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血液中のがん細胞だけ見分けて捕獲する!細胞単位の治療ができるマイクロボット


がんは、私たちが最も恐れている病気の1つであり、通常は個々の細胞から発生して転移していきます。


そのため細胞の1つ1つを観察したり処理したりすることで、がん治療の新たな道を開拓できるかもしれません。


また、こうした個々の細胞に対するアプローチは、他の多くの病気にも効果的だと考えられます。


今回、イスラエルのテルアビブ大学(TAU)機械工学部に所属するギラッド・ヨシフォン氏ら研究チームは、細胞1個分のサイズの「直径10μmのマイクロボット」を開発しました。


このマイクロボットは、体内で個々の細胞を識別し、対象となる細胞を捕獲することができます。


研究の詳細は、2022年12月11日付の科学誌『Advanced Science』に掲載されました。




目次



  • 個々の細胞にアプローチする技術が求められる
  • 細胞サイズのマイクロボットが細胞1個を掴んで運ぶ

個々の細胞にアプローチする技術が求められる


特定の細胞だけが問題を抱えている場合の治療法として望ましいのは、その問題を抱えている細胞だけに薬を届けたり、切除したりすることです。


問題のある細胞だけにアプローチする方法が求められる
Credit:Canva

しかし現代の治療法のほとんどは、その他の健康な部位にもいくらか影響を与えてしまいます。


実際、薬物治療では全身にその効果が及びます。


手術では問題の部位に到達・切除するためにも、まず皮膚を切って開かなければいけません。


もし細胞1個単位でアプローチできる技術が開発されれば、患者や医者の負担は大きく軽減するでしょう。


ヨシフォン氏ら研究チームが、細胞サイズのマイクロボットを開発
Credit:TAUVOD(YouTube)_The Hybrid Micro-Robot(2023)

そこでヨシフォン氏ら研究チームは、個々の細胞にアプローチできる細胞サイズのマイクロボットを開発することにしました。


開発されたマイクロボットの直径はわずか10μmです。


ヒトの細胞の平均的な大きさが直径20μmであるため、ちょうど細胞1個分サイズのマイクロボットとなります。


細胞サイズのマイクロボットが細胞1個を掴んで運ぶ


研究チームは、自ら遊泳する「細菌」や「精子」などから着想を得て、マイクロボットを自律的に、もしくはオペレーターの制御で体内を移動できるようにしました。


開発されたマイクロボットは磁気駆動と電気駆動の両方が採用されている。細胞や赤血球、細菌を捕獲できる
Credit:Gilad Yossifon(TAU)et al., Advanced Science(2022)

非常に小さなロボットを駆動させる一般的な仕組みには、「磁気駆動メカニズム」「電気駆動メカニズム」があります。


磁気駆動メカニズムとは、マイクロボットに磁性粒子を取り付け、外部からの磁場により遠隔操作するというもの。


これは正確なコントロールが可能であることや、電気が通らない場所でも操作できるというメリットがあります。


一方、電気駆動メカニズムとは、マイクロボットに電極を取り付け、外部からの電気信号によって操作する方法です。


このメカニズムは、電気信号を用いて選択的な捕獲・輸送・放出が得意であり、細胞の局所的な電気変形を引き起こしたりできます。


今回開発されたマイクロボットには、磁気駆動メカニズムと電気駆動メカニズムの両方が組み合わされた「ハイブリッド推進・ナビゲーションシステム」が採用されました。


また、このマイクロボットには、細胞の表面に存在する化学的特性を識別するためのセンサーが取り付けられています。


マイクロボットが細胞を捕獲して輸送している様子
Credit:Gilad Yossifon(TAU)et al., Advanced Science(2022)

その結果、マイクロボットは血液サンプル内を自由に行き来し、細胞を識別して捕獲できるようになりました。


例えばマイクロボットは、赤血球やがん細胞、細菌を見分けて捕獲できます。


また、「健康な細胞と薬物で傷ついた細胞」、「問題によって死にかけている細胞とプログラムされた自然な死(アポトーシス)が進行している細胞」を区別できました。


これらの細胞を捕獲するかしないかの決定もオペレーターの操作次第です。


マイクロボットが、早期のアポトーシス細胞(左)、生細胞(中)、アポトーシス細胞(右)を捕獲して輸送する様子
Credit:Gilad Yossifon(TAU)et al., Advanced Science(2022)

そして捕獲した細胞を、分析するために外部の機器に移動させることもできます。


もちろん現時点ではまだ難しい話ですが、研究チームの意気込みとしては生体内での実験をすぐにでも行いたいと気持ちのようです。


もし、マイクロボットの体内への注入や排出(または生体分解)などの技術が確立できれば、単一細胞レベルでの診断、薬剤導入、遺伝子編集も可能になるかもしれません。


私たちの目に見えない「細胞レベルのミクロな治療」こそが、最先端を走る医療の1つとなるのです。



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参考文献

Tiny hybrid robot can identify, capture a single cell
https://newatlas.com/robotics/tiny-hybrid-robot-identify-capture-single-cell/

元論文

A Magnetically and Electrically Powered Hybrid Micromotor in Conductive Solutions: Synergistic Propulsion Effects and Label-Free Cargo Transport and Sensing
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202204931
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