新たな日産SUVの国内市場登場への期待を込めて、そしてエールを送る意味で、マニアックな四駆専門誌編集長が、今なお人気が高く、かつて愛車としていた「日産・初代サファリ愛」(?)を語ります。今回は連載最終回、初代サファリの試乗記を動画と共にお届けします!!
低速で這い進むクロスカントリー走行は得意だが、それはライバルである“狭義のランクル”や三菱ジープと大差ない。違いが出るのは少々の慣性を保ってリズミカルに走破する場面だ。テーパーリーフスプリングは普通の板バネより敏速に伸縮し、アクスルをバタつかせず車体を前に進める。
この特性を熟知したオフローダーが、まるでジムニーのように難所を乗り切る場面を見たことがある。重量車ゆえ失敗したときのダメージを考えればお勧めできる操法ではないが、他のリーフリジッド車には真似できないことだ。
とはいえ、動画サイト等でよく見る改造ランクルのようにウネウネと足が動く車ではない。長尺車のリヤに備わる親子バネが曲者で、上側2枚の補助リーフが効くと(下の画像の状態)あっけなく限界が訪れる。
これは乗り心地を維持しつつ500kg積載に対応した結果だから致し方ない。このVRG160というクルマは、クロスカントリーカーというより大型ライトバンとして乗り心地や安定性を追求しているようで、VRG161で350kg積載車が登場すると走破性も高まった。
荒れた地形に踏み入れるには、2.220と充分に低いローレンジを最初から選ぶ。長尺車の場合、歴代サファリで最大減速の4.625のファイナルレシオと併せて頼もしさ倍増と思いきや、1速のギヤ比が3.519と高いためにトータル約36倍減速と物足りない。ランクルBJやHJの1速がトラック的なエクストラ・ローであるのに対して、サファリの1速は通常の発進ギヤとされているのだ。
一旦クラッチがつながれば、相当に負荷が掛かっても持ちこたえる。そんな「我慢状態」からアクセルを踏んだときの反応は鈍く、しかし抵抗に負けずジワジワと着実に回転を上げる。ランクルBJがポンとトルクを取り出せるのに比べると地味に思えるが、これぞサファリ流である。
ジープやジムニーのような軽量級では瞬発力不足と評されそうな特性も「粘りの直6 vs パンチのビッグ4」として、好みが分かれるくらいだ。
クロスカントリー走行における欠点は長い胴体と低い腹。これは駆動系の容量もあっていかんともしがたい。ならばクリアランスを稼ぐべしと車高アップを考えても、社外サスペンションの少なさや弊害は先述のとおり。せいぜいタイヤの大径化くらいだ。
短尺車なら腹下に不満はなく、地形と干渉するのは長尺車と同じだけ突き出したリヤオーバーハングとなる。リヤサスペンションは補助リーフのない3枚構成でよく縮むため、さらに尻を打つ。
もうひとつ弱点を挙げるなら、エンジン特性に対して、4.111と高め(ランクルと同じ)のファイナルレシオ。ソロリソロリと進みたい場面では足が速すぎる。
軸重配分の良さはスムーズな走破に寄与している。現車を秤で実測すると、スペアタイヤや手荷物を載せた状態で、前後の軸重はピッタリ50:50であった。
総じて、ノーマル状態では良路から非舗装路、極悪地形に至るまで扱いやすく乗員にも優しいが、車体が干渉するような限界近くの性能はライバルと大差ない。古典四駆のように鼻面で地形を削りながら進む真似もできなければ、後継車Y60系の凄まじいトルクや走破力を知っている人にも物足りない。
つまりどんな場面もソツなく走れてしまうというわけだ。足まわりもライバルより洗練されている。RV風四駆に見えるが、設計者の意図するところ、志は高いことがわかる。「万能にして汎用」とはさりげないものなのだ。初代・日産サファリとは、そういうクルマなのである。