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発生源不明の244エクサ電子ボルトの宇宙線「アマテラス粒子」を日本の研究者が発見


宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子「宇宙線」は、常時地球に飛来しています。

そして稀に、「非常に強力な宇宙線」が降り注ぐこともあるようです。

今回、大阪公立大学大学院理学研究科に所属する藤井俊博(ふじい としひろ)氏ら研究チームは、244エクサ電子ボルト(2.4×1020電子ボルト)という非常に強力なエネルギー量を持つ「宇宙線」の検出を報告しました。

エクサという単位に馴染みがない人も多いでしょうが、テラ、ペタの上に来る単位で、244エクサ電子ボルトは1億の2.4兆倍という値になります。

2021年5月27日に検出されたこの宇宙線は、アメリカ・ユタ州における国際共同宇宙線観測実験「テレスコープアレイ実験」における15年以上の観測の中で最もエネルギーが高いものでした。

しかも、この宇宙線の発生源は見つかっておらず、未知の天体現象である可能性もあるのだとか。

研究の詳細は、2023年11月24日付の『大阪公立大学のプレスリリース』にて発表されており、同日付で科学誌『Science』にも掲載されます。

目次

  • 地球に降り注ぐ「強力な宇宙線」を観測する
  • テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーを持つ「アマテラス粒子」を検出

地球に降り注ぐ「強力な宇宙線」を観測する

「宇宙線」は、宇宙空間を飛び交う粒子であり、陽子や原子核などが含まれます。

これらの粒子は高いエネルギーで飛び交っているため「放射線」とも呼ばれます。

そして宇宙線の中でも、特に高いエネルギーを持つものは、一般的な宇宙線とは異なり、宇宙磁場で曲がりにくくなります。

極高エネルギー宇宙線による次世代天文学の概念図。極高エネルギー宇宙線は宇宙磁場内をほぼ直進するため、その到来方向が起源方向を指し示すと期待されている。
極高エネルギー宇宙線による次世代天文学の概念図。極高エネルギー宇宙線は宇宙磁場内をほぼ直進するため、その到来方向が起源方向を指し示すと期待されている。 / Credit:大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige_【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出(2023 ICRR)

これはつまり、「強力な宇宙線の到来方向が、その発生源を指し示す」ということです。

この性質により、地球に降り注ぐ高エネルギーの宇宙線を分析することは、「次世代天文学」の観測方法となりえるのです。

これまでの観測では、100メガ電子ボルト(108電子ボルト)から100エクサ電子ボルト(1020電子ボルト)を超える宇宙線が検出されてきました。

(100エクサ電子ボルトのエネルギーは、地上最大の粒子加速器の到達エネルギーよりも7桁大きく、宇宙最大のエネルギーを持つ粒子だと言えます)

これら莫大なエネルギーの発生源は、宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」や超巨大ブラックホールから吹き出すジェットなどと予想されていますが、現在のところ正確な原因は特定されていません。

24億光年先で発生した「史上最強のガンマ線バースト」が22年10月地球の電離層を撹乱していた!

それでも、これら強力な宇宙線の観測を続けていくなら、いずれ宇宙の神秘を紐解くことができるかもしれません。

そしてこの度の大きな発見は、天文学者たちに大きな衝撃を与えるものとなりました。

なんと、244エクサ電子ボルト(2.4×1020電子ボルト)の宇宙線が観測されたのです。

テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーを持つ「アマテラス粒子」を検出

アメリカ ユタに設置されているテレスコープアレイ実験の地表粒子検出器
アメリカ ユタに設置されているテレスコープアレイ実験の地表粒子検出器 / Credit:大阪公立大学_【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出(2023 ICRR)

2008年から2023年現在に至るまで、アメリカ・ユタ州で、最高エネルギー宇宙線観測実験テレスコープアレイ実験が続けられています。

このテレスコープアレイ実験は、ユタ州の砂漠地帯に地表粒子検出器を1.2kmの間隔で507台設置したものであり、700km2の範囲に到来する宇宙線を観測することができます。

