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「緊急避妊薬」の薬局での販売が試験的に開始!薬の仕組みと副作用、取り組みへ懸念とは?


今月28日、緊急避妊薬を医師の処方箋なしで販売する取り組みが全国145の薬局で開始され、話題となっています。

望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬はこれまで、国内で入手するには対面ないしオンラインでの医師の処方箋が必要でした。

しかし緊急避妊薬は服用が早ければ早いほど効果が高く、海外の多くの国ではすでに処方箋なしでの販売が行われています。

そこで厚生労働省は、日本でも処方箋なしでの安全な販売が可能かどうかを試験的に実施することにしました。

調査は来年3月までを予定し、その結果を踏まえて、薬局での販売を全国で一般化するかどうかを決めるという。

では、今回の取り組みに関し、懸念すべき点はあるのでしょうか?

また、そもそも緊急避妊薬とはどのように効果を発揮するものなのでしょう?

目次

  • 日本では「医師の処方箋」が必要
  • 今回の取り組みの懸念すべき点とは?

日本では「医師の処方箋」が必要

緊急避妊薬(アフターピル)とは、望まない性行為や避妊に失敗した際に、女性が服用することで妊娠を防ぐ薬です。

現在、日本で認可されている緊急避妊薬は「ノルレボ錠1.5mg」「レボノルゲストレル錠1.5mg」の2種類で、主に産婦人科や婦人科を受診して処方してもらいます。

通販や薬局のみでの販売はなく、処方には必ず医師による対面かオンラインでの診察が必要です。

海外サイトで販売されている場合もありますが、これらは安全性が保証されておらず、何らかのトラブルが生じても公的な補償が受けられません。

処方可能な全国の医療機関の一覧については、こちらの厚生労働省のページに記載されています。

日本で認可されている緊急避妊薬「レボノルゲストレル錠1.5mg」
日本で認可されている緊急避妊薬「レボノルゲストレル錠1.5mg」 / Credit: 富士製薬工業株式会社(PDF)

緊急避妊薬の仕組みとは?副作用はある?

緊急避妊薬の主な働きは、排卵を遅らせる作用により妊娠の成立を防ぐことです。

具体的には、薬剤に含まれる黄体ホルモン(プロゲステロン:女性ホルモンの一種)が排卵を抑制し、受精卵を作らせないように働きます。

また子宮頸管粘液(しきゅうけいかんねんえき)という子宮口の粘液の粘度を増加させて精子の運動性を低下させ子宮内への侵入を防ぎます。

加えて、子宮内膜の増殖を防止して体温の上昇を防ぐ作用があるため、たとえ受精卵になったとしても着床を防いで妊娠を防止します。

低用量ピルで避妊効果が得られる仕組み
低用量ピルで避妊効果が得られる仕組み / Credit:© 吉祥寺まいにちクリニック内科皮膚科泌尿器科

こうした緊急避妊薬は性行為から早く服用するほど効果が高まります。

過去の調査によると緊急避妊薬による妊娠阻止率は、性行為から24時間以内の服用で95%、48時間以内で85%、72時間以内で58%となっています。

避妊の成功率を上げるためにも、できるだけ早い服用が大切です。

妊娠阻止率の時間ごとのグラフ
妊娠阻止率の時間ごとのグラフ / Credit: 日本産科婦人科学会『緊急避妊法の適正使用に関する指針』(PDF)

グラフ中の白で示された「ヤツペ(Yuzpe)法群」とは、レボノルゲストレルが承認される2011年以前に一般的であった緊急避妊法のことで中用量ピルを2錠を服用し、その12時間後にさらに2錠服用するというものです。

これは現在の緊急避妊薬と比べて効果が劣り、副作用も出やすかった方法です。

青で示された「LNG群」が、日本でも認可されている安全で効果の高いとされる「レボノルゲストレル」を服用した場合です。

ただ安全とは言っても、レボノルゲストレルでもまったく副作用の心配がないとは言えません。

上述した通り、避妊薬は黄体ホルモンという女性ホルモンが含まれており、これが身体に働きかけることで妊娠を防いでいます。

レボノルゲストレルは女性ホルモンの量が少ない低用量ピルに分類されますが、緊急で妊娠を回避するために通常のピルよりは黄体ホルモンが多いため体内のホルモンバランスが崩れ、頭痛・吐き気・倦怠感・悪心・嘔吐・腹痛といった症状が出るケースがあります。

