YouTubeにTikTok、Instagram今はどこを開いても、ショート動画は中核的なコンテンツになっています。
たった数十秒ほどなので気軽に楽しめますし、短い動画の中に笑いのポイントや刺激的な内容が凝縮されているので、ちょっとした空き時間を埋めるには最適です。
「最初は1本だけ見るつもりが、気づいたら2時間もショート動画を漁りまくっていた」という経験も少なくないでしょう。
しかしこうした行動から、ちょっとでも時間が空くとショート動画を見てしまう、見ていないと落ち着かない、ショート動画を見る意外やることが思いつかない、となって来るとそれはもはや中毒と呼ぶべき状態です。
このように、ショート動画の中毒者は今や世界的に(特に若者を中心に)急増しているのです。
そこで中国・煙台大学(えんたいだいがく)の研究者は今回、ショート動画の見過ぎが「生活の質」にどのような悪影響を及ぼすかを調査。
その結果、ショート動画の視聴時間が長い人ほど、睡眠の質が悪く、社会不安を抱きやすくなることが判明したのです。
研究の詳細は2024年6月28日付で心理学雑誌『BMC Psychology』に掲載されています。
目次
- ショート動画中毒者は「1日平均125分」も視聴
- ショート動画中毒者は「社会不安レベル」が高まっていた
- ショート動画の視聴を減らすには?
ショート動画中毒者は「1日平均125分」も視聴
ショート動画は一般に、15秒~90秒程度に収まる短い形式で作成されたコンテンツを指します。
(YouTube では60秒以内の縦型動画。TikTok は15秒から最大10分。Instagram は最大90秒の縦型動画となっている。ただし長尺のものは人気が低い傾向)
こうした動画はテンポの速い編集、キャッチーな音楽、トレンドになっているトピックなど、すばやく注目を引きやすいようにデザインされているのが特徴です。
またTikTokやInstagram、YouTube、X(旧Twitter)を含むあらゆるプラットフォームで共有できるのも大きな武器となっています。
こうした強みからショート動画は若者を中心に爆発的な人気を集めるようになりました。
中国インターネット情報センター(CNNIC)による2021年の調査では、同国のショート動画ユーザーは約9億人に達し、ネットユーザー全体の87.8%を占め、1日の視聴時間は平均125分に上り、半数以上が毎日欠かさず見ていたことが報告されています(CNNIC, 2021:PDF)。
一本一本が短くとも、多くの人が毎日2時間以上見ているわけですから、消費時間としてはもはやショートではなく映画を毎日一本見ているのに等しい状況です。
なぜショート動画はこれほど中毒性が高いのでしょうか?
中毒になりやすい要因とは?
まずもって第一に挙げられるのは動画時間の短さです。
数十秒ほどで視聴できる点がショート動画の最大のメリットであり、気楽に見やすく、たとえ面白くなかったとしても時間を無駄にしたと感じにくくなっています。
このように動画を視聴する前に抱くリスクが少ないため、一度見始めるとどんどん次を探してしまうのです。
それから第二の要因は、先ほども指摘したように短い時間の中に刺激的で面白いポイントが凝縮されていることです。
ショート動画はたった数十秒間で、笑いや流行のトピック、過激な内容がサクッと楽しめるようになっています。
つまり、手軽に刺激物が得られる点でポルノと同じような作用を持っているのです。
そして第三の要因は、プラットフォームのアルゴリズム自体にあります。
SNSのアルゴリズムは私たちの閲覧履歴を学習し、ユーザーが好きそうなコンテンツを自動でおすすめするシステムになっています。
しかもショート動画は画面をスクロールするだけで次々視聴していける造りになっているため、延々とショート動画を見続けてしまう循環から抜け出しにくくなっています。
いくら一本が短くとも、こうしてショート動画の沼にハマって1日の多くの時間を動画視聴に費やしてしまえば、生活に悪影響が出ないはずはありません。
そこで今回の研究は、ショート動画中毒者の生活に、どのような影響が現れているかを調査したのです。
ショート動画中毒者は「社会不安レベル」が高まっていた
研究チームはショート動画中毒が生活の質に及ぼす影響を明らかにすべく、中国・山東省の高校1・2年生を対象に調査を行いました。
参加者は合計1629名で、男子が831名、女子798名で年齢は16〜17歳となっています。
調査では専用の質問票を用いて、ショート動画への依存度、睡眠の質、社会不安レベルを評価しました。
そしてデータ分析の結果、ショート動画の視聴時間が多い生徒ほど、睡眠の質が悪く、社会不安のレベルが高くなる傾向にあったことが確認されたのです。
また社会不安がショート動画中毒と睡眠の質の低下を媒介する傾向も見られたことから、ショート動画中毒になることが最初に社会不安を引き起こし、それが原因で睡眠の質が悪くなっている可能性が示唆されました。
しかしなぜ、ショート動画の視聴時間が増えると、社会不安に繋がるのでしょうか?
