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人工甘味料エリスリトールの摂取で血栓症リスクが増加する?


これまで、人工甘味料については発がんリスク等、その安全性が指摘されてきましたが、最新研究では、ブドウ糖を摂取する場合に比べ、エリスリトールを摂取する場合の血栓症のリスクが増加するという結果が報告されました。

血栓症は、血管の中に血のかたまり(血栓)ができ、 それによって血管が詰まってしまう病気で、 正常に血が届かなくなった部位あるいは臓器は正常な機能が失われたり、最悪な場合は壊死などの重篤な症状を引き起こします。

血栓は、加齢や喫煙、過度のストレスやアルコール、高血圧および糖尿病等の生活習慣病により血管内が傷つきやすくなることで生じるとされています。

今回、研究対象となった人工甘味料のエリスリトールについては、摂取後24時間以内に尿中に排泄され、血糖値には影響を与えず、インスリンの分泌を促進しないという特性を有し、60を超える政府機関で安全な人工甘味料として承認されています。

最近の人工甘味料の健康への研究報告、影響評価を踏まえ、米国FDAやEU食品安全機関等において、エリスリトールの安全性や摂取制限量等の議論がなされるのでしょうか。

この結果は、私たちが砂糖の代替として人工甘味料を使う際の有益性とリスクを考える課題を提示しています。この研究結果は米国ラーナー研究所(Lerner Research Institute)等の研究者により報告されています。

本試験の詳細は、2024年8月8日付の『Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology』に掲載されています。

目次

  • エリスリトールとは
  • 最新研究の概要について
  • 研究結果の解釈と対応

エリスリトールとは

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人工甘味料のイメージ / Credit : Canva

エリスリトールは化学合成により作られた人工甘味料で、安全に使用可能であると日本を含む60を超える国の政府機関が承認している食品添加物です。

エリスリトールは、トウモロコシを原料に、酵素を用いて発酵させて製造され、コーヒー、紅茶および清涼飲料水の甘味料、ケーキ、マフィン、クッキー等にも広く用いられています。

エリスリトールも糖アルコール(体内で消化吸収されにくい低カロリー素材の一種)で、多くの果物や野菜に自然に含まれる炭水化物です。

人間の体内でもブドウ糖代謝の副産物としてエリスリトールが作られます。

人工的に大量に製造されたエリスリトールは、後味が残らず、血糖値を急上昇させることもなく、他の糖アルコールに比べて緩下作用(便を軟らかくする作用)も少ないとされています。

甘さはブドウ糖の約70%で、ゼロカロリーと考えられています。

エリスリトールは、見た目も味もブドウ糖に似ており、お菓子作りに使われ、アイスクリームを含む多くの製品の主要成分となっている馴染みのある甘味料です。

こうして聞くとメリットばかりの甘味料ですが、多くの人が認識している通り、食品添加物には健康上のデメリットも数多く報告されています。

エリスリトールについても、健康への悪影響がないということは考えにくいため、その影響について様々な研究が調査を行っています。

そして最新の研究において、エリスリトールが血栓症のリスクを増加させる可能性が報告されたのです。

最新研究の概要について

エリスリトール等の人工甘味料は広く使用されており、米国FDAやEU食品安全機関等によって一般的に安全であると認められていましたが、長期的な心血管疾患リスクや短期的な心血管疾患関連を評価する臨床試験は行われていませんでした。

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エリスリトールの血栓症リスク研究に関する概要図 / Credit : Marco Witkawski et al., Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology (2024)

今回の最新研究では、健康なボランティア10名に、米国で認可されている飲料の最大量の4倍近くのエリスリトールを摂取してもらい(他の10名は同量のブドウ糖を摂取)、エリスリトールまたはブドウ糖の摂取による血栓発生の可能性を比較評価しました。

血栓は血液中の小さな細胞片である血小板が血管内の傷の部位等に凝集して発生するため、この試験では血小板の凝集能力によって血栓発生の可能性を評価しています。

検査については、エリスリトールの血中濃度を計測し、摂取前および摂取後血小板の凝集能力の比較により評価しています。

手順としては、20人の参加者に朝の採血に備えて一晩絶食してもらい、これを10人ずつ2つのグループに分けて、一方に30グラムのエリスリトール、もう一方に30グラムのブドウ糖入りの飲み物を飲んでもらい、食前と食後30分に採血を行いました。

この血中濃度の検査に関しては、エリスリトール、ブドウ糖を各グループ別に同量を摂取させて、エリスリトール濃度、血糖値(ブドウ糖濃度)の各変化を確認します。

各血中濃度の結果として、エリスリトールの摂取のグループでは、血中のエリスリトール濃度が1,000倍以上に上昇することが確認されましたが、ブドウ糖摂取のグループでは血糖値はわずかな上昇に留まりました。

各血小板の凝集能力の結果として、エリスリトールの摂取のグループでは、血小板の凝集能力が急増しましたが、ブドウ糖摂取のグループでは血小板の凝集に影響を及ぼしませんでした。

この結果から、健常なボランティアに対して、エリスリトールの摂取が血小板の凝集能力を促進させ、血栓症リスクを増加させるのではないか、という懸念が示されました。

研究結果の解釈と対応

2023年に行われた研究でも、米国とヨーロッパの4,000人以上の血液を分析し、エリスリトールの血中レベルが高い人は心臓発作や脳卒中を経験する可能性が高くなることが発表されています。

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血液検査のイメージ / Credit : Canva

今回の最新研究のメンバーである米国ラーナー研究所のへ―ゼン(Stanley L.Hazen)氏は、例えば心臓病や糖尿病のある人は、心血管疾患のリスクに関して言えば、エリスリトールで甘くした飲み物や食品を摂取するよりも、少量なら砂糖入りのお菓子を時々食べる方が望ましい、と助言しています。

一方、今回の最新研究の問題点を指摘する別の専門家は、その論文の中で、エリスリトール体内で合成される代謝産物であり、肥満、脂質異常症、糖尿病等の疾患を持つ人は、代謝が促進されて体内で過剰に合成される可能性があるため、摂取によるエリスリトールが血栓症リスクを増加させるとは言えない、という見解を示しています。

また、エリスリトールの血管への作用に関する他の試験では、1日36g のエリスリトールを4週間摂取し、エリスリトール摂取前後の血管の機能を評価したところ、エリスリトールが小さな血管の内部の状態や、動脈硬化を改善させるという結果が得られています。

この結果では、エリスリトールの継続摂取が血管に有益に作用している可能性を示しています。

以上の状況から、通常の摂取量におけるエリスリトールの利用において安全性を再評価すべきか否かについては、今後大規模な臨床観察研究、細胞レベルの試験および動物試験等を踏まえた慎重な判断が必要と考えられます。

ただ長期的な利用におけるリスクを正確に判断することは難しい問題なため、血栓症や心血管疾患への不安がある人は、今回の研究者が言及するように、砂糖の代替としてエリスリトールを利用することは避けて、砂糖の摂取自体を控えめにするよう努力した方が良いかもしれません。

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参考文献

Zero calorie sweetener linked to blood clots and risk of heart disease, study finds
https://edition.cnn.com/2024/08/08/health/erythritol-blood-clotting-wellness/index.html

元論文

Ingestion of the Non-Nutritive Sweetener Erythritol, but Not Glucose, Enhances Platelet Reactivity and Thrombosis Potential in Healthy Volunteers—Brief Report
https://doi.org/10.1161/ATVBAHA.124.321019

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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