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新たなパンデミックの引き金?栄養不足のチンパンジーがコウモリの糞を食べる事象を確認


コロナ禍は、コウモリの糞に含まれていたウイルスが人間の世界に入り込んだことが原因とされています。

こうした人類社会に深刻なパンデミックを起こす危険なウイルスは、もともと自然界のサイクルの中で問題を起こさず隠れていたものが、何らかの経路で異なる種へ感染してしまうことで起こります。

では現在研究者が監視する中で「近い将来、パンデミックの経路になりそうな問題」はあるのでしょうか?

アメリカのウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)獣医学部に所属するトニー・L・ゴールドバーグ氏ら研究チームは、新たなウイルスの発生経路となり得る事象を報告しています。

なんとアフリカでは、栄養不足に陥ったチンパンジーが、ウイルスまみれの「コウモリの糞」を食べている様子が観察されたというのです。

研究チームは、コウモリからチンパンジーに、そしてチンパンジーから人間へとウイルスが広がっていくことを恐れています。

研究の詳細は、2024年4月22日付の学術誌『Communications Biology』に掲載されました。

目次

  • 「コウモリの糞を食べるチンパンジー」がパンデミック発生のリスクを高める!?
  • 人間によるタバコ栽培が、チンパンジーにコウモリの糞を食べるよう追い詰めていた

「コウモリの糞を食べるチンパンジー」がパンデミック発生のリスクを高める!?

動物からウイルスが流入するかもしれない
動物からウイルスが流入するかもしれない / Credit:Canva

野生動物から人間へウイルスが流入する場合、まず野生動物間でのウイルスの伝播と増幅が先行していると考えられます。

例えば、ヒトにおけるエボラウイルスの発生は、サルたちや有蹄類(蹄を持つ哺乳類)の間での伝播と関連しており、ヒトがそれらの死体と接触することで感染した可能性が高いようです。

こうした観点で考えると、私たちの間で生じるかもしれない新たなパンデミックを防ぐには、自然界の動物たちに目を向けることも大切だと分かります。

そして比較的最近、ゴールドバーグ氏ら研究チームは、チンパンジーたちがパンデミックの引き金になる可能性を新たに発見しました。

研究チームの1人が、ウガンダのブドンゴ森林保護区に住むチンパンジーがコウモリの糞(グアノと呼ばれる)を食べているのを発見したのです。

コウモリの糞。グアノ。昆虫の破片などが含まれている
コウモリの糞。グアノ。昆虫の破片などが含まれている / Credit:Wikipedia Commons_Guano

コウモリからは様々なウイルスが見つかっているため、その糞をチンパンジーが食べることは、ウイルスが彼らの間で広がる可能性を示唆しています。

そこで研究チームは、この件に対して本格的な調査を行うことにしました。

2017年から2019年にかけてウガンダの森林保護区に住むチンパンジーや他の動物たちを観察したのです。

その結果、チンパンジーが、71日間に少なくも92回、コウモリの糞を食べている様子が観察されました。

(a)コウモリの糞の山、(b)チンパンジーがコウモリの糞を食べる様子、(c)アビシニアコロブスがコウモリの糞を食べる様子、(d)アカダイカーがコウモリの糞を食べる様子
(a)コウモリの糞の山、(b)チンパンジーがコウモリの糞を食べる様子、(c)アビシニアコロブスがコウモリの糞を食べる様子、(d)アカダイカーがコウモリの糞を食べる様子 / Credit:Tony L. Goldberg(University of Wisconsin-Madison)et al., Communications Biology(2024)

また、ウガンダの白黒のサル「アビシニアコロブス(学名:Colobus guereza occidentalis)」は56日間に少なくとも65回、コウモリの糞を食べていました。

さらに、レイヨウ(カモシカとも呼ばれる)の一種である「アカダイカー(学名:Cephalophus natalensis)」も、210日間に682回もコウモリの糞を食べていました。

そして彼らが食べているコウモリの糞を研究室で分析したところ、その中から新型コロナウイルスと関連した「ベータコロナウイルス属」を含む、様々なウイルスが見つかりました。

コウモリの糞から見つかったベータコロナウイルス属が人間に感染するかどうかはまだ分かりません。

それでも、こうした事例は、人間がコウモリに直接触れなくとも、他の動物たちを介してウイルスに感染する可能性を示しています。

しかし、この件に関して気になる点があります。

それは、「なぜチンパンジーや他の動物が、コウモリの糞を食べるのか」という点です。

人間によるタバコ栽培が、チンパンジーにコウモリの糞を食べるよう追い詰めていた

どうしてウガンダのチンパンジーは、コウモリの糞を食べるのか
どうしてウガンダのチンパンジーは、コウモリの糞を食べるのか / Credit:Canva

どうしてチンパンジーたちは、コウモリの糞を食べているのでしょうか。

確かに、コウモリの糞には、マグネシウムやリン、カリウムなどが豊富に含まれており、それを食べると動物たちは貴重なミネラルを得ることができます。

それでもチンパンジーたちは本来、コウモリの糞を積極的に食べるようなことはしません。

この点を解明するため、研究チームがチンパンジーたちの住処の周囲を調査したところ、人間たちが原因であることが分かりました。

ウガンダではタバコ栽培が盛んであり、育てたタバコを束ねて乾燥させるために、ヤシの一種である「Raphia farinifera」の葉を用います。

ヤシの一種「Raphia farinifera」
ヤシの一種「Raphia farinifera」 / Credit:Wikipedia Commons_Raphia farinifera

そしてタバコ農家が、このヤシの葉を大量に使用することで、2012年にはブドンゴの森からRaphia fariniferaがほとんど消えてしまいました。

これはチンパンジーたちに大打撃を与えました。

なぜならRaphia fariniferaには、動物たちに必須なミネラルが豊富に含まれており、彼らはこのヤシを食べることで栄養を得ていたからです。

結果としてチンパンジーや他の動物たちは、生きていくために、コウモリの糞を食べるしかなくなりました。

タバコ栽培がチンパンジーたちを追い詰めていた
タバコ栽培がチンパンジーたちを追い詰めていた / Credit:Canva

今回の研究結果は、パンデミックを引き起こすかもしれない新たな要素に目を向けたものとなりました。

研究チームも、「私たちの研究は、病気が人間に侵入する前に、病気について研究することの重要性を強調しています」と述べています。

そのうえで、今回判明した「人間の活動の結果が、回り回って、人間たちにパンデミックを引き起こすかもしれない」ことを考えると、なんとも複雑な気持ちになりますね。

全ての画像を見る

参考文献

Study sheds new light on cross-species virus spillovers that can cause pandemics
https://www.stir.ac.uk/news/2024/april-2024-news/study-sheds-new-light-on-cross-species-virus-spillovers-that-can-cause-pandemics/

Chimps are now eating disease-ridden bat feces as over-farming wipes out food sources in Africa…and experts warn it could start next pandemic
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-13345441/chimps-eating-diseased-bat-feces-uganda.html

元論文

Selective deforestation and exposure of African wildlife to bat-borne viruses
https://doi.org/10.1038/s42003-024-06139-z

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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