ディーゼルエンジンは筒内で圧縮した高温の圧縮空気に燃料を噴射し、自着火させることで膨張エネルギーを得る仕組みである。出力の多寡は燃料噴射量で決まり、吸入する空気量は筒内の負圧に任せるため、ガソリンエンジンのように吸気量を制御する絞り弁は基本的に備えない。燃料を燃やすには理論空燃比があり、燃料1グラムに対して空気15グラム弱というのがその比率なのだが、かような仕組みを持つエンジンのため、大半はリーン燃焼(空気過剰状態)で運転されている。
リーンで燃やすと燃料に対して酸素分子が多く、反応温度は高温になる。膨張エネルギーとしては多く取れる──つまり燃費に優れることになるものの、そのいっぽうで燃焼に寄与しない窒素分が酸化反応を起こして窒素酸化物が生成されてしまう。したがって、出力を追求すればするほど、ディーゼルエンジンは窒素酸化物排出に悩まされるわけだ。NOxの無害化にはガソリンエンジンでは三元触媒が用いられるのはよく知られるとおりで、しかしこれは理論空燃比で燃焼したガスにしか用いることができないという短所があり、そのためディーゼルエンジンでは機能しない。では酸素を減らした状態、いわゆるリッチ燃焼の状態ではどうかといえば、今度は燃料を燃やしきれなくなる。燃えなかった燃料はすすとなって固形物となり、粒子状物質として排出されてしまう。先に述べたようなトレードオフの関係である。
【NOxとPMをそもそも出さないようにする】
PM 発生の仕組みは燃料の燃え残り。よって噴射する燃料粒径を微細化すれば未燃焼を抑えることができる。近年のディーゼルエンジンが備えるコモンレールシステムが超高圧で燃料噴射する理由のひとつだ。NOx 発生を抑えるためには燃焼室内での局所的な高温反応を抑えることが肝要で、その方策のひとつとしてEGRが用いられる。空気と燃料をよく混ぜてからゆっくり燃やすPCCI 燃焼も、NOx 抑制手段として有望視されている。
窒素酸化物を化学反応によって無害化するのがNOx触媒。自動車用としては吸蔵還元と選択還元の二種の方策があり、前者は還元のためのリッチ燃焼(アフターバーン)を必要とすることから生じる燃費の悪化、後者は還元剤としての尿素水を搭載するためにシステムが大がかりになることが課題である。
いっぽうの粒子状物質は固体のため、濾しとるのが有効。これがDPFである。DPFは捕捉性能の向上が著しく、排出物を重量ベースで眺めればほぼ100%でフィルターに捉えることができる。
NOx触媒は浄化率にまだ課題があり、二種それぞれに長短所もあることから、いまなおエンジンの使われ方によって両者が使い分けられている状況だ。しかし燃費規制が厳しさを増す今後は「PMは捕捉できる。だったら燃費が稼げる運転サイクルにして、NOxは触媒でなんとかしよう」と考えるのはごく自然である。そうした視点から、浄化率に分がある選択還元が主流になるだろう。
【出てしまったNOxとPMを処理する】
PMは粒子状物質のため、フィルターで濾しとる。堆積してきたら燃料を噴き、燃やすという手段である。NOxは吸蔵還元もしくは選択還元によって処理。浄化率は選択還元のほうが優れているため、大型車や高性能車においてはこちらが主流である。高効率運転を図ると高温燃焼となり、NOxの発生は不可避。よって、かつてのPM/NOxのトレードオフ関係は、いまやNOx/CO2の関係に変わりつつあるのが実情だ。
他方、ならばそもそもNOxが発生しにくい燃焼を燃費と両立させればいいという技術的アプローチもある。消極策としては燃焼時期を遅らせることで反応温度を抑えるというもの。しかしこれは膨張行程を充分に生かしきれないため、効率に乏しい欠点があった。
積極策としては排ガス再循環(EGR)と低圧縮比設計が挙げられる。EGRとはその名のとおり、排ガスを吸気に還流させる方策で、筒内の酸素濃度を同容積比較で抑えられるため、高温反応にならないという仕組み。近年のディーゼルエンジンには不可欠の技術の技術だ。低圧縮比設計は圧縮行程における空気温度が低くできることから、燃焼時期を遅らせることなく燃料を噴射でき、かつ空気と燃料をよく混ぜてから燃やすことができるというのが美点。マツダが14という数字とともにスカイアクティブDとして提唱し、世界を驚かせたのは記憶に新しい。