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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】見えない火山内部を推理!まるで探偵「火山研究」


日本には111個もの活火山があり、これは世界にある活火山の7 %を占めています。

そのため日本に住んでいれば、誰もが頭に思い浮かぶ身近な火山があるはずです。

そんな近くの火山について、「活火山と聞いたことあるけど、あれっていつか噴火するの?」と不安に思ったことがあるでしょう。

台風は危険が迫れば気象衛星の画像から目で確認できますし、地震は予測が難しいもののその原理はプレートの歪みにあることを私たちは知っています。

しかし、火山がどうやって生まれ、どういうタイミングでいつ噴火するのか?活火山と死火山は何が違うのか?こうした疑問についてはあまり良く知らないという人がほとんどではないでしょうか?

実際火山は非常に研究が難しい存在です。

人間の人生というスケールではまったく推し量れないほど非常に長い活動周期。見ることのできない深い地下に潜むマグマの状態。

それを歴史の史料や、火山から吹き出た降下堆積物をヒントに推理していかなければならないのです。

日本には警戒しなければならない活火山がいくつもありますが、火山学者たちはわずかな降灰からどうやって火山の状態を理解しているのでしょうか?

富士山のような巨大な火山がもし噴火した場合、人々の生活にはどのような影響が予想されるのでしょうか?

今回はそんな身近だけれどよく考えると知らないことだらけの火山について、産業技術総合研究所の地質調査総合センター 活断層・火山研究部門副研究部門長 石塚 吉浩さんにお話を伺いました。

この記事は、「産総研マガジン」でも同時公開されています。産総研マガジンの記事はコチラ!

目次

  • どういうきっかけで火山学者になるの?
  • 観光地でもあり生活道路でもある、火山防災の難しさ
  • 火山の動向を探るための噴火後調査は危険と隣り合わせ
  • まるで探偵!研究者が火山灰からわかること
  • 富士山はまだ若い!火山の一生ってどうなっているの?
  • 火山学者から見ても美しい富士山の魅力

どういうきっかけで火山学者になるの?

――まず私たちからすると火山学ってかなり特殊な分野で、高校生くらいまでの間に触れる機会ってほとんど無いと思うんですね。

なので火山学者ってどういう人がなるんだろうっていう疑問があるんですが、石塚さんが火山学者になろうと思ったきっかけって何だったのでしょう?

石塚: 大学では地質学を専攻していました。4年生に進学する時に、火山をやっている研究室に進みました。

火山の研究に進んだきっかけは2つあって、1つは単純に山が好きだったからです。

もう1つは、当時、雲仙普賢岳が噴火していた時に、大学の先生が現場に行かれていて最新の情報を講義で話してくれたんです。その話しが非常に興味深くて、この先生がいたというのが火山の研究室に進んだ理由ですね。

―― 先生の存在が大きかったんですね。

石塚:先生の存在は、いろんなところで皆さんそうだと思いますが、大きいと思います。

学生っていうのはまっさらですから、面白い講義をされるとか、学生と深く付き合ってくれる先生と出会うことで、染まっていく部分があると思います。

―― 学生時代にフィールドワークに行かれたことはありますか?

石塚: 4年生から卒業研究を始めて、私は北海道の利尻山をフィールドに選んで、ずっとフィールドワークをやっていました。

―― 火山のフィールドワークでは、登山のテクニックが必要だと思うのですが、石塚さんはもともと登山がお好きだったということで、そこまで苦労はなかったんでしょうか。

石塚:私の場合は、学部の若い頃に、山スキー部の団体に入っていまして、真面目な授業にはあまり出ずに、ずっと山を登っていました。

学生としてはあまりよくなかったかもしれませんが、登山の技術は身につきましたね。

――他の火山研究者の方もそういう方が多いですか?

石塚:相対的にみれば、火山研究者には山系団体出身者が多いですね。

しかし昔は公務員試験を受けて入省し、先輩から実地で訓練を受けるルートもありました。

最近はそうした徹底した訓練はなくなり、研究者個人の技術に合わせて適切なフィールドを選ぶようになっています。

観光地でもあり生活道路でもある、火山防災の難しさ

――先ほど雲仙の噴火の話が出ましたが、雲仙が温泉地として有名であるように火山のある場所は温泉やスキー場、登山スポットといった観光要素が強いですよね。

しかし、火山活動が活発化してくると、一時閉鎖などの処置が取られますよね。

こういう危険な地域でありながら、同時に観光地であるという2面性を持つ場所を調査するのは、気を遣う部分もあって難しさがあるように感じますが、こういう部分で研究していく上で大変なことってありますか?

