日本をはじめ欧米の自動車メーカー・自動車部品メーカーが、希土類フリーの電気モーター開発に力を入れているのはご存知の通りだ。その表向きの狙いは環境対策であるが、裏には地政学的な問題を避ける狙いが含まれている。本稿では、ドイツの自動車部品メーカーであるマーレが先月発表した、磁石を使わない(希土類フリー)の電気モーターをご紹介しよう。


TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

 マーレは現在、希土類元素を必要としない、新しい種類の磁石を使わない電気モーターを開発している。これにより生産時の環境への負荷を低減できるだけでなく、コストと、リソースのセキュリティ面でもメリットが得られる。新しいモーターの中心的な機能は、誘導性で非接触の動力伝達である。これにより、モーターは摩耗がなく、特に高速で効率的に作動する。効率はほぼすべての動作点(回転域)で95%を超えている。これは、以前はフォーミュラEのレーシングカーでしか達成できなかった高いレベルである。この新開発のモーターは容易に拡張できるのも特徴だ。サブコンパクトカーから商用車まで、あらゆる用途に使用できる。




 マーレ経営会議長であり最高財務責任者のマイケル・フリック氏は以下のように述べた。


「この新しい電気モーターで、当社は持続可能な運営会社としての責任を果たします。磁石を使わない、希土類元素の使用を回避することは、地政学的な観点からだけでなく、自然と資源の責任ある使用に関しても、大きな可能性をもたらします」

 コーポレートリサーチ&先端技術担当副社長のマーティン・バーガー博士によると、希土類フリーを達成する結果、比較的低コストで高効率の製品を提供することが可能であるという。新しい電気モーターは高い耐久性も誇る。これはモーター内部の回転部分と静止部分の間で必要な電流の伝達が非接触で行われ、摩耗がないために獲得できた性質である。これによりエンジンはメンテナンスフリーとなり、より幅広い車両クラスに適用できる(筆者注:原文リリースの通りに訳したが、もともとモーターは多くのメンテナンスを必要としない)。

 電力は、交流を運ぶコイルによって、誘導を介してワイヤレスでローターに送らる。これによりローター内部の受信電極に電流が誘導され、そこで銅巻線が通電されて電磁界が生成される仕組みである。




 公式リリースでは生産時期については触れていなかったが、IEEEによると2年半後には大量生産が始まる見込みであり、既にテスト用プロトタイプが流通しているという。




 本製品の簡単な技術解説動画が、マーレ公式サイトにて公開されている。ご興味を持たれた方は以下のリンクよりご覧いただきたい。

参考:マーレ
情報提供元: MotorFan
記事名:「 【海外技術情報】マーレ:磁石を使わない(希土類フリー)、非接触で安価、高効率なモーターを開発