レポート=山田弘樹[本文]/小林秀雄[写真解説] フォト=平野 陽
※本稿は2020年10月発売の「モーターファン別冊統括シリーズVol.128 2020年コンパクトカーのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
4代目フィットは、まずその外観から大きく印象を変えた。「柴犬」をイメージしたというデザインは伝統のワンモーションフォルムと相まって、大きなLEDライトがつくり出す表情の柔和さと精悍さをバランス良く表現。シャープだが無表情だった先代に比べ、まさしく「ウチのワンコ」的な親しみやすさを備えた。
グレード展開は「BASIC」、スポーティ仕様の「NESS」、充実仕様の「HOME」、ラグジュアリー仕様の「LUXE」、全幅及び全長を拡大したクロスオーバー仕様の「CROSSTAR」の計5グレード。パワーユニットは1.3ℓ直列4気筒(98㎰)と、1.5ℓハイブリッド「e:HEV」(モーター最高出力109㎰)の2種類で、全車にFFと4WDが設定される。ボディサイズは「CROSSTAR」がわずかに全幅をはみ出すものの、基本5ナンバー枠に収まるキープコンセプト。先代から踏襲する三角窓は、Aピラーを細くすることでフロントグラスエリアの視界を広げ、Bピラーが衝突安全に備える。7インチのメーターパネルは小振りだが、必要な情報を見やすく表示できており、ダッシュボードのフラット化にも貢献。
インテリアは全体的にシンプルで、スッキリ広々としている。燃料タンクを前席下に収めるセンタータンクレイアウトも健在で、ボディの安全性と後席の居住性を両立。コンパクトにして居住性の高い、フィットの伝統が受け継がれている。
フィットを運転して誰もが感じる最大の特徴は、その優しい乗り味だ。フリクション低減にこだわったサスペンションは伸び縮みがスムーズで、ふんわりと身体全体を包み込むシートとともに、コンパクトカーらしからぬ乗り心地の良さを実現。それでいて操舵応答性がリニアなため、狙い通りに動かせる。穏やかなハンドリングなのだが、良く曲がるのである。その要となるのはボディ剛性の高さだが、なんと新型は先代のプラットフォームを踏襲している。つまりセンタータンク方式がもたらすフロア剛性には、二世代を渡り歩くのに充分な資質があったことになる。
1.3ℓ直列4気筒のガソリンエンジンは環境性能への対応か100㎰から98㎰となったが、CTVとの連携が素晴らしく、実用トルクを上手に引き出して気持ち良く走る。ホンダが数あるなかから本命視したハイブリッド「e:HEV」は、1.5ℓ直列4気筒(98㎰)とふたつのモーターを組み合わせたシステム。エンジンは高速巡航時の高負荷領域以外そのほとんどを発電機として用いられ、通常領域の走りはNA1.3ℓより高出力(109㎰/25.8㎏m)な走行用モーターが担当。アクセル操作に対してタイムラグなくトルクを立ち上げる様はまさにEV的だが、アクセル開度に応じてエンジン回転も協調制御させているため、モーターで走っているというよりは静かなガソリン車に乗っているという感覚の方が強くなるのは面白い。
ボディカラー:クリスタルブラック・パール&シルバー
オプション装備:コンフォートビューパッケージ/9インチナビ〈VXU-205FTi〉/
ドライブレコーダー〈DRH-197SM〉/Honda CONNECT for Gathers+ナビ装着スペシャルパッケージ/特別塗装色(6万500円)
メーターフードすらない水平基調のインパネには、「BASIC」系を除いてソフトパッドを採用。心地良い室内空間が演出されている。販売店オプションの純正ナビで利用できるHonda CONNECTも一部に標準装備。
後席は、従来よりも座面のクッションの厚みを24㎜増した座り心地の良いシートを採用。膝前のクリアランスは約170㎜、頭上は約60㎜あり、全方位に開放的な空間が広がる。
「HOME」系の前席は、プライムスムースとナチュラルテキスタイルのコンビシートを標準装備。Aピラーを細くすることで、斜め前方にも見通しの効いた広い視界が確保されている。
開口部の最大横幅が拡大し、大きな荷物の出し入れも楽になった。後席シートは6対4分割可倒式で、背もたれが前方に沈み込むダイブダウン機構も採用。フラットというより、むしろシート側の方が低くなる拡大フロアを実現する。
山田弘樹はこう買う!
1.3ℓガソリンエンジンの軽さとCVTの緻密な制御による過不足ない走りは質実剛健で捨て難いのだが、パワフルなのに滑らかな1.5ℓハイブリッドがやっぱり本命。グレードはしっとりとした乗り心地を保ちながらも、操舵応答性がリニアな「NESS」で決まり。暖かみのあるデザインなのに、明るいボディカラーが少ないのは残念。