冬になると布団から出られなくなる人々を”怠け者”と言うのは見当違いのようです。
独シャリテ・ベルリン医科大学(CUB)の研究チームはこのほど、人間は他の動物と違って冬眠はしないものの、日が短く寒い冬場には生理的により多くの睡眠を必要としていることを発見しました。
188名の被験者を対象とした睡眠実験では、冬になると浅い眠りを示す「レム睡眠」が夏場より30分ほど長くなっていたことが判明。
もし冬にレム睡眠が増加して深い眠りが減少しているならば、夏と同じペースで冬に活動すると、人間は睡眠不足になる可能性があります。
研究の詳細は、2023年2月17日付で科学雑誌『Frontiers in Neuroscience』に掲載されています。
目次
- 「冬のレム睡眠」は夏場より30分長くなっていた
- 「冬は長く眠れる」システムを社会的に導入すべき?
「冬のレム睡眠」は夏場より30分長くなっていた
季節ごとの行動変化は、地球上のあらゆる生物に見られるものです。
その最たる例が「冬眠」で、クマやヘビ、昆虫の多くは餌の確保が難しく、気温も低い冬になると、エネルギー消費を抑えるために冬眠をします。
私たち人間も冬眠とまではいわずとも、こうした季節性の変化が存在するのではないかと指摘されていました。
たとえば、被験者に睡眠状況を自己報告してもらう先行研究では、夏より冬に睡眠時間が長くなることが示されています。
しかし、季節が睡眠に与える影響を正確に把握するためには、客観的な測定が必要です。
そこで研究チームは今回、ベルリンにある聖ヘドウィグ病院(St. Hedwig Hospital)にて、何らかの睡眠問題を抱えている患者292名を対象とした「睡眠ポリグラフ検査(PSG)」を実施。
具体的には、患者に目覚まし時計なしで自然に寝て自然に起きてもらい、その間の脳波や心拍数、眼球運動、睡眠の質などをモニタリングします。
検査は1年を通して定期的に行われ、それにより月や季節ごとの詳細な睡眠データが取得されました。
この研究では最終的に、睡眠に影響を与える薬を服用していた患者、技術的に正確な検査ができなかった患者を除いた188名のデータが分析されました。
その結果、季節にともなう微妙ではあるが顕著な変化が発見されました。
まず、睡眠の総時間は夏より冬(日が短くなる12月〜2月)の方が1時間ほど長いように見えましたが、有意な差ではありませんでした。
しかし、レム睡眠の時間は夏より冬の方が明確に30分ほど長くなっていたのです。また、春先では秋よりも約25分長くなっていました。
この結果は、一体どういう事実を示しているのでしょうか?
「冬は長く眠れる」システムを社会的に導入すべき?
人間の睡眠周期は一般に、一サイクル約90分で、最初に眠りの深いノンレム睡眠を60分程度を経た後、眠りの浅い状態へ移行しレム睡眠が10〜30分ほど続いて1つの周期を終えます。
これを4〜5回繰り返すことで6〜8時間の一晩の睡眠となります。
レム睡眠は1日の記憶や感情の整理や脳の発達に関連している時間帯と考えられ、主に夢を見ている時間と表現されます。
これは完全に体や脳を休めている状態とは異なります。人間がしっかり疲れを取るためには、ノンレム睡眠が重要になってきます。
人間の睡眠周期は、重い睡眠障害を抱えている場合を除き一定のリズムを保っているため、レム睡眠の持続時間が増加することは、ノンレム睡眠の持続時間に影響したり、体の疲れの解消に影響する可能性があるのです。
これは夏と冬で、同じ睡眠時間しか取らなかった場合、冬のほうが睡眠が不足する可能性を示唆しています。
ではなぜ、冬にレム睡眠が増加するのでしょうか?
レム睡眠は、太陽の動きと同期している「概日リズム(体内時計)」と直接関係することが分かっており、光への露出の変化に強く影響されます。
したがって、日照時間が低下する冬になると、人間はレム睡眠の時間を生理的に変化させると考えられるのです。
この結果は、光害の影響を受ける都市部の人達を含めても有意に確認できたため、日の光以外を浴びやすい現代人であっても、夏と冬で睡眠が変化する特性は除外できない可能性があるようです。
それを踏まえた上で、クンツ氏は次のように指摘します。
「ほとんどの人の起床時間は現在、学校や仕事のスケジュールによって、自分ではコントロールできない部分が多くなっています。
しかし季節ごとに必要な睡眠時間が変わるのであれば、これに合わせてスケジュールを調整することで、社会にとって有益な結果が得られるかもしれません」
もし人間が冬場は生理的に長く寝る必要があった場合、夏場と同じ時間感覚で寝起きしていると、睡眠の質が下がり1日のパフォーマンスが低下するおそれがあります。
そのため冬場は早寝するなど睡眠時間を伸ばせるよう工夫する必要があるかもしれません。
またサマータイムとは逆に、冬場は始業時間を遅らせる、活動時間を減らすなど社会的仕組みの導入も検討すべきだと研究者は提案しています。
これは決して怠けるためのものではありません。そうする方が社会的にも有益な効果が期待できるというのです。
研究主任のディーター・クンツ(Dieter Kunz)氏は「この結果は、睡眠に何らかの問題を抱えている人で見られたものですが、健康な集団で検査をすれば、季節による変化がさらに大きくなる可能性がある」と述べています。
クンツ氏らは今後、この季節性の変化をさらに詳しく理解するために、睡眠障害のない健康な人々を対象に調査を行う予定とのこと。
「同じ結果が健康な人々でも再現されれば、季節に合わせて睡眠習慣を社会的に調整する必要性を示す最初の証拠となるでしょう」と述べています。
参考文献
Humans don’t hibernate, but we still need more winter sleep https://medicalxpress.com/news/2023-02-humans-dont-hibernate-winter.html Humans ‘may need more sleep in winter’, study finds https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2023/feb/17/humans-may-need-more-sleep-in-winter-study-finds元論文
Seasonality of human sleep: Polysomnographic data of a neuropsychiatric sleep clinic https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2023.1105233/full