本技術は2018年4月より研究を開始し、特許5件を取得している。(出願中6件)
様々なインフラ設備に使用される大容量のファン・ポンプ向けモーターは、高圧インバーターで回転速度を制御している。ファン・ポンプ等で使用される羽根は、回転数を速くすることで小型化するが、従来のシステムではギアを介して増速していた。モーターを高速化できれば、増速ギアが不要となり、モーターそのものの小型化も図れるため、省資源・高効率化による環境負荷低減に繋がる。
こうしたモーターの高速化の要求に伴い、インバーターにも高い周波数が求められるようになってきた。高圧インバーターの制御には従来、三角波比較パルス幅変調(PWM)方式(※1)を採用していた。しかし、インバーターの出力周波数が高い場合、従来のPWM方式では高調波(波形のひずみ)が増大し、モーターの振動・騒音の発生や効率低下を招くというデメリットがある。
これを解消するために、本技術を多数の電圧レベルを出力できるマルチレベルインバーターに適用することで、低ひずみ・高効率な最適パルスパターンで制御することができる。
本技術を既存の高圧高周波インバーターにアドオンして大容量モーターを運転した試験例では、実運用範囲の全域で効率が改善した。定格出力時で0.33%、効果の大きい条件では0.9%の省エネ効果が期待できる(いずれも参考値)。
・高効率
電圧レベルに応じて必要最小限のスイッチング回数で出力波形を制御するため、無駄なスイッチングが発生する従来のPWM方式と比べて、インバーターのスイッチング損失を低減できる。
・滑らか
高調波を低減するパルスパターンを事前に導出して適用するため、狙いどおりに低ひずみの波形が得られる。これにより、モーターの高調波損失・振動・騒音を低減できる。
・高周波でも安定
モーターを高速化・高周波化する場合も、対称な正弦波状の波形で固定パルスパターンを出力するため、非対称となりやすい従来のPWM方式と比べて安定な制御が可能となる。
・モーター巻線の絶縁に優しい
常に一定の間隔を保って1レベルずつ順に電圧を変化させるため(連続的2レベル変化を禁止)、モーター巻線にかかる瞬時的な大電圧(サージ電圧)を低減し、巻線の絶縁劣化を緩和できる。
・アドオン可能
既存のインバーターのハードウェアを取り替えることなく、本技術の制御機能をアドオンできる。
※1 三角波比較パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)方式は、既存の電力制御方式のひとつ。指令電圧と搬送波(三角波)の大きさを比較してオン・オフのパルスに変調し、そのパルスに基づいてインバーターの半導体スイッチを制御することで、所望の電圧指令相当の出力が得られる。
※2 R. Ogawa, M. Takiguchi and Y. Tadano, "Multilevel Fixed Pulse Pattern Control for Medium-Voltage High-Frequency Inverter," 2020 23rd International Conference on Electrical Machines and Systems (ICEMS), 2020, pp. 2089-2094, doi: 10.23919/ICEMS50442.2020.9291237.
※3 小川隆一・滝口昌司・只野裕吾:「高圧高周波インバータ向けパルス変調方式の基礎検討」,明電時報367号,2020,N0.2,pp. 12-19.