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寿命タイマーと考えられていた「テロメア」にまったく新しい機能が見つかる!


DNAの末端にあるテロメアは細胞分裂のたびに短くなる特性から、ある種の寿命タイマーであると考えられていました。

しかし米国のノースカロライナ大学(UNC)で行われた研究により、染色体の先端にあるテロメアには、強力な活性を持つ2つの小さなタンパク質を生成可能であることが示されました。

この2つの小さなタンパク質は、一部のがん細胞やテロメア関連の遺伝疾患をもつ患者の細胞内に多く存在することが示唆されており、細胞の不調に応じて生産されるシグナル伝達の役割を果たしていると考えられます。

研究者たちは、テロメアが2つのシグナル伝達タンパク質をコードしている場合、がんや老化の仕組みや、細胞同士がどのように通信しているかについての、既存の常識がくつがえる可能性があると述べています。

しかし単調な繰り返し構造から成るテロメア(開始コドンを持たない)から、いったいどんな方法でタンパク質が作られたのでしょうか?

今回は最初のページでこれまで知られていたテロメアの役割とテロメアから作られるRNA 「TERRA(テラ)」の存在を紹介すると共に、続くページではテロメアから作られたタンパク質の機能に迫ります。

研究内容の詳細は2023年2月22日に『PNAS』にて公開されています。

目次

  • テロメアからRNAが作られている
  • テロメアから作られたタンパク質はシグナル伝達を担っている

テロメアからRNAが作られている

「テロメア」からタンパク質が作られているとする研究結果が発表!
Credit:Canva

私たちの体では、日々新たな細胞が生産され、古い細胞が捨てられていきます。

たとえば皮膚の場合、古い細胞は「垢」の形で表面から剥がれ落ちる一方で、皮膚の深い位置では新しい細胞が生産され、剥がれ落ちた細胞の下から次々に顔を出すように現れてきます。

同様の細胞の更新は体の至る所で起きており、動物のフンの15~20%も古くなった腸細胞で占められています。

細胞の更新によって生物は古くなった細胞を処分して、常に新鮮な細胞を維持することが可能になるのです。

しかし残念なことに、細胞が分裂できる回数は有限です。

細胞分裂を行うためにはDNAの複製が必要となりますが、DNAが複製できる回数は、DNAの両端に存在するテロメアの長さによって決まっているからです。

DNAの複製を行う酵素はDNAに結合しつつ新たなDNA鎖を作っていきます。 しかしDNAの末端になると複製酵素が結合できる足場がなくなってしまい、最末端の複製だけが不完全に終わってしまうからです。 この最末端部分に、生命を維持する設計図情報を入れておくわけにはいきません。 そのため私たちのDNAの末端は多少削られても影響がないように、テロメアと呼ばれる同じ6つの塩基配列「TTAGGG」が繰り返された構造を持っているのです。
Credit:wikipwdia

また以前に行われた研究では、テロメアにはDNAの末端にループ構造を形成することで末端部分を隠し、染色体間のDNA同士の融合をブロックする機能もあることが示されました。

テロメアが短くなっていくと、正常な細胞分裂ができなくなり、最終的に細胞死が引き起こされます。

しかしテロメアの役割はあくまで構造上のものであり、他のDNAの部分のように「生命の設計図(タンパク質の情報)」は含まれていないと考えられていました。

テロメアは単純な塩基配列の繰り返しであり「ここからが設計図」という意味を持つ遺伝暗号の「開始コドン」も含まれていません。

しかし近年になって、テロメアからTERRA(テラ)と名付けられたRNAが作られていることが明らかになりました。

RNAは生命の設計図たるDNAの部分写しです。 建物の施工でも常に全体が描かれている大元の設計図を参照しないのと同じように、多種多様なタンパク質が作られるときにも、大元の情報源であるDNAではなく、その部分写しであるRNAが使われます。
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

TERRA(テラ)はテロメアから作られる繰り返しRNA配列であり、テロメアに結合することでDNAの劣化や隣接するDNA末端との融合を防ぐ働きがあります。

またTERRA(テラ)は真核生物のテロメアに普遍的に存在しており、転写を調節したり老化やがんの進行などにもかかわっていると考えられています。

しかしTERRA(テラ)の正確な機能はまだ不明な部分が多く、TERRA(テラ)からはタンパク質はつくられないと考えられていました。

しかし事態は予想外の発見によって動きます。

テロメアから作られたタンパク質はシグナル伝達を担っている

テロメアタンパク質
Credit:University of North Carolina

2011年に行われた研究により、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因が、TERRA(テラ)とよく似た繰り返し構造を持つRNA分子であり、そのRNA分子から2つのアミノ酸からなる毒性タンパク質が生成されていることが報告されました。

そこで今回ノースカロライナ大学の研究者たちはテロメアから作られたRNA「TERRA(テラ)」からも、タンパク質が生産されると仮説を立て、証明するための実験を行いました。

結果、TERRA(テラ)から2つの小さなタンパク質が実際に生成できることが判明します。

生産されたタンパク質は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質と同じように2つのアミノ酸から構成されており、1つ目はバリンとアルギニン(VR)が交互に結合したもの、2つ目はグリシンとロイシン(GL)が交互に結合したものとなっていました。

さらに2つのタンパク質の機能を調べたところ、ある種のシグナル伝達を担っていることが示されました。

シグナル伝達タンパク質は、細胞内部の他のタンパク質と連鎖反応を引き起こし、健康の維持や病気の発症など重要な生物学的機能を担っています。

その後研究者たちは2つのタンパク質を合成し、どんな細胞のどの部分に集まるかを調べてみました。

すると1つ目のタンパク質「VR」は、一部のヒトのがん細胞やテロメアに起因する遺伝疾患を抱える患者の細胞内部に、高濃度で蓄積していることが明らかになりました。

また2つ目のタンパク質「GL」は炎症反応を引き起こしている可能性が示されました。

この結果は、2つのタンパク質が細胞の不調の際に大量生産され、免疫反応に影響を及ぼす可能性を示します。

テロメアが2つのシグナル伝達タンパク質の情報を含んでいるとする研究結果が正しければ、がんや老化に加えて細胞間通信に対する理解が大きく変わることになるでしょう。

研究者たちは今後の最優先課題として、テロメアから作られる2つのタンパク質を検知する血液検査方法を開発すると述べています。

もしテロメアから作られるタンパク質から私たちの生物学的年齢、がんや炎症の発生などを知ることが可能になれば、これまでにない健康診断法となるでしょう。

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参考文献

Scientists Make Stunning Discovery, Find New Protein Activity in Telomeres https://news.unchealthcare.org/2023/02/scientists-make-stunning-discover-find-new-protein-activity-in-telomeres/

元論文

Mammalian telomeric RNA (TERRA) can be translated to produce valine–arginine and glycine–leucine dipeptide repeat proteins https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2221529120
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