ネコを複数飼っていると追いかけっこや取っ組み合いは日常茶飯事です。
じゃれているだけなのかケンカしているのかわからず、はらはらしている飼い主さんも多いのではないでしょうか。
Youtubeなどにもネコ同士がやりあっている動画は多くありますが、それらが真剣なケンカなのか、単なるじゃれあいなのかの判断は非常に難しいところです。
そんな中、スロバキア獣医薬学大学応用研究センターのNoema Gajdoš-Kmecová氏らは、2匹のネコが相互にやりとりする動画を集めてじゃれあいかケンカの分析を行いました。
この研究は、オープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に2023年1月26日付けで掲載されています。
目次
- 動画におけるネコのやりとりを3つに分類
- 仲が良いときと悪いときで異なるネコの行動
- ネコ同士の関係性は日々のやりとりの観察で初めてわかる
動画におけるネコのやりとりを3つに分類
まず、研究を始めるにあたり、2匹のネコが相互にやりとりする動画を専門家4人が下記のように分類しました。
- じゃれあい(遊び)
- ケンカ(攻撃)
- 中間(遊びと攻撃が入り混じった状態)
意見が分かれたときは多数決とし、多数決でも決まらない場面では「分類できない」として動画を研究対象から排除しました。
105組120匹のネコ動画を分析
最初に準備された動画は165本でしたが、最終的に分析に使われることになったのは105本でした。
前述した「分類できない」パターン以外にも、明らかに子猫である場合や、性的行動が見られた場合などの動画は排除されました。
また専門家の2人以上が「よくわからない」という判断になり、排除されたものもあったと言います。
意見が半々で「分類できない」となった動画も一度の視聴で判定するのではなく、再度の視聴を行った上でその結論に至ったものです。
このような研究の経緯を見るだけでも、ネコのやりとりの本質を捉えることは専門家をもってしても簡単ではないことがわかりますね。
ネコに対面したネコの行動は多くの種類があり、またその耳や毛並み、姿勢などによってもやりとりが異なります。
ここからは、3つのやりとりを行っているときのネコたちの行動について説明していきましょう。
仲が良いときと悪いときで異なるネコの行動
研究者たちは各ネコの行動を「取っ組み合い」「発声」「追いかけっこ」「見つめあって動かない状態」「相互に接近するなど動いている状態」「毛づくろいをするなど相手に興味を示していない状態」の6つに分類しました。
これらの6つの行動と先ほど紹介した3つのネコのやりとりの相関を調査することで、ケンカとじゃれあいの行動の違いが明らかになったのです。
長い「取っ組み合い」は仲良しの証拠
じゃれあいと分類された動画の多くに「取っ組み合い」の行動が見られました。
一方でじゃれあっている2匹のネコの間で発声はほとんど見られませんでした。
ネコは縄張り争いなどの敵対的行動の際にはある一定の距離をとって唸り声を上げるなど直接の接触を避ける傾向にあります。
また「取っ組み合い」は子猫同士によく見られる遊びです。
成猫同士においても発声を伴わない「取っ組み合い」は遊びの延長だと考えられます。
ケンカによって「取っ組み合い」の場面がないわけではありませんが、ケンカの場合は単なる「攻撃」なので瞬間的に終わります。
長い間「取っ組み合い」をしているなら、じゃれあっているだけという可能性が高いでしょう。
ケンカするときは「発声」が多くみられる
ケンカしているネコたちの多くに唸り声などの「発声」が見られ、発声しながら互いを見つめあい動かない様子が観察されました。
片方のネコが逃げた際には「追いかけっこ」のように追いかけまわすようすも見られましたが、この行動はじゃれあいの際も「取っ組み合い」に至る前後に見られた行動です。
このため「追いかけっこ」の段階ではケンカか遊びかを判断することは難しく、「発声」があって初めてケンカと言うことができそうです。
打ち解けていない間柄では付かず離れずのやりとり
じゃれあいとケンカの「中間」と判断されたグループでは、2匹のネコが長時間にわたりさまざまな行動で付かず離れずのやりとりを続ける傾向がありました。
中間のネコたちは時々休止を挟みながら、仰向けに寝転がる、飛び掛かる、つきまとう、互いに毛づくろいをしあうといった行動をとるようすが観察されています。
このようすから中間のやりとりは、特にネコ同士の関係が悪いわけではなく、それぞれのネコの心理がかみ合っていない状態だと推察されます。
余談ながら、これは我が家のネコでも見られる状態です。
片方のネコは遊びたいと思って近づいたり接触したりするのですが、もう片方は声での威嚇や追いかけっこといったケンカに近い行動をとっています。
ただ、お互い相手が気になってはいるのか、完全に離れることはなく、このような状態が10分以上続くことも少なくありません。
中間のネコ同士のやり取りも続けるうちに互いの意思が同じになれば、じゃれあいやケンカに発展します。
刻一刻と変化していくネコ同士のやりとり。
私たちはこの研究結果を経て、どのようにネコと接したらいいのでしょうか?
ネコ同士の関係性は日々のやりとりの観察で初めてわかる
発表された論文では、ネコたちが頻繁にじゃれあっていて互いに毛づくろいなどをしていた場合には、たまにケンカに発展したとしてもそれほど心配する必要はないとされています。
一方で、ネコたちが毛づくろいなどの接触を行わずじゃれあいも発声を伴ったケンカもない場合は、一見穏やかに見えますが実はお互いに緊張していてストレスがかかっていることがあるそうです。
そのような場合にはストレスが体に影響を及ぼす前に飼い主は個々の安心できる場所を確保するなど対策を練る必要があるでしょう。
この論文の筆頭著者であるノエマ氏(Noema Gajdoš-Kmecová)のFacebookでは、過去にどうしても仲良く過ごせない飼いネコについて悩んでいるようすが書かれています。
この研究の背景にはそんな多頭飼いのネコのストレスを少しでも取り除いてあげたいという思いがあったのかもしれませんね。
参考文献
Are your cats fighting or playing? Scientists analysed cat videos to figure out the difference https://theconversation.com/are-your-cats-fighting-or-playing-scientists-analysed-cat-videos-to-figure-out-the-difference-198501元論文
An ethological analysis of close-contact inter-cat interactions determining if cats are playing, fighting, or something in between https://www.nature.com/articles/s41598-022-26121-1