TEXT:畑村耕一(Dr.HATAMURA Koichi)
環境対応自動車用の燃料としての天然ガスは、天然ガスの主成分がメタンであることから、次のような特徴を持っている。
* 混合気に火花点火で着火して、ガソリンと同じような火炎伝播燃焼ができる。ただし気体燃料の分、体積効率が低下するためトルクが10%程度低下する。
* 予混合燃焼のためにすすの発生がなく、メタン(CH4で炭素が少ない)が主成分の天然ガスのエネルギーあたりCO2排出量がガソリンより26%少ない。
* オクタン価が高い(約130)ため、高い容積比を利用して高効率なエンジンを実現できる。また、過給ダウンサイジングと相性が良い。
* 天然ガスは気体燃料のため、高圧タンクの重量などを加えると、重量あたりのエネルギー密度はガソリンや軽油の1/10しかない。液化したLNGではその3倍程度のエネルギー密度になる。
* CNGのタンクを含むエネルギー密度(∝体積辺りエネルギー密度)は、水素と比較すると3.5倍、電池と比較すると10倍程度に大きい。
すなわち、ガソリンエンジンと同じ燃焼方式なので、ベースのガソリンエンジンに天然ガスの燃料供給システムを追加して一部の部品を変更することで、容易に天然ガスエンジンを作ることができる。そのため、天然ガスの産出国であるイラン、パキスタンやアルゼンチンでそれぞれ200〜300万台規模で普及している。ただしエネルギー密度が低いために航続距離が十分でないので、ガソリンと併用する場合がほとんどである。
PM(すす)の発生がほとんどないことから、HDT(大型トラック)の分野でディーゼルエンジンの代替としての利用が増加している。この場合はディーゼルエンジンを改造することになるため、燃料噴射ノズルに替えて点火プラグを装着、火炎伝播燃焼用の低容積比のピストンなどの改造が必要になる。なかには、軽油を筒内噴射して軽油の圧縮着火で点火するデュアルフューエルのエンジンもある。すすとNOxの問題を伴うが、リーンバーンにできるために熱効率が高い。天然ガスの搭載については、HDTは毎日定期的に長距離を走るので液体状態を保つのが容易なため、エネルギー密度の大きいLNGを採用するものが多い。シェールガス革命にわく米国では、一昨年までLNGのHDTが毎年8%程度の増加を続けている。
一方、オクタン価が高いので天然ガスエンジンは専用で設計すれば容積比を大幅に高めることができる。ミラーサイクルを使わなくてもNAで13〜14、ターボ過給で12程度は可能だろう。過給ダウンサイジングの天然ガスエンジンであれば、高過給・高容積比で設計すればトルク低下の問題は解決する上、高効率エンジンを実現できる。また、ガソリン使用時は過給圧を低下することでノッキングを防止できるので、バイフューエルも容易である。高効率に加えて、エネルギーあたりのCO2排出量が少ないので、更にCO2削減に貢献できる。
BEVやFCVを普及させるには、それぞれ充電スタンド、水素スタンドを現在のガソリンスタンド並みに隈なく設置する必要があり、そのための投資は莫大なものになる。それぞれの車が普及するまでは補助金頼みが避けられない。HEVやクリーンディーゼル車は既存の給油所が使えるので問題はないが、価格が高いという問題がある。
一方、CNGVの場合は、既存のパイプラインとLNGの輸送システムを利用することができる。米国では、LNGのHDTの急速な普及にあわせて補助金に頼ることなく幹線道路沿いにLNGステーションが設置されつつある。CNGの天然ガス乗用車の場合は、家庭に来ている都市ガス(天然ガス)を夜間に給ガスして、長距離走行では幹線道路沿いのステーションを利用すれば燃料供給インフラに困ることはない。実際、米国では家庭用天然ガス充填機が一部の地域で普及している。
現在、国内では天然ガスステーションの設置や高圧タンクの整備に色々な規制があるために、CNGVの導入の妨げになっているが、幸い国を挙げてのFCVの普及の動きに合わせて気体燃料関連の規制の見直しが始まっており、国内においてもCNGVの普及を促進する土壌が出来つつある。天然ガスステーションの設置が進まない場合でも、CNGVはガソリン走行のできるバイフューエル車として導入すれば、航続距離の問題はほとんど解消する。FCVの開発によって70MPaの超高圧タンクが低コストで製造できるようになれば、水素の3.5倍のエネルギー密度の天然ガスを使うCNGVの航続距離とタンクスペースの問題も解決する。