TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
海上自衛隊最大の護衛艦、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」は、いわゆる「空母(航空母艦)」へ改修される工事を受けている。改修工事は大きく2段階で行なわれる計画だ。まず2020年3月、工事を担当するJMU(ジャパンマリンユナイテッド株式会社)横浜事業所磯子工場(横浜市磯子区)のドックへ入渠、第1段階の工事を始めた。
そして先ごろその第1段階が終了し、2021年6月25日に「いずも」は約1年3カ月ぶりに横須賀基地へ戻ってきた。海自地方総監部前の岸壁に巨大な艦体が舫う「横須賀の日常景色」を久しぶりに眺めることになった。ちなみに「いずも」が接岸停泊している姿を見るのなら、港に隣接する商業施設「コースカベイサイドストアーズ」が良い。駐車場完備、飲食や買い物可能、トイレも当然ある。周遊船『軍港めぐり』の乗船場もあり、「いずも」が入港中に周遊船へ乗れば、より間近に見ることもできる。なにかと便利で面白い施設だ。筆者のような中高年世代はつい「横須賀のダイエー(イオン)」と口走るが、リニューアルされてすっかり良くなった印象だ。
第1段階の改修工事は艦形を大きく変えるようなものではなく、垂直着陸可能なステルス戦闘機F-35Bを載せるための設備を設ける基礎工事だったようだ。飛行甲板には艦首から艦尾まで1本の黄色線が引かれている。これは米海軍空母や強襲揚陸艦などでいう滑走路の「標示線(トラムライン)」と呼ばれるものだ。艦載機パイロットは機体の中心をこの標示線に合わせて滑走、発艦するという。
飛行甲板の左舷側には白い点線が引かれており、これはヘリコプター用の発着艦標示で建造・配備当初からのものだ。黄色の標示線はその白点線より内側、甲板中央寄りに引かれている。加えて、ヘリの発着艦位置を示す「スポット」の標示は艦首から艦尾にかけて左舷側に5カ所ある。
黄色の標示線や白点線、ヘリスポットはどれも飛行甲板の左舷側に寄せている。これは飛行甲板の右舷側を機体の駐機場所や作業スペースなどに確保するためと、艦橋構造物と航空機が接触することを防ぐためだ。空母や強襲揚陸艦と同じ様式になっている。
「いずも」艦首部分の甲板形状は上から見ると「台形」で、艦首方向に向かって先細る形になっている。つまり航空機の滑走路として使う左舷側の飛行甲板は短いことになる。少しでも滑走距離は長くしたいから、第2段階の改修工事では艦首甲板形状を見直すことになるようだ。米強襲揚陸艦のような四角い先端形状にするのだろう。
飛行甲板の後部、ヘリスポットの4番目と5番目にあたる艦尾部分の甲板表面は他の甲板部分と表面の色が違って見える。これはF-35Bが着艦するときに下方へ噴出するエンジン排気熱から甲板を防護するための耐熱処理加工が施されたためと考えられる。耐熱処理材は金属を含んだ塗料のような状態のもので、これを吹き付けるようだ。これで千数百度にもなるF-35Bのエンジン排気熱から甲板表面を守るわけだ。
その他、4・5番ヘリスポットの周囲、とくに右舷側の衛星通信アンテナや可倒式アンテナ基部などにはF-35Bのエンジン排気熱からこれら諸設備を防護する遮熱板のようなカバー類も見える。また、右舷側飛行甲板の端には艦首から艦尾にかけて「輪止め」が設置された。F-35Bを飛行甲板の右舷側に駐機する際、その車輪をここに当てて停止・固定するわけだ。外観で見た目にわかる改修点はこうした諸設備で、飛行甲板で固定翼航空機を運用するためのインフラ設備を整えたのが第1段階工事だったのだろう。
艦首甲板の形状変更をともなう改造は2回目の改修工事で行なう予定だ。これは次の定期検査にあたる2024年度末(令和6年度末)の予定。「いずも」型2番艦の「かが」空母化改修工事についても本年度にドック入りさせ、「いずも」同様に2段階で工事を行なう計画だ。
艦載するSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)機F-35Bの配備機数は42機の予定で、2023年度中に最初の18機が航空自衛隊へ引き渡される予定。配備先は新田原基地(宮崎県新富町)の予定だ。これらはすべて「予定」で変動するかもしれない。
1段階目の改修工事を終えた「いずも」は従前同様の哨戒任務や各種訓練航海などを再開させ、近いうちには米海兵隊のF-35Bを発着艦させる運用試験を始める。飛行甲板での固定翼機運用方法や「空母や揚陸艦として」の艦体運用を海自は米海軍や海兵隊に学び支援を受けることになる。同時に航空自衛隊とパイロットはSTOVL 機F-35Bの操縦訓練を始め、練度を高める。両者が組み合わさり、順調に運べばごく近い将来(2024年度内?)、海自空母「いずも」そして「かが」が就役することになる。