました。

頭部の痕跡も肉眼で確認できたことから、チームはCTスキャンを使って2つの化石の3次元画像を作成し、全体像を復元することに。

その結果、これまで不明だったアースロプレウラの「顔」がどのようなものだったか初めて明らかになったのです。

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幼体化石のCTスキャン画像。A背面、B腹面、CDはそれぞれに対応する実際の化石画像 / Credit: Mickaël Lhéritier et al., Science Advances(2024)

それによると、アースロプレウラの頭部は先端が丸みを帯び、2本の短く曲がった触覚が生えていて、目の付け根に「眼柄(がんぺい)」がありました。

眼柄とは目の付け根から伸びている茎状の組織で、これがあることにより目が少し飛び出たようになります。

眼柄はエビやカニなどに見られる特徴で、アースロプレウラではこれまで推測されていませんでした。

さらにチームが驚いたのは、口元から生え出た2本の大アゴです。

その形状はヤスデではなく、ムカデとよく似た構造をしていました。

つまり、アースロプレウラはヤスデのような体とムカデのような顔を持ち合わせていたのです。

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幼体化石の全体像の復元イメージ(ヤスデは1つの体節ごとに脚が2対ずつ計4本あるが、ムカデは体節ごとに1対ずつ計2本のみ。つまりアースロプレウラはヤスデと同じ胴体を持つ) / Credit: Mickaël Lhéritier et al., Science Advances(2024)

これを踏まえると、今日のヤスデとムカデはアースロプレウラから派生したようにも思えますが、そうではありません。

ヤスデとムカデの両グループはアースロプレウラが誕生する1億年以上も前の約4億4000万年前にはすでに分岐しています。

その後、アースロプレウラはヤスデの一グループから進化したと見られますが、今回の研究結果から、彼らはヤスデの中でもかなり特異な位置を占めていたことが伺えます。

まず、目に見られるアースロプレウラはエビやカニなどの水棲生物によく見られる特徴であることから、もしかしたらアースロプレウラは半水棲として水中や水辺にも適応できたのかもしれません。

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A正面から見た顔の3D復元図、B下側から見た顔の3D復元図/ Credit: Mickaël Lhéritier et al., Science Advances(2024)

また彼らが何を食べていたのかは明らかになっていませんが、ムカデのような大アゴを持っていたことから、ムカデ寄りの食性だった可能性もあります。

今日のヤスデとムカデは食性がまったく違います。

ヤスデは非常に大人しい草食性で、毒がなくて攻撃性もなく、落ち葉や枯れ木などを食べて生きています。

他方でムカデは肉食性で攻撃性が高く、毒を持っており、虫やミミズを生きたまま捕食します。

ヤスデは動きが鈍く、ムカデは動きが素早いといった違いもあります。

研究者たちは「アースロプレウラの体自体はヤスデに似て、素早い動きには適していなかったので、肉食の捕食者ではなかっただろう」と考えています。

ただ現代のヤスデよりはもう少し、大型動物などの腐肉食を食べることに特化していた可能性はあります。

この食性の問題を解決するには、アースロプレウラの胃の内容物など、もっと多くの化石証拠が必要になります。

加えて、今回見つかった頭部の化石はあくまでも幼体のものであるため、大人の顔を知るには大人の化石を見つけなければならないでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

Largest ever millipede’s head revealed by 300-million-year-old fossils
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2024/october/largest-ever-millipede-head-revealed.html

Never-before-seen head of prehistoric, car-size ‘millipede’solves evolutionary mystery
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/never-before-seen-head-of-prehistoric-car-size-millipede-solves-evolutionary-mystery

元論文

Head anatomy and phylogenomics show the Carboniferous giant Arthropleura belonged to a millipede-centipede group
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adp6362

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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