本調査はあくまで相関関係を示したものであり、因果関係までは明らかにされていませんが、これまでのショート動画の影響に関する研究報告などを含めて、いくつかの考察がされています。
その1つとして、ショート動画の視聴が他者と自分を比較する機会を増やしてしまうという問題です。
ショート動画ではモデルのような同年代が登場するものも多く、このためにショート動画をよく視聴する若者ほど、自身の身体イメージが悪化する(自分はスタイルが良くないと考えてしまう)傾向が報告されています。
また他者の生活が垣間見えたり、成功を目の当たりにする場合もあり、これが自身の状況との比較によって不安を生む可能性が指摘されています。
こうした問題は、どのコンテンツでも起こりうることですが、短い動画を介して、短いスパンで大量に目にしていくことで、自身に対する不安感を増大させる恐れがあるというのです。
また、動画視聴に時間を使いすぎると、後になって有効に時間を利用できなかったという焦燥感を感じる人もおり、これも不安感の増大に関与しています。
なにより、短い動画を連続して視聴していく行為は、考えているよりも精神的な疲労感を蓄積させやすいため、暇つぶしや満足感を得るために見ていたつもりでも、気付いたらひどく疲れていてネガティブな思考に陥りやすい状態になっている場合も多いようです。
自分では楽しんでいるつもりなのに、自覚なく不安感を増大させていると言われると、少し恐ろしい感じがしますね。
そのため研究者らは、ショート動画中毒を解消して、生活の質を維持するために何らかの対策を講じる必要があると考えています。
ショート動画の視聴を減らすには?
ショート動画中毒を回避する一番の方法は当然ながら「見るのをやめること」ですが、それで簡単にやめられるなら苦労はしませんよね。
そこでショート動画の視聴を回避するいくつかのコツが挙げられます。
まずはTikTokやInstagram、YouTubeなど、ショート動画を提供しているプラットフォームのインストールを絞ることです。
やはりSNSをすべてインストールしていれば、それだけショート動画に触れる機会は多くなります。
友人とのコミュニケーションや情報収集に最低限必要なSNSだけを残して、あとは削除する方がいいでしょう。
それからSNSを削除するのが無理な場合は「非表示」や「チャンネルをおすすめしない」「アプリの通知オフ」といった機能を有効活用することです。
またスマホに触っていい時間帯を決めておく、タイマーアプリを使って「15分だけ見てもいいことにする」といった自分ルールを設けるのもいいでしょう。
これと別に研究者らは「何か大きな目標を持つ」ことも動画の視聴時間の減少につながると考えています。
研究者に言わせれば、ショート動画に過度に依存している人は、生活の中で目標や意欲がなく、時間を持て余している可能性が高いという。
何か確固とした目標がある人は、日々の時間をその達成のための努力に充てられるので、ショート動画に溺れるリスクも少ないといいます。
確かにショート動画を視聴するときは、やることが思いつかないから暇つぶしについつい開いてしまうというケースが多いでしょう。
ショート動画は確かに気軽に楽しめるコンテンツですが、それ故に刹那的で消費した時間に対して自身のために得られるリターンが少ないため、結果的に視聴後に残るのは、他者との比較による漠然とした不安感や、消費した時間に対する焦燥感だけになってしまうのかもしれません。
「絵を描いてみる」「小説を書いてみる」「音楽を作ってみる」、何でもいいので何か大きな目標を定めて自分のために時間を使うことで、ショート動画を回避できるようになると期待されます。
参考文献
Adolescents addicted to short-form videos tend to have more sleep problems and social anxiety
https://www.psypost.org/adolescents-addicted-to-short-form-videos-tend-to-have-more-sleep-problems-and-social-anxiety/
元論文
Adolescents’ short-form video addiction and sleep quality: the mediating role of social anxiety
https://bmcpsychology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40359-024-01865-9
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部