レポート=河村康彦[本文]/工藤貴宏[写真解説] フォト=奥隅圭之/中野幸次/宮門秀行
※本稿は2020年10月発売の「モーターファン別冊統括シリーズVol.128 2020年コンパクトカーのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
“GA-B”と称されるコンパクトカー用に開発された新世代骨格を初採用するとともに、これまで親しまれてきたヴィッツの名を海外市場向けと共通の名称へと改めたことも話題になったのが、2020年2月に発売されたヤリス。前述の事情から日本では"ブランニュー"だが、実質的には1999年に発売された初代ヴィッツから数えて四代目に当たるのがこのモデルということになる。モータースポーツ参戦を意識した異端児であるGRヤリスを別にすると、ボディタイプは4ドア+ハッチバックのみの設定。搭載されるパワーユニットは、“ダイナミックフォース”の愛称が与えられた新開発の1.5ℓ3気筒ガソリンエンジンと改良型の1.0ℓ3気筒ガソリンエンジン、そして前出1.5ℓエンジン+モーターを用いたハイブリッドの3タイプが用意される。
そんなパワーユニットに加え、シャシーやトランスミッションなどの多くのランニングコンポーネンツも新開発するなど、まさに“フルモデルチェンジ”と呼ぶに相応しい内容が盛りだくさんのヤリスだが、トヨタのコンパクトカーとしては初めてとなる、後輪をモーターで駆動する“E-Four”と呼ばれる4WDシステムをハイブリッドモデルに設定したことも見どころのひとつ。また、従来のコンパクトカーの常識を超えた高いレベルの安全装備が標準採用されたのも、見逃せないポイントだ。
テストドライブを行なったのは、ハイブリッド仕様と1.5ℓエンジン仕様のいずれもFFモデル。車両重量は当然ハイブリッドの方が重いが、実際の動力性能では印象が逆転する。大差とは言えないもののハイブリッドの方が力強くスタートするのは、回転数が低いほどに大きなトルクを発するという、電気モーターならではの特性によるところが大きいはずだ。もっとも、1.5ℓエンジン仕様も、発進加速力は決して不満は抱かない水準。こちらは、新たに発進用ギヤが追加された新CVT採用の効果が表れていそうだ。新世代の骨格を採用した効果を最も実感させられるのは、このクラスで「世界屈指」と表現しても差支えのない、フットワークテイストの上質さ。特に、高速クルージング時のフラット感や、安定感の高さは「群を抜いている」と言っても過言ではない印象。これで、静粛性がもう一息高められれば“小さな高級車”感すら得られることとなりそうだ。
ワンタッチ操作で5回の点滅を繰り返すモードが追加されたウインカーや、あえてメカニカルなスイッチ式とされた空調コントロール系など、実は扱いやすさが吟味されたことが明らかな各種の操作系も好印象。一方、ホイールベースが延長されたにもかかわらずタイトになった後席居住性や30㎞/h以上の領域でしか作動しないレーダー式のクルーズコントロールが、ヤリスの弱点ということになりそうだ。
ボディカラー:ブラック×コーラルクリスタルシャインオプション装備:コンフォートシートセット(5万1700円/特別塗装色(7万7000円)/15インチアルミホイール&タイヤ(5万9400円/3灯式フルLEDヘッドランプ+LEDターンランプ+LEDクリアランスランプ(8万2500円)/トヨタ チームメイト(7万7000円)/他
三世代にわたって親しまれた「ヴィッツ」の後継モデルだが、ヴィッツの最終モデルに比べるとキャビンが絞り込まれたフォルム。変化の理由は、燃費性能や軽快な雰囲気を重視したからだ。
ガソリン車とハイブリッド車の違いは、メーター表示内容とスターターボタンの色程度。「G」以上は3つの液晶を組み合わせた個性的なメーターとなる。タッチパネルディスプレイを全車に標準装備するのも特徴だ。
後席は、膝周りのゆとりは少ないが、床に対して高めの座面高で着座姿勢に優れ、足の収まりも良い。シート形状は左右の人が座る部分をえぐり、フィット感や姿勢保持性を高める。
前席の着座位置は低く、欧州車的な硬めの座り心地。骨盤をしっかり保持して姿勢が乱れにくいことに驚く。「Z」系グレードは撮影車両とは異なる、ヘッドレスト一体タイプを採用。
ひと言でいえばベーシック。限られた車体サイズの中で最大限に荷室を確保している(容量は仕様により209~270ℓ )。撮影車両は非装着だが、「Z」 系 の FF モデルには荷室を上下分割できるボードも組み合わせる(他のFF車にも追加可能)。
3種類あるパワートレーンと基本3タイプの装備グレードで構成。「X」に対して「G」はオートエアコン(ハイブリッド車は「X」にも採用)やデジタルメーターが追加され、「Z」にはLEDランプなどを標準採用する。
河村康彦はこう買う!
実用性のみに目を向ければ“自然吸気車”でもまったく不足のないヤリスだが、それでも個人的に選択したくなるのがハイブリッド車。走りも良いが燃費も驚異的で、日常シーンで30㎞/ℓ超えも視野に入るもの。「価格差を燃料代で逆転するのは困難」とわかってはいても、“走りが良くて給油回数が激減”な魅力には抗いがたいものだ。