非常に高いエネルギーの宇宙線は、地球大気に突入すると、相互作用により、粒子のシャワーとなって広範囲に、ほぼ同時に降り注ぎます。

2021年5月27日にテレスコープアレイ実験で検出された極めて高いエネルギーの宇宙線を地表粒子検出器の信号情報から描画したイメージ図
2021年5月27日にテレスコープアレイ実験で検出された極めて高いエネルギーの宇宙線を地表粒子検出器の信号情報から描画したイメージ図 / Credit:大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige_【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出(2023 ICRR)

テレスコープアレイ実験では、複数の検出器によってこの粒子のシャワーを検出し、信号の大きさと僅かな時間差から、宇宙線の到来方向とエネルギーを推定しているのです。

そして2021年5月27日、テレスコープアレイ実験にて、244エクサ電子ボルト(2.4×1020電子ボルト)の宇宙線が検出されました。

これほど高エネルギーの宇宙線がテレスコープアレイ実験で検出されたのは初めてです。

藤井氏ら研究チームは、この宇宙線を日本神話に登場する神の名前から、「アマテラス粒子」と名付けました。

ただ、これが観測史上最大エネルギーの宇宙線というわけではありません。

これまでに観測された中で最も高いエネルギーの宇宙線は、1991年にユタ州ダグウェイ性能試験場で検出された「オーマイゴッド粒子」であり、そのエネルギー量は320エクサ電子ボルトでした。

この度発見されたアマテラス粒子は、オーマイゴッド粒子に次いで高いエネルギーを持っており、「史上2番目に高いエネルギーを持つ宇宙線」と言えそうです。

2023年5月27日にテレスコープアレイ実験で検出された極めて高いエネルギー宇宙線の信号
2023年5月27日にテレスコープアレイ実験で検出された極めて高いエネルギー宇宙線の信号 / Credit:大阪公立大学_【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出(2023 ICRR)

アマテラス粒子を発見した藤井氏は、次のように述べています。

「この極めて高いエネルギーの宇宙線を初めて見つけたとき、かつてないエネルギーの値が表示されていたため、何かの間違いだろうと思いました」

今回発見された宇宙線は、専門家が目を疑うほどの高いエネルギーを持っていたのです。

では、アマテラス粒子の発生源はいったい何だったのでしょうか?

興味深いことに、この宇宙線が到来した方向には、候補となる有力な天体が見つかりませんでした。

ちなみに、過去最大の宇宙線である「オーマイゴッド粒子」の発生源も不明なままです。

通常、宇宙線は空間を通過する際にエネルギーを失っていくため、これら粒子は、最大1億6000万光年の距離を移動するのが限界だと考えられています。

そのため、地球からこの距離の範囲内に、宇宙線の発生源も存在しているはずです。

テレスコープアレイ実験の拡張計画のために製作し、設置を待つ地表粒子検出器
テレスコープアレイ実験の拡張計画のために製作し、設置を待つ地表粒子検出器 / Credit:東京大学宇宙線研究所_【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出(2023 ICRR)

しかし、太陽系から1億6000万光年以内には、オーマイゴッド粒子やアマテラス粒子を生じさせるのに十分な天体は、何も見つかっていないのです。

それでも藤井氏は積極的な姿勢を崩しておらず、次のように語っています。

「到来方向に候補天体が見つけられず残念に思うと同時に、ではこの宇宙線はどこから来たのか、という新しい謎が見つかったワクワク感を覚えています」

今後、テレスコープアレイ実験は拡張されていくようです。

もしかしたら将来、更なる宇宙線の検出や分析によって、「未知の天体現象」や「標準理論を超えた新物理起源」が発見されるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-08954.html

【プレスリリース】テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/14465/

An Extremely Powerful Cosmic Ray Hit Earth: We Don’t Know Where It Came From
https://www.sciencealert.com/an-extremely-powerful-cosmic-ray-hit-earth-we-dont-know-where-it-came-from

Telescope Array detects second highest-energy cosmic ray ever
https://www.eurekalert.org/news-releases/1008840

元論文

An extremely energetic cosmic ray observed by a surface detector array
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo5095

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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