ナスカの地上絵が続々と見つかり始めています。
山形大学のナスカ研究所と米IBM(※)の共同研究チームはこのほど、AIを駆使した最新調査により、6カ月間で303点の新たな地上絵の発見に成功したと発表しました。
これまでに見つかっているナスカの地上絵は全部で430点ほど。
山形大学の調査により、その総数がほぼ倍増したことになりました。
研究の詳細は2024年9月23日付で学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されています。
(※ IBMは米ニューヨーク州アーモンクに本社を置くテクノロジー関連企業)
目次
- 「ナスカの地上絵」の発見史
- AI活用により「6カ月で303点」の地上絵を新たに発見!
「ナスカの地上絵」の発見史
ナスカの地上絵はユネスコの世界文化遺産にも登録されている非常に有名な歴史的遺物です。
南米ペルーのナスカ川とインヘニオ川に囲まれた平坦な台地の上に、さまざまな幾何学模様や動植物が描かれています。
これらは古代アンデス文明の遺産であり、その文明に属したナスカ文化の人々によって紀元前2世紀〜紀元後7世紀の間に作成されました。
地上絵のサイズは約10〜300メートルとかなり大小の幅があります。
こちらはおそらく、ナスカの地上絵として最も有名なコンドルの絵です。
ナスカの地上絵は1920年代に研究者たちによって発見され始めました。
コンドルの他、サルやハチドリ、リャマ、シャチといった魅力的な地上絵が次々と見つかり、1994年にユネスコ世界遺産に登録されています。
ただその時点ではまだ約30点ほどの地上絵しか見つかっておらず、研究者たちもほんの一部にしか過ぎないことを知っていました。
というのも、ナスカ台地の面積は約400平方キロメートル(※)におよぶ広大な土地であるため、未発見の地上絵がまだまだ膨大にあることが容易に想像できたからです。
(※ 東京23区がだいたい622平方キロメートル)
そんな中、山形大学は2004年に「ナスカ地上絵プロジェクトチーム」を結成し、地上絵の発見と保護活動を積極的に押し進め、驚くべき成果の数々を上げてきました。
調査チームは人工衛星や航空機、ドローンといったリモートセンシング技術を駆使してナスカ台地を精査し、未発見だった地上絵の存在を次々と明らかにしています。
これまでに見つかっているナスカの地上絵は430点ほどですが、そのうちの318点は山形大学のチームが見つけたものでした。
この実績が評価されたことで、ペルー文化省から直々にナスカ台地での学術調査を正式に許可された世界で唯一の研究機関となっています。
とはいえ、ナスカ台地にはまだまだ調べられていない土地がたくさんあります。
同チームはさらなる地上絵の発見を求めて、米IBM研究所と提携し、AIを活用した先進的な調査を行いました。
AI活用により「6カ月で303点」の地上絵を新たに発見!
ナスカ台地での現地調査を効率的に進めるには、地上絵が分布している可能性が高い場所を特定する必要があります。
そこでチームはAIの助けを借りて、飛行機から撮影した膨大な量の空中写真を分析することにしました。
上空から撮影した地上の画像データをAIに分析させて、その形状から地上絵の存在を特定するのです。
このAIを駆使した調査方法により、地上絵が存在する可能性の高いエリアを効率的に見つけることが可能となりました。
そしてAIにより合計1309件の有力な地上絵の候補が提示され、その約4分の1について現地調査を行った結果、わずか6カ月間で合計303点の新たな地上絵を発見することに成功したのです。
これは従来の発見率より16倍も高い数字だといいます。
一挙に303点の地上絵が見つかったことで、既知の地上絵の総数はほぼ倍増したことになりました。
こちらが新たに発見された地上絵の数々です。(地上絵はわかりやすいように白線でなぞられています)
地上絵は2タイプに分かれる!その目的の違いも
さらに地上絵のサンプルが大量に増えたことで、ナスカの地上絵は主に2つのタイプに分けられることが明らかになってきました。
1つは大型サイズの線状に描かれた「線タイプ」で、もう1つは小型サイズの面的に描かれた「面タイプ」です。
線タイプには有名なコンドルやハチドリ、クモといった野生動物が含まれます。
また線タイプは、直線や台形によって構成された神聖な場所に向かう巡礼路周辺に描かれていました。
これは「複数の集落による共同体レベルの儀礼活動に利用された可能性が高い」ことを意味しているといいます。
一方の面タイプは人間自身や人間によって飼育された家畜が主に描かれていました。
研究者いわく、面タイプはナスカ台地の曲がりくねった小道の側に描かれる傾向があり、一種の「掲示板」のような役割を果たしていた可能性が高いといいます。
つまり、大型の線タイプのような共同体レベルの儀式のためではなく、個人あるいは小規模なグループの儀礼活動に使われていたと見られます。
今回の成果を踏まえてチームは「AIの能力をさらに向上させることで、より多くの地上絵の発見につながるだろう」と述べています。
またナスカ文化は文字媒体を持たなかったため、土器や壁、布などに描かれた絵の組み合わせに、社会的に重要な情報が書き込まれていることがあります。
したがって、ナスカの地上絵の種類や分布をより詳しく明らかにすることで、ナスカ社会にとって重要な文化的背景を解明できるかもしれません。
参考文献
AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった
https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/information/press/20240924/
Hundreds of Mysterious Nazca Glyphs Have Just Been Revealed
https://www.sciencealert.com/hundreds-of-mysterious-nazca-glyphs-have-just-been-revealed
元論文
AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2407652121
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部