なぜNSXにDBWが採用されたのか、その理由をホンダの技術陣に尋ねたところ、驚くべき答えが返ってきた。それはエンジンの搭載位置の問題だったのだ。ミッドシップのNSXでは当然エンジンは車体後部に搭載されており、スロットルペダルからワイヤーを引き回すには、長いワイヤーと多くのリンクを設けなければならない。右ハンドルが主体のNSXでは、センタートンネルまでの距離の分、条件はさらに悪くなる。すると、摺動抵抗で必然的にペダル操作力は重く、渋くなる。FFばかりのホンダ車では問題にならなかったネガがクローズアップされた。それを回避するために、ホンダ内製のDBWが採用された、というのが真相だったのだ。エンジン制御要件ではなく、ボディ構造要件での採用だったわけだ。
生産台数からいって、ほとんどワンオフに近い代物であり、当然サプライヤーからのアッセンブリー供給など期待できないから、ケーブル式から大幅なコスト増は避けられない。1000万円の高価格車だから可能だった策であり、ペダルの操作力の問題だけなら、一般のFF車に使う必要はないし、価格の面からも現実ではない。実際の市販化に際しては同時にトラクション・コントロールも組み込まれたが、これまた当時はハイエンドで高コストな技術。かくしてDBWは誕生したあとすぐに、しばしの眠りにつくことになった。