1行あたりの文字の表示数を多くすると文章が速く読めるようです。
レディング大学のポール・コラーズ氏(Paul Kolers)らの研究チームは、一行当たりの文字数と読む速さの関係性を検討しています。
結果、一文当たりの文字数が多いほど、読み終えるまでにかかる時間が短くなる現象が確認されました。
スマホやkindleで文章を読むときに縦ではなく横向きにし、一行当たりの文字数を多くすることで読み終わる時間を短くすることができるかもしれません。
また表示の文字の大きさを小さくし、一文当たりの文字数を多くすることでも早く読めるようになります。
この一行当たりの文字数を多くすることで読むスピードが速くなる現象は、日本語の文章を対象にした研究でも確認されています。
この研究の初期の報告は、学術誌「Human Factors: The Journal of the Human Factors and Ergonomics Society」にて1981年10月1日に報告されています。
目次
- 速読はただの読み飛ばしでしかない
- 改行時の視線移動が読むスピードを遅くする
速読はただの読み飛ばしでしかない
文章が早く読めるようになれば嬉しいと思いませんか。
これについて「速読」を思い浮かべた人も多いことでしょう。
「速読」について調べてみると、速読トレーニングや速読教室など講座を受講し、周辺視野を鍛えることなどによって速く読めるようになるみたいです。
しかし、近年の文章を読むスピードに関する研究をレビューした、カリフォルニア大学のケイス・レイナー氏(Keith Rayner)らの研究によると、高い理解力を保ったまま読書スピードを上げる技術には科学的な根拠はないと結論づけています。
つまり、理解力の高さと読書スピードはトレードオフの関係を持っており、速読はただの読み飛ばしであるということです。
研究チームは「本を読むのが速い人は、もとから本のテーマに関して多くの知識を有している。そのため、自分の知っている部分を読み飛ばしたとしても、知識で補うことができる」と述べています。
本の読むスピードを速くするには、その本の内容について多くの知識を得て、知っている部分を読み飛ばす必要があることが分かります。
では、理解度を下げるデメリットを受けず、読むスピードを少しでも速くする方法はないのでしょうか。
これに関して、非常に古い研究ですが1981年に報告されたレディング大学のポール・ケラーズ氏(Paul Kolers)らの研究がヒントを与えてくれそうです。
研究チームは、文章の1行当たりの文字数と読了時間の関係性を検討しました。
実験には大学生20名が参加しています。
参加者は①一行が35文字で構成されている文章を読む人と、②一行が70文字で構成されている文章を読む人の、2つのグループに分けられました。
また参加者が文章を読んでいる最中には、どこに視線が向いているか、また留まっているかを分析するために眼球運動を測定しています。
実験の結果、35文字で構成されている文章と比較して、一行が70文字で構成されている文章の方が、約10%速く読み終えることができました。
また一文が長い方が全体として、注視する時間は長くなる一方で、視線を一点に留める回数が少なく済むようです。
この研究は文字の大きさを小さくすることで一列に占める文字数を増やし、一行当たりの文字数が多い場合のほうが読むスピードが速くなることを示しました。
それゆえ文字が小さいことが読むスピードを速くした可能性も考えられます。
改行時の視線移動が読むスピードを遅くする
そこでレディング大学のマリー・ダイソン氏らの研究チームは文字の大きさを一定にし、一行当たりの文字数を多くすることで読むスピードがどう変わるのかを検討しました。
実験に参加したのは、大学生48名です。
参加者は①一行が25文字の文章を読む人と、②一行が55文字の文章を読む人、③一行が100文字の文章を読む人、3つのグループに分けられました。
実験の結果、文字を小さくし一文の文字数を多くした場合と同様に、一文を構成する文字数が多いほど読むスピードが速くなる傾向が確認されました。
この結果は、スマホやkindleを縦画面から横画面にし、一行当たりの文字数を増やすことで読むスピードを速めることができる可能性があると言えるでしょう。
ではなぜ一行の文字数を多くすると読むスピードが速くなるのでしょうか。
それは、人が文章を読む際にもっとももたつくポイントが改行時であるためだとされます。
行の終わりから次の行の先頭まで視線移動を行った際、間違った行を次の行と認識し読み始めてしまったり、正しい行を確認するために行を確認し直すなどの作業を人は行います。
これが読書スピードを下げる原因になってしまうのです。
こうした問題は、近年の研究でも示されています。
その研究では一行の終わりから新しい行の先頭に戻る際に、多くの人がまず先頭よりも少し進んだ部分に視線を置き、そこから先頭に視線を移動させていることがわかっています。
そのため、一行に占める文字数を増やし改行タイミングを減らせば、改行時のもたつきが減り読む速度を早くできると考えられるのです。
しかし一行が長ければ良いというわけではありません。
日本語の文章では、一行当たりの文字数が約20から29文字のときに読むスピードが頭打ちになってしまうようです。
日本の公立はこだて未来大学の小林順平氏ら研究チームは、電子リーダーの一行の表示文字数を5、11、20、29、40文字の条件を設け、読むスピードを比較しています。
結果、一行当たりの文字数が多くなるほど、読むスピードが速くなりました。しかし、一行当たりの文字数が20文字と29文字のあたりでほぼ頭打ちになることが確認されましたのです。
また文字数が20と29文字の時に読者から最も好まれたことも分かっています。
一行当たりの文字数が長くなると、改行でもたつく頻度は減らせますが、一行が長くなりすぎると結局改行時に行の先頭へ戻る視線距離が長くなるため、読む速度を向上させる効果は打ち消しあってしまうようです。
文章を読むときには、文字を小さくし一文当たりの文字数を20-29文字にして読む(文字が小さくて読みづらい人は、スマホの画面を横にして表示文字数を増やす)のはいかがでしょうか。
そうすることで文章を速く読むことができるかもしれません。
元論文
Eye Movement Measurement of Readability of CRT Displays
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/001872088102300502
The effects of line length and method of movement on patterns of reading from screen
https://go.gale.com/ps/i.do?id=GALE%7CA56065304&sid=googleScholar&v=2.1&it=r&linkaccess=abs&issn=00493155&p=AONE&sw=w&userGroupName=anon%7Ea96bf08b&aty=open-web-entry
How physical text layout affects reading from screen
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01449290410001715714
So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help?
https://journals.sagepub.com/stoken/rbtfl/0GSjhNaccRKTY/full
日本語リーダーにおける読み速度と眼球運動の行長依存性に基づく最適行長の検討
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390846637104169856
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。