長谷川さんがこのデメキンを手に入れたのは昭和61年のことだというから、すでに35年も前のこと。以来、自分でメンテナンスしながら維持されてきたというから驚くばかり。しかも35年の間、カスタムしたりすることもなく購入時のままの姿を保っているそうだ。
自分でメンテナンスが可能な理由の一つにシンプルなメカニズムが挙げられる。スバル360に採用されたエンジンは、オイルとガソリンを混合する2サイクル方式の空冷2気筒。極初期だとトランスミッションが2輪車と同じコンスタントメッシュ方式だが、60年後期型からは通常のシンクロ方式へ変更される。今回の個体はシンクロタイプのものだから、以降のモデルと互換性が高まり、部品の確保が極初期に比べたらよくなったことも挙げられるだろう。
オーナーが留意しているがブレーキ周りのメンテナンスだそうで、4輪ドラム方式のスバルは制動性能が現代のクルマと比較にならないほど止まらない。定期的なメンテナンスが欠かせない個所なのだ。
室内をご覧になれば、どれだけシンプルに作られているか一目瞭然だろう。これだけ装備が少ないと壊れる個所も少ないから、逆に言えば維持するのが楽なのかもしれない。
メーターは速度計しか装備されないしステレオはおろかラジオすらもない。快適性をもたらすのはヒーターのみだが、空冷エンジンだから水冷式ほど効きが良くない。それでも走る性能はしっかりしたものだし、これで良いと思えたらそれで良いのだ。
ダッシュボードに剥がれかけたステッカーが残っている。これはタコメーターがない代わりに速度により使えるギアの範囲を示したもの。といってもこの時代のスバルは3速MTなので、それほど頻繁にギアチェンジする必要はない。
そのミッション、極初期型はコンスタントメッシュだったと前述した。こちらの場合、シフトパターンが横にシフトするタイプでマニアには「横H」などと呼ばれていた。これがシンクロ方式に切り替わったことで、通常のクルマと同じ縦H式になった。ちなみにシフトの手前にあるのがチョークとヒーターレバーだ。
小さな寸法と排気量ながら大人4人が乗っても山道を登るだけの性能が与えられたことは、スバル360が大ヒットした大きな理由。大人4人が乗ると少々狭く感じる室内だが、このデメキンは新車当時の姿をよく残しているようだ。シートは張り替えた形跡がなく、フロントとリヤシートで色のあせ具合が違う。フロントシートはリクライニングしない時代のもので、リヤに乗り込むときは背もたれだけ前に倒すことが可能だった。
旧車に乗るなら修理やレストアは避けて通れないと思いがちだが、昔から長く自分でメンテナンスされてきた個体なら大掛かりな修理は必要ないのだろうか。そう質問すれば、なんと長谷川さんはスバル360を他にも2台所有されていて、順番に車検を通しているのだとか。なるほどな理由だった。