例えば噴火警戒レベルを、どうやって決定するのかって気になっているんですが。

石塚:まず、火山の噴火警戒レベルは気象庁が決めます。

レベル3になると火口周辺が立入禁止になり、レベル4で高齢者等の避難、レベル5で全住民の避難となります。

ただし、実際の避難の指示は自治体の首長が出します。

――では研究者はあくまでデータを集めて示すだけで、避難の判断は行政がするのですね。

石塚:そうです。私たち研究者は、データを基に科学的に噴火の可能性を評価し、気象庁がそれを警戒レベルに反映させます。その後の避難判断は自治体が下すことになります。

観光地としての難しさは、噴火の兆候があれば当然避難が必要になり観光に支障が出ます。

一方で、噴火しなかった場合にいつ解除するかが難しい問題です。地震や山体の膨張など前兆現象があっても、必ずしも噴火に至るとは限らないためです。

有珠山の2000年の例では、数日前から地震が活発になり避難となりましたが、その後地震の回数が減ってきた頃に噴火しました。しかし、その後の噴火の状況を見極めながら、段階的に避難解除が行われました。

このときは、データに基づいて適切に対応できた良い例と言えます。

――確かに、観光面だけでなく、地元住民の生活への影響も大きいですよね。完全に予測できないリスクを抱えながら、どう対応するかは非常に難しい課題だと思います。

例えば産総研でも調査を行っている草津白根山の場合、国道が火口のすぐ近くを通っているので、火山活動が活発化するとすぐに通行止めになるんですよね。

石塚:そうなんです。草津白根山では、火山活動のレベルに応じて、国道に規制が敷かれます。

例えば、火山性地震が増えたり、山体の膨張が観測されたりすると、レベル2に引き上げられて、国道が通行止めになることがあります。

―― レベルの判断は、気象庁がデータに基づいて行っているんですよね。研究者の立場から見ると、レベルの引き上げ基準などについては、どう感じられますか。

石塚:そうですね。気象庁では、過去の事例なども参考にしながら、レベルの基準を設定しています。

ただ、火山活動の評価には、さまざまな不確定要素が伴うので、判断が難しい場合もあるでしょう。観測データ上は活発化しているように見えても、実際の現象としてはそれほど顕著でないケースもありますからね。

規制をかけるタイミングは、社会的な影響も考慮しながら、慎重に見極める必要があると思います。かといって、安全サイドに倒しすぎると、今度は住民生活への支障が大きくなる。そのバランスを取るのは、なかなか難しい課題だと感じています。

―― 火山防災は本当に難しいのですね。

石塚:そうですね。火山の防災対策は、科学的なデータだけでは判断しきれない部分もあります。

火山の専門家と、行政、住民が連携しながら、火山との賢明な付き合い方を模索していく。そういう地道な努力の積み重ねが、火山防災には欠かせないのだと思います。

火山の動向を探るための噴火後調査は危険と隣り合わせ

――火山噴火後の調査報告書をいくつか拝見させていただきました。早いものだと噴火翌日には調査が行われていますが、噴火後の調査はどの程度のスピード感が求められるのでしょうか。

石塚:結論から言えば、早ければ早いほうがいいですね。なぜかというと、火山の場合、噴火が起こった後に次にどうなるかを判断する必要があるからです。

地震とは異なり、火山では最初の噴火の後により大きな噴火が起こる可能性や、逆に定常的な活動に移行したり収束したりする可能性があります。これを見極めるために、様々なデータの解析が必要となります。

――噴火後に火山灰の採取やガスの調査などを行うとき、一般の方が避難している場所に研究者の方々は立ち入ることもあるのでしょうか?

