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名探偵、現れず!


俺はいわゆる『名探偵』と呼ばれる人間だ。


しかし俺が名探偵と呼ばれるのは、他の名探偵とはまったく違う理由がある。


まあ、呼んでいる連中からすれば他の名探偵となんら違いはないのだが。


その理由を説明する前に、さっさとこの目の前で起きた事件を解決しちまおう。


「犯人はこの中にいる!」


名探偵がいる所、常に殺人事件があり、犯人が『この中』にいる事もまた、常なる事だ。


一之瀬、二ノ宮、三井、四ッ倉、後藤


この中に犯人がいるはずだ。


一番怪しいのが一之瀬。


コイツは被害者に恨みがあり、なにより第一発見者。


第一発見者を疑うのは捜査の常道であり、常道とは結果の積み重ねで培われるもの。


つまり、動機があり、第一発見者であるコイツが犯人で間違いない。


「犯人は…一之瀬、お前だ!」


「え?俺?いや違うけど」


はい間違えました。


なるほどなるほど、そのパターンね。


一番怪しいヤツが実は良い人だったっていう、ごくありふれたヤツ。


俺みたいな玄人だと、一周回ってそのパターンに騙されちゃうんだよね、たまに。


怪しい奴は逆に犯人じゃないって事は分かってたけど、その逆の逆の逆?とか考え過ぎちゃう、頭の良いヤツが逆に騙される高度なテクニックね。


流石だわ〜。でも俺そういうの嫌い。


さて、ここからが俺が名探偵と言われるゆえん。


「時間よ戻れ!」


ぐるぐるぐるぐる…時計の針がみるみる逆回転してゆく。


さあ、これで『犯人はこの中にいる!』と言った直後まで戻った。


犯人を指摘し、間違えたら時間を戻す。


これを繰り返せば、一発で犯人を言い当てる名探偵の出来上がりというわけだ。


まあそんな事をしなくても、いつもは本当に一発で当ててるけどね。


今日は特別。いやマジで。


そんな事より犯人だ。


やはり怪しいのは二ノ宮さんだろう。


彼女は過去に被害者と付き合っていたが、虐待を受け、周りのとりなしでやっと別れられたという。


恨みをもって復讐する動機としては十分だ。


「二ノ宮さん…貴女が犯人です」


「え?私、探偵さんとずっと一緒の部屋にいましたよね」


しまった、ちょっと可愛いからって敬語とか使ったのが仇になった。


敬語とか使ってるくせに間違っちゃってんのウケる〜ダサ〜とか思われたよ、きっと。


犯人の私にも礼儀を尽くしてくれる探偵さん素敵!ってなる予定だったのに。


それにしても忘れてたわ。


胸が大きいのにタンクトップなんか着てるから、チクチラしないかなってずっとチャンスを窺ってたんだったわ。


これがハニートラップってヤツか。


「時間よ戻れ!」


ぐるぐるぐるぐる…


三井は確か、被害者に金を貸したがずっと返して貰えず、過去に言い合う姿を度々目撃されていたという。


「三井、アンタ被害者から金を返して貰えず恨んでいたね。犯人はお前だ!」


「俺じゃないよ。金はさっき返して貰ったし」


なにその後出しジャンケン!


金貸して返して貰ってないって聞いたから指摘したのに、それズルくない?


情報はちゃんと開示しとけよ。


そんなんじゃ推理出来ないだろう。


ノーカン。今のノーカン。間違えた内に入らないから。


「時間よ戻れ!」


ぐるぐるぐるぐる…


四ッ倉は一番身体が大きくて力が強い。喧嘩したらコイツが一番強いから犯人である確率が高い。


自分より強い奴は倒せないからな。犯人で間違いない。


でも刺激すると殴られそうだから優しく言おう。


「四ッ倉さん、貴方が犯人ですよね?」


「違いますよ。僕はずっと一之瀬さんと一緒にいました」


言えよ!


俺が一之瀬を指名した時に名乗り出るべきだろ。


『ソイツは犯人じゃないですよ。ずっと一緒にいましたから』って。


なんで言わなかった?友達だろ?自分さえ良ければそれで良いのか?


殴ってやりたいけどやり返されそうだから止めとこう。


「時間よ戻れ!」


ぐるぐるぐるぐる…


後藤ね、ゴトウとか言ってるけど、こいつの『後』って数字じゃないからね、一人だけ。


仲間外れ、つまり犯人。


「後藤!いい加減観念しろ!この殺人者」


「俺じゃないですよ。ずっと二ノ宮さんと探偵さんと一緒だったじゃないですか」


後藤の存在感!


なんで一緒の部屋に居たのに俺に気付かれてないんだよ。


どうせお前も二ノ宮さんのチクチラ狙ってたんだろう、このスケベ野郎。


しかしチクチラ好きに悪いヤツはいない。こいつは犯人じゃない。


そうだよね、だって名前に数字が入ってないから犯人ってメチャクチャだもん。


それくらい俺にだって分かるもん。


さて、全員指摘したわけだが、この中に犯人はいなかった。


こうなったら方法は一つ。


「時間よ戻れ!」


ぐるぐるぐるぐる…


アイツらと出会う前まで時間を戻した。


これで殺人事件は無かった事になった。


名探偵がいなければ、殺人事件も起きないだろう。


名探偵現れず、これが一番平和な解決なんじゃないかな?


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提供:エブリスタ

クリエイター:諸葛宙


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