レポート=佐野弘宗[本文]/工藤貴宏[写真解説] フォト=藤井元輔/中野幸次
ヤリスクロスは、まさに「名は体を表す」クルマである。主要ハードウェアをヤリスと共用する、ヤリスのクロスオーバーSUV版だ。土台となる新世代コンパクトプラットフォーム「GA-B」は、ホイールベースも実質的にはヤリスと共通。1.5ℓ3気筒エンジンと同ハイブリッドというふたつのパワーユニットもヤリスでお馴染みのもので、ヤリス同様にそれぞれに4WDも用意。室内高は、見た目のスタイリングどおりにヤリスクロスの方が少し大きいが、フロアに対する前席座面高はヤリスと同じ。一方の後席座面高はヤリスより高められて、各部空間値はヤリスと変わらないものの、居住空間はヤリスより良好だ。
さらに、荷室もヤリスより大きく使い勝手に優れるのはもちろん、ハンズフリーパワーバックドアや3分割可倒シートバック、2分割デッキボード(FFのみ)など、いかにもいまどきの街乗りSUVに見えつつも、その実態は本格レジャー用途にも耐える「SUVらしい実用性」を持つ。 また、4WDも基本ハードウェアはヤリスと共通ながら、そこにマルチテレインセレクト(ハイブリッドはトレイルモード)を用意する。その悪路走破性は見た目に似合わぬ(失礼!)ハイレベルなもので、狭い市街地でクルクルと取り回しやすい街乗りコンパクトSUVという側面だけでなく、本格SUVとしての実力も妥協がないのが、ヤリスクロスの大きな特徴と言って良い。
ヤリスクロスは前記のパワーバックドアだけでなく、各部にクラスを超えた装備の充実ぶりが目立つ。最上級の「Z」グレードの運転席はなんと電動パワーシートで、巧妙なクラッチ機構によって、低コストの1モーター式を新開発することで実現したとか。作動は確かに少したどたどしくもあるのだが、このクラスで電動シートが備わること自体が驚きである。また、交差点の歩行者検知機能や、電動パーキングブレーキによる全車速対応ACCなど、先進安全も掛け値なしに最先端だ。ヤリスクロスの乗り味は、当たり前だがヤリスによく似ている。
その車高のせいか、乗り心地はもともと硬めのヤリス以上にゴツゴツする反面、動力性能もハンドリングもとにかく活発。上級グレードは18インチというクラスとしてはかなりの大径タイヤを履くが、荒れた路面でも持てあます素振りをほとんど見せないところに基本フィジカル性能の高さを感じさせる。ロールはほとんど感じさせず、コーナリングもいかにもシャープで、軽量・低重心・低慣性……というGA-Bの設計思想が、実際にステアリングを握って明確に体感・納得できるのが面白い。ヤリスよりも見晴らしが良くなった後席も絶対的には広いとはいえない。街乗りの適性もすこぶる高いヤリスクロスだが、自慢の機能性を存分に味わうには「1〜2名乗車+たっぷり荷物」で、ロングドライブツーリングに出掛けたいところだ。
ボディカラー:シルバーメタリック
オプション装備:ハンズフリーパワーバックドア(7万7000円)
後席は、前席よりも着座位置を高くする(ヤリスと比べても20mm高い)ことで、乗車姿勢を最適化。頭上がゆったりしているなどヤリスよりも広い空間づくりで、より快適な居心地だ。
前席のシートの仕立てや運転姿勢はハッチバックのヤリスと共通。驚くのは、プレミアムブランドを除いて、このクラスではきわめて珍しい電動調整式シートを用意していること。
デッキボード下も含めて390ℓという大容量。後席を畳むことなく9.5インチのゴルフバッグ2個、もしくは特大サイズ(110ℓ)のスーツケース2個を積めるように設計されている。3分割の背もたれや、左右6対4分割の床面ボードも特徴。
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安全性を考えるなら、斜め後方を検知するブラインドスポットモニターとリヤクロストラフィックブレーキが選べる「G」以上のグレードを選びたい。FFで乗るならハイブリッド車は乗り味や静粛性で明らかに満足感が高い。4WDでアウトドアレジャーを楽しみたいなら、いざというときに安心のマルチテレインセレクトが付くガソリン車が良い。
※本稿は2020年10月発売の「モーターファン別冊統括シリーズVol.128 2020年コンパクトカーのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。