石塚:基本的に立入禁止区域には研究者も入りません。例外的に、事前申請を行い、安全が確保できると判断された場合のみ、規制区域内に入ることがありますが、基本的には規制区域のギリギリまで入って行うことが多いです。

例えば、2018年に白根山が噴火した時は、火口から2キロ圏内が立ち入り禁止になっていたので、その外側の山の中を、スキーを履いて移動しながら、火山灰の堆積状況などを調べました。

―― 2キロ圏外からでも、火山灰の調査はできるものなんですね。

石塚:そうですね。火山灰は風に乗って広範囲に拡散するので、噴火の全体像を把握するには、できるだけ広いエリアをカバーする必要があります。

私たちは、規制区域のすぐ外を歩いて、次々とサンプリングポイントを変えながら、火山灰を採取していきました。

――白根山の調査では火山灰が雪に挟まれていた写真が印象的でした。

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2018年草津白根山噴火(1月)で雪の中で行われた調査の様子/Credit:産業技術総合研究所 地質調査総合センター(撮影:石塚)

石塚:あのときは噴火の翌々日に調査に向かったのですが、噴火後にかなり雪が降ったので、雪の中に火山灰がサンドイッチされているような状態でしたね。これを雪ごと持って帰って火山灰の重さを測定することで調査を行いました。

――雪ごとというと、かなりの重さですよね?それを持ちながら雪山を下るというと…

石塚:そうですね。かなり体力がいります。

――少し話が変わりますが新燃岳の調査報告書では火山灰が大量に車に積もっている写真もありました。機材や車などに詰まって故障するのではと心配になったのですが、そのようなトラブルの経験はありますか?

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2017年霧島新燃岳噴火(10月)での火山灰調査/Credit:産業技術総合研究所 地質調査総合センター(撮影:石塚)

石塚:通常の火山灰の量では、車や機材が簡単に壊れることはありません。

ただし、2000年の有珠山噴火の際は、粘土質の火山灰が大量に降りました。このため車のサスペンションに火山灰が詰まって固まり、ハンドル操作が困難になるなど、怖い思いをしたことがあります。

ただ、桜島のような定常的に噴火している火山の火山灰では、これまで機材が壊れたという経験はありません。

――その他にも火山灰によって困ったことはありましたか?

石塚:私はコンタクトをつけているのですが火山灰の細かい粒子で目がチカチカすることがあります。

調査の際はゴーグルの着用が欠かせません。

――ここまで火山灰の調査について伺いましたが火山ガスの調査についてはいかがでしょうか。ガスは目に見えないのでまた違った危険性があると思います。どのような安全対策を取られているのでしょうか。

石塚:火山ガスの専門家は、防毒マスクなどの保護具を着用し、細心の注意を払って調査しています。

最近では、ドローンなどの無人機を活用することで、危険区域に直接立ち入ることなくガス観測ができるようになってきました。

それでも、調査地点では硫黄臭などガスの存在を感じることはあります。よく勘違いされますが、危険な火山ガスである硫化水素は硫黄臭などなく無臭なので注意が必要です。

まるで探偵!研究者が火山灰からわかること

―― 火山噴火後の動向を探るために火山灰を調べるとありましたが、具体的にはどのようなことがわかるのでしょうか?

例えば、マグマ性なのか、水蒸気爆発なのかというのは、どうやって判断できるんでしょうか。

石塚::まず、火山灰の量についてお話しすると、私たちは火山灰の分布を細かく調べることから始めます。

多くの地点でデータを取り、それを面的に広げていく。そうやって立体的に分布を把握していくんです。それで火山灰の総量を見積もるわけですが、これは警察の捜査にも似ていますね。

次に、火山灰の性質について。マグマ物質が含まれているかどうかで、マグマ噴火なのか、水蒸気噴火なのかの判断をします。

例えば、火山灰に発泡した軽石があるとか、新鮮なガラス片が含まれているといった特徴があれば、マグマ噴火の可能性が高いです。

ただ、こうした判断は簡単にできるものではなくて、火山灰をたくさん見て経験を積まないと、瞬時の判断は難しい。高度な知識と経験が求められる世界だと言えます。

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2017年霧島新燃岳噴火による火山灰の顕微鏡写真:(赤丸)ガラス光沢のある暗色粒子、(青丸)半透明の淡色粒子、(白丸)表面に黄鉄鉱が付着する白色粒子。/Credit:産総研 地質調査総合センター

―― 火山灰の分析って、研究者の経験や能力に大きく左右されるんですね。

石塚:そうですね。火山灰の分析は、どうしても属人的になってしまう部分があります。物理学や地球化学の専門家でも、火山灰をあまり見慣れていない人には、判断が難しいかもしれません。

でも最近は、AIを使って火山灰の自動識別を進める研究も始まっています。将来的には、ある程度自動で判別できる時代が来るかもしれませんね。

―― AIで火山灰の分析が自動化されたら、研究の幅も広がりそうですね。

石塚:その通りだと思います。

ただ、最終的な結論を出すには、やはり研究者の判断が必要になるでしょう。

AIには大量のデータを分析させて、こんな感じだというところまで持っていく。その上で、人間の研究者が考察を加えて結論を導き出す。そんな流れになるんじゃないでしょうか。

