1月には待望のピュアEVモデルがラインアップに追加。MX-30のポジションが明確化されたことで、いよいよ真の実力を試すときがきた。自動車評論家の瀨在仁志がマイルドHEVとEVの2台を乗り比べた。
TEXT:瀨在仁志(Hitoshi SEZAI) PHOTO:Motor-Fan.jp
デビュー当時のMX-30の印象をひと言で言えば、それまでの鼓動デザインの力強さに対して、観光地の水辺に浮かんでいる小舟のような、のどかさがあって牧歌的な印象を受けた。ふんわりとした顔つきやコルクを使ったインテリアなどの温かさが、力強さやパワフルさなどといった体育会の味わいを遠ざけていることもあるが、国内で初めて採用したSKYACTIV-Gに採用した24Vマイルドハイブリッドユニットもまた、新しい乗り味として印象深かった。
それまでのマツダ車は、発進加速時や変速時など常に力強く大胆さが持ち味だったが、MX-30ではパワーが変化していくときにモーターのバックアップによって、カドを丸め込んだ洗練された印象を受けた。
乗り味も同様で前後のピッチングが大きいことが少々気にはなるものの、ゴツゴツとした乗り味もまたカドが丸くなり、室内での快適性も向上。旋回フォームを作り込むときには懐深く沈み込むような粘り強さも発揮、穏やかな乗り味のなかにもマツダ車らしい走りの良さを満たしてくれていた。
これがEVになると、俄然それまでの洗練されたイメージが薄れてしまうほど出来が良い。同じボディでいわばガソリン車と電動車を乗り比べることがなかったから当然かもしれないが、EVの乗り味は一足飛びに向上した印象を受けた。
EVモデルでは当たり前だが(エンジンがないため)燃焼行程はなく、トランスミッションもないことから変速過程も存在しないのだから、全域でパワーの屈曲点はなくスムーズで穏やか。パワー変化が少ないことで、ボディが受ける振動やインパクトは少ないし、タイヤまでの動力伝達もシンプルだから余計な力を受けにくくスッキリとしている。
当たり前とはいえ、モーターのスムーズさはガソリンエンジンでは到底敵わないことを実感。個人的にはいままで否定的だったEVモデルだったが、同じクルマで乗り比べてしまうと、まるで別次元の乗り味として認めるしかない。
ハンドリング面においてもステアリング自体はセンター付近の座り感が頼りないものの、エンジンという重量物を積んでいないせいか、フロントタイヤの仕事量には余裕があって、ソフトな乗り味にもかかわらず、旋回初期の動きは正確さを増し、前後の動きもMHVより小さくて落ち着いている。
高速域での安定感も、ボディ自体は依然として前後に動きやすいことに変わりはないが、移動量が小さく、キャビンに無駄なインパクトを与えることがない。バッテリーを低位置に積んでいることや、フロントが軽いことなどEV特有のパッケージングによる効果だが、MX-30が求めた次世代の乗り味は、EV化でこそ確かなものとなったと言える。
もっとも使い勝手に関しては、モーターのパワーは80km/h程度までは直線的な加速感を保ち不満はないものの、100km/h巡航からの追い越し加速などではトルク感が薄く感じられ、変速機を用いるなどして高速でも立ち上がりの良さを期待したいところ。
とはいえ、都市高速などではまったく不満はない。エンジンブレーキ同様の効果を持つ回生ブレーキモードは、左パドルで2段階、右パドルで2段階選ぶことで、渋滞時等の走りも充分カバーしてくれる。
右パドルは回生が弱く抵抗の少ない滑らかな走りができ、左パドルでは減速Gが高く加速時は少々抵抗が大きく感じられるモードとなる。
少し残念なポイントとしては、都内と横浜を往復するとバッテリーの残量が半分を切り、再度都内に戻るときには充電場所が気がかりとなってしまうことか。
市街地でも意外にも充電ポイントは見つかりにくい。そんななかで日産のディーラーは仕様が異なることもあるがCHAdeMO急速充電器を設置している店舗も多く、さすがEV化の先駆者として納得。今回はEV化への呉越同舟だと自分を納得させてMX-30EVの給電をさせていただいた。
500円の給電で3分の1程度満たされ、およそ70~80kmは走れるから、ガソリン高騰を考えると結構なお値打ち感だ(給電時間は約30分/500円で80kmだとすると6.25円/km。ガソリン価格が1ℓ=150円だとすると24km/ℓの燃費に相当する)。
いっぽう24VマイルドHEV(マツダはM-Hybridと呼ぶ)の使い勝手の良さは、やはり走行距離の長さが心強い。都心と横浜を往復しても燃料系はようやく上の目盛りから落ち始めたといったイメージで、まったく下降スピードが違う。その時点で燃料計の心配から解放され、以降メーターを気に留めることはなかった。