これらの症状の多くは数時間〜1日で自然に治まるとされています。

副作用の発現率
副作用の発現率 / Credit: 日本産科婦人科学会『緊急避妊法の適正使用に関する指針』(PDF)

緊急避妊薬の効果は服用後2〜3時間で出始めますが、もし薬を飲んで2時間以内に吐いてしまうと、成分が吸収されずに避妊効果が得られない可能性があります。

ただそのような場合は、もう一度服用するのではなく、医療機関を受診するよう勧められています。

では、今回の「医師の処方箋なしでの販売」という取り組みに関し、懸念すべき点はあるのでしょうか?

今回の取り組みの懸念すべき点とは?

日本ではこれまで、緊急避妊薬が医師の処方箋なしで手軽に入手できるようになると、避妊をせずに性行為する人が増えたり、誤った性認識が広がるのではないかと、反対意見が多くを占めていました。

そのため、緊急避妊薬の薬局での市販化がたびたび見送られてきています。

それでも緊急避妊薬は服用が早いほど効果も高く、望まない妊娠を避けたい女性にとって急を要する問題です。

こうした背景を受けて、今回の取り組みにはいくつかのルールが設けられました。

1つは緊急避妊薬を購入できるのは調査研究の参加に同意した16歳以上の女性であることです。

また16〜18歳の未成年については保護者の同意がなければなりません。

もう1つは販売価格が7000〜9000円とかなり高価なこと。

それから、この取り組みに参加する薬局がわずか145軒であり、さらに購入者は薬剤師の目の前で薬を飲まなければなりません。

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Credit: canva

こうした点を受け、『緊急避妊薬を薬局でプロジェクト』の共同代表を務める福田和子氏は「多感な年齢の子供たちでは親に相談しづらく、また値段も高すぎて購入が難しいのではないか」と指摘します。

加えて「参加する薬局の数が少なすぎるため、本当に困っている人に緊急避妊薬が届かない可能性が高い」と続けます。

海外に目を向けると、医師の処方箋なしで緊急避妊薬を入手できる国は90カ国以上あり、中には親の同意がいらなかったり、学校などで無料配布している国もあります。

それから価格も安く、ドイツでは約2200円、アメリカでは約4200〜5300円、イギリスやフランスでは約900円で入手できます。

これらを踏まえ、福田氏は「本当に必要な人が確実に入手できることに貢献するような承認をしてほしい」と話しました。

一方、街の声としては「副作用の問題など、もし自分の子供が飲んだらと思うと不安」とか「薬が手軽に入手できることで性行為を安易に考える人が増えるのではないか」といった意見が見られます。

確かに十分な知識を身に着けず、緊急避妊薬を性行為のたびに乱用する人が現れる危険はあるでしょう。

緊急避妊薬はあくまで緊急で使用するための薬であり、通常のピルに比べるとホルモン量が多く、乱用すればホルモンバランスを崩す恐れが高くなります。

さらに長期的に服用した場合の危険性について、この薬はまだ十分に理解されていないため、乱用する人が出た場合のリスクがまだよくわかりません。

また特に問題となるのが、緊急避妊薬は性感染症に対して無力であるということです。

これまでコンドームを利用していた人たちが、緊急避妊薬があるからといってこちらの利用を優先するようになると性感染症の拡大に繋がる恐れがあります。

今後、緊急避妊薬が全国の薬局で手軽に買えるようになるのかどうか、今回の取り組みの結果に注目が集まります。

全ての画像を見る

参考文献

緊急避妊に係る取組について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186912_00002.html

緊急避妊薬・アフターピル(PILCON)
https://pilcon.org/help-line/afterpill

緊急避妊薬という選択肢をご存知ですか?(愛知県薬剤師会)
https://www.apha.jp/medicine_info/entry-11729.html#:~:text=%E7%B7%8A%E6%80%A5%E9%81%BF%E5%A6%8A%E8%96%AC%E3%81%AB%E5%90%AB%E3%81%BE,%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%82%92%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

緊急避妊薬に関する海外実態調査 結果概要(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000910042.pdf

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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