―― ベテラン刑事の勘みたいなものが大事なんですね。長年の経験から培われた、目利きの力というか。

石塚:そういう面はありますね。火山灰を長く見続けてきた人には、パッと見ただけで「これは」と直感できるものがある。

もちろん、科学的な根拠に基づいた判断であることが大前提ですが、そこに研究者の勘みたいなものが加わることで、より深い考察ができる。

火山灰の分析には、そうした研究者の経験知が欠かせない部分があるんです。

富士山はまだ若い!火山の一生ってどうなっているの?

―― ここまで噴火した後の火山の調査についてはお話を伺いましたが、噴火前の火山の調査というのも行われているんですよね。

石塚:はい、それが私たちの通常業務です。緊急時だけでなく、平常時から火山の状態を調べています。

例えば富士山も、どの時代にどんな噴火があったのか、どこでどういう噴火をしたのかを解明するために、山全体をフィールドワークして、噴火の痕跡を探しています。

―― 調査の仕方は、火山ごとに違うものなんですか?

石塚:火山や対象によって臨機応変に変えていきます。研究者の関心によっても調査の仕方は変わってきます。

ただ共通しているのは、過去の噴火履歴を丁寧に追っていくことですね。噴火の時期や場所、噴火様式などを特定していく地道な作業が基本にあります。

―― 過去の噴火の歴史を紐解くことで、どんなことがわかるんでしょう? 将来の噴火予測にも役立つのでしょうか。

石塚:まさにその通りです。過去の噴火の記録は、将来の活動を予測する上で欠かせません。

でも研究の原点は「なぜこの山ができたのか」という素朴な疑問なんです。知的好奇心を満たすことが出発点で、それを将来予測につなげていく。

若い頃は予測よりも、山の成り立ちそのものに興味があったんですが、年を重ねるにつれ、火山と社会との関わりを意識するようになりました。防災の重要性を認識し、そのために研究をしているという思いが強くなってきましたね。

―― 火山の状態というと、よく活火山とか休火山、死火山みたいな言葉を聞きますが、これってどういう状態と理解すればいいんですか?

石塚:活火山とか休火山、死火山という言葉は、以前は使われていましたが、今は活火山か、そうでない、という分類になっています。

火山の寿命は数十万年と考えられていて、どの段階にあるのか、どういう活動をしているのかは、火山学の大きなテーマです。

――例えば富士山は活火山って呼ばれますよね。でも私たちから見ると富士山って登山客でごった返していて安全な山に見えます。実際、富士山は火山学者から見るとどういう状態なんでしょうか?

石塚:富士山は、今でも活発な火山の一つに数えられ、常時観測の対象になっています。直近の噴火は江戸時代中期の宝永噴火ですが、それ以降も地震活動などの高まりが観測されることがあります。特に異常は見られないけれど過去に規模の大きな噴火を繰り返し起こしたことも考慮されるので、富士山は重要な位置づけにあるんです。

―― さきほど山の成り立ちに興味があったという話がありましたが、富士山の誕生はいつ頃だったんでしょう?

石塚:最初の噴火は、今からおよそ10万年前と考えられています。山麓の地層から、当時の噴出物が見つかっているんです。

ただ、それ以前の活動についてはよくわかっていません。その後の新しい噴出物に埋積されて、痕跡が見つかりにくいので。

―― そもそも火山はどのようにして生まれるんですか?

石塚:火山は、マグマが地下で溜まり、地表に噴き出すことで形成されます。マグマが上昇してくる通り道ができ、そこから噴火が繰り返されることで、山体が成長していくんです。マグマだまりの状態が、火山の活動に大きく関わってきます。

―― 日本の火山は、これからも新しく誕生する可能性があるんでしょうか。

石塚:十分ありえます。実際、小笠原諸島の西之島では、2013年に噴火が始まり新島が形成されました。その後、溶岩の流出によって島が拡大し、国土が広がっているんです。

日本列島はもともと、こうした火山活動によって作られてきました。大昔の海底火山の噴火が、現在の陸地を形作ったと言えるでしょう。

―― 逆に火山の寿命というのは、どのように捉えられているんですか?

