気の置けない間柄ならいいけれど、そうでなければ、ゴーゴーと吹き荒ぶ冷風を避けるためにそれとなく吹き出し口を横に向けて、あとはひたすら目的地に到着するのを待つばかり……。
逆に私のような暑がりドライバーからすると同乗者を気遣って、暑いけどあまり空調温度を下げられず密かにジトッと汗ばみながら運転するなんてこともある。
おおよそ全世界で繰り広げられる、そんな不幸な車内環境を改善すべくホンダの開発陣が試行錯誤の末に開発したのが「そよ風アウトレット」。
先日フルモデルチェンジして登場した新型ヴェゼル搭載された画期的なエアコン吹き出し口だ。
黄色で示された上段の従来型の一般的な形状のアウトレットは、好みに応じた風向きに変えられることと風速が高いので短時間で温度を変えられるメリットがあるが、苦手な人は多いし、状況によってはサイドウインドウを曇らせることにもなる。
方や青色の「そよ風アウトレット」は、簡単操作でワイドフローに切り替え、乗員の身体に当てないことで肌や眼の乾燥を防ぎながら、風の流れで気流を生み出して乗員の周囲の空気を攪拌することで快適な環境をつくりだす。
また、風をガラスに沿って吹き出すことで窓ガラスからの熱気/冷気による不快感を軽減してくれる。
「そよ風アウトレット」の開発はヴェゼルの開発初期段階での新型ヴェゼル開発責任者である岡部L P Lとデザイナーとの会話から始まった。
先代ヴェゼルのオーナーである岡部L P Lがキレイに一文に揃えたエアコン吹き出し口を、いつの間にか奥方があちこちに向けてしまうので美しくないという話題になったそうだ。
別の設計チーフの奥方も同様で、なぜそうするのか奥方に聞くと「風に当たりたくない」との答えが返ってきたという。
まさに冒頭のような状況がホンダ開発陣の界隈でも頻発しており、それが開発開始のきっかけとなったそうだ。
(後の外部機関を用いたアンケート調査でも15%程度の比率でエアコンの風を顔や身体に当てたくないという結果が出たそう)
さらに余談ではあるが、実はホンダは従来から車室内の空気の流れに関し、さまざまなチャレンジを行っている。
古くは1981年のアコードに「世界初のそよ風マイルドフローベンチレーション・システム」を開発。その後も1983年のCR-XにはWRCマシンばりの、屋根から走行風を取り入れる「ルーフベンチレーション」を採用。1993年のインテグラにも「マルチフローベンチレーションシステム」と名付けられた送風機構を搭載した。
いつの世も、パッセンジャーに快適に過ごしてほしいという開発者の思いは同じのようだ。