はじめに


10年ほど前から加速しているリノベーションの波は、農業大県・雲林にも。この地には、日本統治時代のバロック式建築が多く保存されていて、ポテンシャルは十分。それに加えて、雲林はポテヒと呼ばれる台湾人形劇の発祥の地とあって、ノスタルジックな台湾文化も色濃く残っていて、歴史を体感するにはぴったりのエリアです。2018年には、ポテヒをフィーチャーした、ユニークなホテルも登場。注目のホテル「台灣虎尾春秋 文創設計旅店」を紹介します。

台湾人形劇の重鎮が建てたホテルをモダンにリノベーション。


台中と台南の中間に位置する雲林県。日本統治時代は製糖業で栄えた地域で、現在はピーナッツ、コーヒー、文旦などの農産物、シジミやハマグリ等の海産物、カラスミや醤油、ゴマ油といった加工品の産地として知られ“台湾の台所”とも呼ばれています。

街並みには日本統治時代のバロック式建築だけでなく、煌びやかな廟が多いのも特徴で、異国情緒も満点。そんな雲林にもリノベーション・ブームの波は押し寄せていて、数々の歴史的建造物がカフェや展示場などに生まれ変わっています。魅力アップの一因は、2015年に台湾高速鐵路(新幹線)の新駅ができたことにも。雲林へのアクセスがぐっと便利になりました。しかも今はまだ観光客もそれほど多くなく、ノスタルジックな街並みをゆったり散策できるので、古き良き台湾を求めるトラベラーには、まさに穴場的エリアといえるでしょう。

その雲林で2018年にオープンした「台灣虎尾春秋 文創設計旅店」は、地元発祥の台湾人形劇“布袋戲(ポテヒ)”をテーマにした個性派ホテル。このホテルの前身は、ポテヒの人間国宝級の重鎮・黃俊雄氏が1980年に建てた「金夜大飯店」。虎尾地区最初のエレベーターつきホテルとして話題となったものの、ポテヒ公演とホテル経営の兼業が難しくなり、1996年にやむなくクローズ。それから時が経つこと22年。ポテヒ愛好家の周伯良氏が立ち上がります。歴史ある建物が忘れ去られたり、ポテヒ文化が衰退していくのは堪え難いという思いから「虎尾春秋」のCEOとなって、ホテルの再建を決意。元の外観をできるだけ活かし、ポテヒをテーマにしたホテルとして生まれ変わらせました。

ロビーに鎮座するポテヒの舞台で、人形たちと記念撮影!


エントランスで目を引くのが、モザイクタイルで描き出されたアニメ風のポテヒのキャラクター。近年、ポテヒの登場人物は二等身のアニメ風にデフォルメされ、そのフィギュアなどは若い世代に人気。これらは“Q版布袋戲人偶”と呼ばれていて、ここではその潮流を意識し、愛らしく親しみを感じるイラストが採用されています。

たくさんのペンダントライトで飾られた2階のロビーで圧倒的な存在感を放つのが、極彩色のミニ舞台装置。専門家によって伝統的な手法で作られ、一筆一筆丁寧に描かれたもので、完成までには一ヶ月半を要したそう。装置の中に入り、ポテヒの実物と並んで写真を撮れるとあって、ホテル随一の撮影スポットになっています。

舞台の反対側は展示スペースで、ポテヒの大御所・黃俊雄氏が寄贈した、イケメン“史艷文”と女性キャラの“苦海女神龍”をディスプレイ。また、売店では、さまざまなミニチュアが販売されているので、ポテヒに興味がわいたならなら、旅の記念にどうぞ。おみやげでは、客室にも置かれている阿里山太和烏龍茶の「春秋好茶」、100%古坑産の豆を使った「古坑好咖啡」もオススメです。

ルームタイプは、ポテヒの役どころで表現。


ポテヒのモチーフは、もちろん客室内にも。ルームタイプは6種類あり、生(男性キャラ)、旦(女性キャラ)、淨(武将)、末(男性の老人)、丑(三枚目キャラ)、雑(動物など、それ以外)という役どころにちなんだ名前がつけられています。“雑”ルームは、台湾では珍しいシングルタイプ。ここなら、一人旅での無駄がなくせます。

バスルームは、アーティスティックなタイル使いがポイント。


室内はいずれもフローリング仕様で、ライトインダストリアルのクールなインテリア。各キャラクターは壁面にあしらわれ、絶妙なアクセントになっています。バスルームなどの水回りは、クラシカルな幾何学模様のタイル張り。色使いや雰囲気の違いをHPで確認して、好みのタイプを選ぶのがよさそう。

ファンタジックなレストランで、こだわりのメニューを。


一階のレストラン「SunnyQ 陽光公主」は、イラストレーターのSmart氏とのコラボレーションによる内装。ポテヒの世界観とは少し離れた、熊や猫のキュートなイラストが溢れるメルヘンな空間とあって、キッズ受けは間違いなし。すべての宿泊は、このレストランでの朝食つきです。一番人気は、ボリューミーなダブルチーズチキンバーガーだそう。
ランチ&ディナータイムでは、ステーキ、バスタ、ドリア、ピザなどの洋食がいただけます。イチオシは、数量限定の雲林ポークチョップ。特製ダレに1日以上漬け込んで焼かれるポークの香り高い味わいをぜひ。

バーに立ち寄るなら、テラス席がマスト!


大人だけの滞在なら、夜は10階のバー「Moon Lounge月廊」へ。色とりどりの大小のボールライトに照らされた空間で、ビールやカクテルが楽しめます。天気が良ければ、ブルーの照明が妖艶なテラス席がオススメ。虎尾の街の灯り、そよぐ風に吹かれて緩んだあとは、気持ちよく眠りにつけること請け合いです。

おわりに


リノベーションが進んだ地域は、観光地化も必至。レトロな街並みをゆったり巡って……とはいかない場所が増える昨今、程よいリノベーション具合と本来ののどかさが体感できる雲林の虎尾は、今がまさに訪れどき。求めていた“台湾らしさ”にきっと出合える雲林の旅……滞在先は、地元文化の薫りを感じる「台灣虎尾春秋 文創設計旅店」で決まり!

◆台灣虎尾春秋 文創設計旅店(Huwei Hotel)
住所:雲林縣虎尾鎮信義路69號
電話:+886-5-6360-618
情報提供元: 旅色プラス