石塚:火山の寿命を特定するのは難しいんです。最初の噴火から、活動が完全に収束するまでを寿命と考えることもできますが、噴火の痕跡は地下深くに埋もれてしまうことが多い。

ただ、最初の爆発的噴火の年代が特定できれば、おおよその寿命は見えてきます。多くの火山の寿命は、数十万年程度と考えられています。

―― こうして聞いていくと火山にも人生というか一生と呼べるものがあるんだなと感じますが、火山の一生っていうのはどんな風になっているんでしょうか?

石塚:火山の一生には、ある時期に「急に成長する」時期があると考えています

誕生から間もない時期は、マグマはあまり地表に噴出されずに活動は低調なのですが、「成長期」になると、短い期間で繰り返しマグマがたくさん出て、山をどんどん高くするようになります。溶岩流、規模の大きなプリニー式噴火(連続的に大量な軽石・火山灰を放出する爆発的噴火)、その爆発的噴火による噴煙中が崩壊して火砕流の流下も起こしたりします、最も活動的な時期です。

成長期には山体崩壊して山を崩すこともあり、崩しても再び成長していったりします。成長期が過ぎていくと、長い期間をかけて噴火の頻度は減っていき、山は侵食が進んでいきます。

もちろん、これは一般論で、火山によって特性は異なります。

―― その考え方では富士山は、今どの段階なんでしょう?

石塚:富士山は、まだ誕生から若く成長期に入ったあたりと考えています。初めての噴火から10万年ほどで、火山の寿命から見れば、まだ若いんです。溶岩流の噴出や山体崩壊を経験しながらも、全体としては成長を続けている。

富士山の美しい山容も「若い」の特徴と言えるでしょう。

――若々しい立派な佇まいが、富士山の美しさの理由というのは興味深いですね。でもまだ「若年期」ということはこれからも激しい噴火が起きる可能性は高いということでしょうか? 富士山の噴火って首都含めた大惨事になりそうなので、どんな影響があるのか恐ろしいですが。

石塚:1707年の富士山の噴火では、横浜で15cm近く、東京でも数cm の火山灰が積もったと言われています。

現在、東京湾周辺には多くの火力発電所がありますので、もし富士山が噴火して同じくらい火山灰が積もれば、大きな影響がでます。火力発電所ではガスタービンを回すために大量の空気を取り入れているため、その空気と一緒に火山灰を吸い込んでしまい、フィルタの目詰まりで空気が取り込めず発電機が停止してしまう可能性が考えられます。

電力会社はこの点を考慮して対策を講じていくと聞いています。

――火山灰が電力インフラにまで影響を及ぼすとは驚きです。

石塚:火山灰が湿っていると、送電線の碍子(がいし)と呼ばれる白くてそろばんみたいな部品間で火山灰がショートを起こし、停電につながることもあります。送電線の碍子は、本来なら絶縁体として機能するように瀬戸物を積み重ねた構造になっていますが、火山灰に含まれるイオンにより導電性が生じ、ショートを引き起こすのです。

送電線の碍子(がいし)。ここに火山灰が積もると電線がショートしてしまう。
送電線の碍子(がいし)。ここに火山灰が積もると電線がショートしてしまう。 / Credit:canva

数mm程度の湿った火山灰でもショートが起きて送電が止まる例が、ニュージーランドや阿蘇で報告されています。

――噴火というと土石流などのインパクトが強かったので、火山灰で停電ってあまり結びつけて考えた事がなかったですが、富士山が噴火した場合、首都圏大停電という事態が考えられるんですね。東京や横浜まで届いたというお話からも、火山灰は影響が及ぶ範囲が広いので、その原理で火山灰の停電が発生したらインフラの復旧がかなり困難になりそうですね。たとえ火山から離れていても決して他人事ではない問題になりそうです。

火山学者から見ても美しい富士山の魅力

―― さきほど富士山はまだ若いので美しいというお話が出ましたが、火山の形というのは噴火を繰り返すことでどんどん変わっていくものなんでしょか? 富士山も今とは全然違う姿だったりしたんですか?

石塚:3500年前頃の富士山は現在よりもさらに美しい姿をしていたと考えられています。山頂部にあるような大きめの火口や谷はなく、もっと整った山容だったのではないでしょうか。そして平安時代には頻繁に噴火していました。

実際、富士山の東側を通る街道が噴火で寸断され、ルートを変更したという記録が残されているんです。

――思えば、多くの人が富士山を「美しい」と感じるのは結構不思議ですよね。富士山は火山学者から見ても、特別な山なのでしょうか?