だが、EVからマイルドHEVに乗り換えてみると、手応えといった操作感や乗り心地などがどっしりとして落ち着いているいっぽう、路面からの入力は大きく感じられた。デビュー当初は洗練さに驚かされたものだが、EVと同時に乗って比べてしまうと粗さが目立ってきてしまった。
しかし高速域となれば、100km/hあたりからの追い越し加速もキックダウンとともにフロントタイヤを蹴り出してくれるし、エンブレ効果も大きく、高速追従性も良い。まさに、ガソリンエンジンの面目躍如、力強い走りを体感することができた。
EVはフロントの軽さと低重心化によって、どこまでも滑らかで操作に対するインパクトは穏やか。同じシャシーを使っていながらもマイルドHEVはガソリンエンジンならではの馴染みのあるハンドリングや乗り味を実感できたが、EVは見かけは同じながらも乗り味は別物。従来のモデルとはまったく異なる味わいが楽しめることで、自動車の魅力を再認識。
あとはもう少し走行距離が伸びるか、目に見えて充電ポイントが増えるなど、大きな課題がクリアされてこそ、この乗り味を安心して楽しめることになる。
マイルドHEVの走りが古くさく見えてしまうほど、EVの走りの良さに取り憑かれてしまったものの、気楽に味わえないことだけは本当に残念なポイントである。
だが、ボンネットを開けるとぽっかりと大きなスペースが残されており、ここにロータリーエンジンが搭載されることになる。レンジエクステンダーとしての道選ぶことで、この不安は払拭され大いに希望が持てるクルマとなることは間違いない。
MX-30の次の一手に期待したい。
MX-30 EV MODEL HIGHEST SET
Technical Specifications
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1565mm
ホイールベース:2655mm
トレッド:F1565mm R1565mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
車重:1650kg
パワートレーン:e-SKYACTIV
駆動用モーター:交流同期モーター
モーター型式:MH型
最高出力:145ps(107kW)/4500-11000rpm
最大トルク:270Nm/0-3243rpm
駆動用二次電池:リチウムイオン電池
総電圧:418V
バッテリー容量:35.5kWh
水冷式
充電:DC充電 CHAdeMO
AC(普通)充電 最大6.6kW
一充電走行距離(WLTCモード)
256km
交流電力量消費率 WLTCモード:145Wh/km
市街地モード 121Wh/km
郊外モード 129Wh/km
高速道路モード 152Wh/km
車両本体価格:495万円(税込)
<試乗車>
特別塗装色:11万円
合計金額:506万円(税込)
マツダMX-30(2WD)
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1550mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式&トーションビームアクスル式
駆動方式:FF
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
型式:PE-VPH(e-SKYACTIV-G2.0)
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5×91.2mm
圧縮比:13.0
最高出力:156ps(115kW)/6000pm
最大トルク:199Nm/4000rpm
燃料:レギュラー
燃料タンク:51ℓ
交流同期モーター
型式:MJ型
最高出力:6.9ps(5.1kW)/1800rpm
最大トルク:49Nm/100rpm
トランスミッション:6速AT
燃費:WLTCモード 15.6km/ℓ
市街地モード 12.3km/ℓ
郊外モード 16.1km/ℓ
高速道路モード 17.2km/ℓ
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:242万円 (税込)
<試乗車>
特別塗装色:6万6000円
ベーシックシックパッケージ:7万7000円
セーフティパッケージ:12万1000円
ユーティリティパッケージ:8万8000円
360°セーフティパッケージ:8万6880円
モダンコンフィデンスパッケージ:11万1000円
合計金額:296万9880円(税込)