ネットの「荒らし」とは、SNSや電子掲示板、レビューサイトなどで、故意に他人を挑発したり暴言を吐いて、争いを煽り、オンライン上のコミュニケーションを妨害しようとする迷惑行為です。
SNSをしている方なら、通り魔的にネット荒らしに遭遇した経験があるかもしれません。
ブラジル・パライバ連邦大学(UFPB)は今回、どんな性質を持つ人がネット荒らしをしやすくなるのかを明らかにすべく、調査を実施。
その結果、自尊心が低く、周囲に取り残される恐怖心が強い人ほど、ネット荒らしをする傾向が強いことが判明したのです。
研究の詳細は、2023年6月10日付で学術誌『Psychological Reports』に掲載されています。
目次
- 何が人を「ネット荒らし」に走らせるのか?
- 自尊心の低さと「話題に取り残される恐怖」が「ネット荒らし」に関係していた
何が人を「ネット荒らし」に走らせるのか?
研究チームはここ数年、オンライン上における人々の行動を調査してきました。
中でも注目しているのが「ネット荒らし」を代表とする他人への攻撃行動です。
現実の生活では言ったりしない暴言や挑発を、オンライン特有の匿名性と規制の欠如から、他人に向けて発する人が数多くいます。
ネット上の言い争いが実際の暴力行為につながる事例もあるため、SNSの利用者が増え続けている今、ネット荒らしの心理的側面を理解することは喫緊の課題です。
その中で研究主任のイザベラ・シルヴァ・サントス(Isabella Silva Santos)氏は、ネット荒らしをする人には2つの性格特性が関係していると仮説を立てました。
それが「自尊心の低さ」と「FOMO(フォーモ)」です。
サントス氏は、自尊心(自分への肯定的な態度)が低い人ほど、自身の言動を肯定的に感じるために敢えてネット荒らしをする可能性が高いと指摘します。
もう一つの「FOMO」については少し説明が必要でしょう。
FOMOとは「Fear Of Missing Out」の略称で、「周りから取り残されることへの恐怖」を意味します。
例えば「自分がいない間に他人が楽しい体験や有益な情報を得ているのではないか」とか「自分だけ大きなニュースを見逃してしまったのではないか」と気になって落ち着かない状態です。
そこから転じて、SNSを常にチェックしていないと気が済まない「SNS依存症」の意味としても使われるようになっています。
サントス氏は、FOMOの性質が強い人ほど、周囲の注意や関心を引くためにネット荒らしに走るのではないかと考えました。
そこでこの仮説を検証するために、SNS利用者を対象とした調査を行っています。
自尊心の低さと「話題に取り残される恐怖」が「ネット荒らし」に関係していた
チームは2022年にブラジル各地に在住するSNS利用者およそ300人からデータを収集しました。
対象者は独身者50%、女性63%、大学生18.7%で、平均年齢は27.68歳です。
本調査では、SNS利用におけるネット荒らし行動の頻度と、自尊心およびFOMOの程度を評価し、それぞれに関連性があるかを調べています。
そしてデータ分析の結果、自尊心が低く、FOMOが高い人ほど、ネット荒らしをする傾向が強いことが判明したのです。
例えば、自尊心を評価するアンケートで「私は他の人と同じように物事を行えない」と答えた人は、ネット荒らしをする頻度が多いことが分かりました。
これについてサントス氏は、自尊心の低い人は攻撃性を外面化することで、自らの言動を肯定的に感じているのかもしれないと推測しています。
それからFOMO傾向が強い人は、ネット荒らしにより他人の注意を引くことで、自分が周囲から取り残されたり、話題についていけない劣等感から解放されている可能性があると指摘しました。
本研究の成果は、ネット荒らしに影響を与える心理的要因について貴重な洞察を与えるものですが、一方で研究者らは「このデータは相関関係にのみ依拠しているため、まだ因果関係は確立できていない」と限界を認めています。
とはいえ自尊心の低さや話題に取り残される恐怖は程度の差こそあれ、私たちのほとんどが心の内に抱えている性質です。
自尊心とは自分を肯定的に見る度合いであり、それが低い人は「どうせ自分なんて…」と考え、自分の欠点ばかりに目が行き、他人の褒め言葉も素直に受け取れません。
しかし自尊心が低い人はプライドも低いというわけではなく、逆に自身の弱点を隠すために虚勢を張ったりする場合があります。
普通に話題を切り出しても人に聞いてもらえないという思いや、分からない話題やついていけない話題に、取り残されたくないからと無理に入ろうとする思いが、荒らしの原因になるのかもしれません。
全体として、今回の調査結果は「オンライン上の攻撃は、単に反社会的な性質の極端な人だけが実践しているわけではないことを示唆している」とサントス氏は述べています。
しかし今回の研究は、SNS利用が社会に広く普及する中で、この2つの特性が大多数の人の内に眠っていることを踏まえれば、誰もがネット荒らしの加害者にも被害者にもなり得ることを示唆しています。
参考文献
Low self-esteem and high FOMO are psychological mechanisms that play an important role in trolling, study suggests https://www.psypost.org/2023/08/low-self-esteem-and-high-fomo-are-psychological-mechanisms-that-play-an-important-role-in-trolling-study-suggests-167847元論文
Low Self-Esteem, High FOMO? The Other Side of the Internet Troll https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00332941231183136