石塚:その通りだと思います。

富士山の美しさは、火山学的にも特別なものだと言えるでしょう。現在のあの美しい姿は、約2万年前の山体崩壊を経て、その後の噴火で作り直されてきた賜物なんです。

なので私たちは、富士山が最も美しい時代の一コマに生きているのかもしれませんね。

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北西の精進湖(手前)から望む富士山。平安時代に噴火した溶岩流によって精進湖はつくられた。/Credit:産業技術総合研究所 地質調査総合センター(撮影:石塚)

―― 今の富士山の美しさは、これまでの火山の活動によるものなのですね。

石塚:まさにその通りです。富士山の風格は、何万年もの噴火の歴史が刻み込まれた結果なんです。山頂部が崩れ、それがまた火山活動で復元される。そのダイナミックな営みの賜物が、現在の優美な山容だと言えるでしょう。

―― 実はオンラインでお話を伺っているとき、石塚さんの背景はずっと富士山なんですよね(笑)。ここまでのお話を聞いていても石塚さんが富士山に非常に魅力を感じている事が伝わります。富士山の調査で、石塚さんが特に注目されていることは何なのでしょうか?

石塚:私が興味を惹かれているのは、噴火様式の変化ですね。富士山は、時代によって噴火のスタイルが大きく変化しているんです。山頂噴火が卓越する時期もあれば、山腹や山麓からの噴火が目立つ時期もある。

その噴火様式が切り替わるメカニズムは、とても興味深いテーマだと思っています。

―― 噴火様式の変化は、どうやって判断できるんですか?

石塚:過去の噴火の痕跡を丹念に調べることで、ある程度はわかってきます。

例えば、山麓のある地点で厚い堆積物が土壌を挟んで何層も重なって、それが山頂に向かって更に厚さが増していけば、山頂噴火が卓越していた証拠になります。

逆に、山腹斜面でたくさんの火口ができていれば、山腹噴火の時期があったことを示唆しています。

また、過去の溶岩流の下にある炭化木の年代を調べれば、噴火の時期も特定できます。こうした地質調査の積み重ねから、富士山の噴火史が少しずつ明らかになってきたんです。

―― 噴火様式が変化する要因は、まだよくわかっていないんですか?

石塚:正直言って、まだ十分な解明には至っていません。マグマの性質や量、地下のマグマ溜まりの状態など、様々な要因が絡んでいると考えられます。ただ、噴火様式の変化を読み解くことは、富士山の特性を知る上で避けて通れないテーマです。

私自身、大学の研究室などと協力しながら、その解明に取り組んでいきたいと考えています。


火山大国である日本は、時に噴火という大災害に苛まれながらも、美しい景観や地熱、豊かな水、それによって得られる農作物など、さまざまな火山の恵みも享受してきました。

日本の象徴である富士山もまた活火山の一つです。

私たちは山々を見るとつい「時を経ても変わらない自然の雄大さ」のようなものを感じてしまいますが、研究者は山の一生に目を向けて、その形成の理由から、火山活動の変化、そしてその終わりを解明しようと試みています。

石塚さん自身、そのすべてはまだ解明できず、未知の問題に取り組み続けています。

それは火山を理解することで未来の災害に対処するという意義もありますが、何よりも研究者自身が火山の魅力に取り憑かれてしまったからとも言えそうです。

富士山も平安時代は形が違ったように、活火山は噴火活動によっていつ形を変えてもおかしくありません。私たちが見て美しいと感じる自然の姿、山の形には科学的にも美しいと呼べる背景があります。

富士山の姿が噴火活動を重ねて奇跡的に今この時代にだけ生み出された景観なのだと考えると、改めてその美しい山容を見るとき、この時代に生きるありがたさを感じられるかもしれません。

日本は火山とともに成り立った大地です。もっと火山について学び、その魅力を理解して伝えていきたいですね。

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ライター

いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。

編集者

産総研マガジン編集部: 日本最大級の国立研究機関、産業技術総合研究所。通称:産総研。ぶらぶら歩いてその土地の地質を紹介する番組に出演したり、腰の筋トレに役立つ「あえて歩きにくい靴」を運動靴メーカーと共同開発したり。「さんそうけん」の名前を知らないあなたの身近にも、すでに研究成果が生かされている…そんな研究所です。

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