レポート=山田弘樹[本文]/工藤貴宏[写真解説] フォト=神村 聖
ラダーフレームに前後リジッドアクスルのパートタイム4WDを組み合わせる軽の本格オフローダー「ジムニー」。このシャシーをベースに、世界で実用とされていることから定められた195/80R15サイズのタイヤを収めるオーバーフェンダー(片側85mm)を装着し、全長を155mm伸ばしたモデルが「シエラ」だ。 エンジンは輸出用モデルに搭載される1.5ℓ自然吸気エンジン「K15B」(102ps)を国内初搭載。トランスミッションは5速MTと4速ATの2種類となる。インテリアは、ジムニーと共通。インパネはすっきりとした水平基調で、中央にはナビスペースを用意。メーターはアナログ計器を思わせるスクエアの二眼式で、中央にインフォメーションディスプレイが備わる。
グレードは「JL」と「JC」の2種類で、各種先進安全機能がパックになった「スズキセーフティサポート」や、2トーンのルーフカラーを選びたいなら後者となる(ただし「JL」でも、オプションとして安全機能を選択することは可能)。またヒルホールド/ヒルディセントコントロール、ブレーキLSDといった機能は標準装備される。室内関係でいうとヒーター付きのファブリックシートも共通。駆動やギヤ比を切り替えるトランスファーは、ボタン式からレバー式へと改められている。ボディ全長は延長されたものの、ラゲッジ容量は後席使用時352ℓと、ジムニーと変わらない。
オーバーフェンダーを装着するワイルドなルックスとは裏腹に、シエラの乗り味はおっとりしている。その最たる理由は、搭載される1.5ℓ直列4気筒エンジン(102ps/13.3kgm)が自然吸気ゆえ。ジムニーの660ccの直列3気筒ターボ(64ps/9.8kgm)と比較して、出足の加速感は一歩譲る。特に4速ATのギヤ比はハイギヤードだから、加速性能だけをとって見ると正直もう一段低いギヤが欲しくなる。しかしながら、踏み込んだ後の伸びは滑らかで、オーバードライブを持つ4速ATとの組み合わせは高速巡航を静かにこなしてくれる。
ふたつ目は、ワイドトレッド化されたボディの余裕。ジムニー/シエラは新型となってラダーフレームの剛性が1.5倍向上し、その恩恵をシエラは乗り心地に得た。元来ストロークがたっぷりと取られたサスペンションはよりしなやかに伸縮し、良好な視界、スクエアなボディがもたらす見切りの良さとともに、日常での使い勝手を大きく高めた。ボール&ナット式ステアリングは、ラック&ピニオン式に慣れたドライバーにとって、極めてスローに感じられるだろう。その生活において「4L」(4WDローギア)の出番は、ほとんどないかもしれない。それでもやはり、このルックスに惹かれる人は多いだろう。誰もが認める“本物”を、一度は所有したいと思うはずである。そんな時、シエラの日常性は大きな武器となる。
ボディカラー:ジャングルグリーン
オプション装備:パイオニアスタンダードワイドナビセット(13万2605円)/フロ
アマット(2万515円)/ETC(2万2220円)/USBソケット(2805円)/ドライ
ブレコーダー(3万4980円)
後席は、大きな窓と四角い車体による高い開放感を備え、ジムニーのイメージからは望外なほどに膝まわり空間にも余裕がある。シートは左右独立リクライニング付きで、座面長も十分。
現行モデルは、歴代ジムニー初のハンドル上下調整機構を手に入れた。立ったAピラーや車幅感覚がつかみやすい四角いボンネットなど、本格オフローダーを感じさせる運転感覚。
こだわっているのは、後席を倒した際の荷室の広さ。シートは完全に床下に格納され、まるで最初から後席が存在しないかのようにスッキリしている。荷物を積む時にベルトが邪魔にならないよう、シートベルト下部は車体から取り外せる。
山田弘樹はこう買う!
タウンユースでの出足の良さや、燃費性能(WLTCモード総合で15.0㎞/ℓ。4速ATは13.6㎞/ℓ)、クルマを操る趣味性を大切にするなら5速MTを選びたいところなのだが、高速巡航のギヤ比を考えるとオーバードライブを備える4速ATが断然有利で、その判断はとても難しい。グレードは「スズキセーフティサポート」を標準装備する「JC」を選びたい。
※本稿は2020年10月発売の「モーターファン別冊統括シリーズVol.128 2020年コンパクトカーのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。