吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンもない、切替え式のパートタイムの四輪駆動車である。錆も進み、あちこちがへこんでいるので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、アウトドアに出ることとなる。また新たな仲間が加わった。折り畳むとA4サイズに収まる焚き火台だ。それに合わせて調理器具を作り、少しだけ金属の熱伝導率について学んでみた。




TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)

人類と金属の歴史は、「銅の時代」、「銀の時代」、「鉄の時代」と進化した。現在はアルミニウムに代表される「軽金属」の時代とも言われるが、すべてが置き換わったわけではなく、それぞれの金属の特性を生かし、使用目的が細分化されたと言った方が良いと思う。




当然、吾輩「ジムニー」も古いモデルではあるが、モーターや電気の配線には銅、フレームや外板パーツは鉄、タイヤホイールのアルミニウムホイールとその恩恵を受けている。




料理の場合、例えば鍋。アルミニウム、鉄、銅などが使われている。プロの厨房で奇麗に磨き上げられた金属製の鍋が、ずらっと列んでいるのを見ると、それは欲しくなってしまう。

新しい焚き火台。人工衛星のようで形が美しいので、ちょっと真剣に撮影してみた。

折り畳むとA4サイズ。薄く面積が広いほうが、小さいが厚みがある物よりパッキングはしやすい。

用意した金属はアルミパンチング板1×100×200mm、銅板1×100x200mm、亜鉛引き鉄板1×100×200mm。

ある厨房で「どうして銅の製品を使うの?」と聞いた事がある。答えは「熱伝導が早いから」。つまり同じ火力でも銅の鍋は、鉄、アルミニウムに比べて、素早く熱くなるということだ。だが、それが料理にどう影響するかは、やってみなくてはわからない。




そこで、いつものホームセンターで、銅、鉄、アルミニウムを買い込んだ。アルミニウムに関しては、パンチング加工してある物が目に留まり、どうしても欲しくなってしまった。これでは完全な比較にはならないが、まぁ、その辺りはお許し願いたい。各板も面積こそ同じだが、火力が薪なので正確な比較とはならないだろう。そこもお許し願いたい。

調理は「食材に熱を伝える」ということなので、鉄、銅、アルミニウムの熱伝導率を調べてみた。熱伝導率の単位は[W/mK]で表され、数値が大きくなると、より熱の伝わりが早い。鉄は83.5、アルミニウム236、銅が403だ。なるほど、銅は極端に熱伝導率が高い。一定の気温で、同じ大きさのインゴットを触ったら、体温を素早く奪う銅が一番冷たく感じ、鉄はそれほど冷たくは感じないとも言えるわけだ。




クルマの外板を触っただけで、使われている金属の名前がわかる人がいる。「アルミ製ですね」というのも、熱伝導率を肌で感じ取っているからだ。

新しいステンレス製の「焚き火台」と、「銅」「鉄」「アルミ」の各板。ちなみに取っ手はニッケル。金属は美しい。

ハンドグラインダーに「3Mスコッチブライトべベル パープル」を装着。滑るように亜鉛メッキが取れていく。

ロックナットは使わなくてよい。樹脂なのにその耐久性にびっくり。

製作は、各金属板にドリルで孔をあけ、取っ手をリベットで留めた。鉄に関しては、亜鉛メッキが施されているので、これは剥がさないといけない。たまたまサンプルを頂いた「3M スコッチ ブライトベベル パープル」を使う。これは良い。#120相当だ。




また各金属に必要であるかどうかはわからないが、すべての金属板をオリーブオイルを使いシーズニングした。




我がチームに研究室はないので、テストをする場所はアウトドア、カヌーで向かう。ここは半島の先端で、舟を使わないとそう簡単に来られない。小さな広場になっていて、数張りならテントも張れる。

やけど防止のために取っ手を付ける。
各板に孔をあけ、取っ手はリベットで留める。

一番大事な「休憩場所」であるテントを張ってから、本来の主役である、折りたたみの「焚き火台」をセットする。この焚き火台は、暖を取るように設計されているので、薪は横に入れる。より広い面積で薪を燃焼させて人を温める。また、薪をホールドする薄いステンレス製の板は、セットすると曲線を描く。薪と金属板に隙間を作り、空気の流入を促進させるようにできている。この設計は「焚き火台」の名品である。




食材は、冷凍でパックされた肉。パックされた冷凍肉は、キャンプにはかなり便利だ。最初はクーラーボックスの保冷剤代わりとし、溶けたら食べる。

さぁ出艇。テストをする場所は新たに見つけた半島。テストよりも寝転んで時を過ごしたい場所だ。

食材を探してしていると、見たことも食べたことのないパックが目にとまった。「豚コメカミ」「豚ノドコリ」「豚トンビキ」と書いてある。「豚コメカミ」は一頭から200g、「豚ノドコリ」は一頭から50g、「豚トンビキ」は一頭から30gしか取れないと書いてある。「え?今までは捨てていた部位ではないの?」と思いながら、気になったので購入に踏み切った。

木製カヤックを陸に上げてテントを張る。テントは最近お気に入りのテンマクデザインの「炎幕」。

シーズニングが終わった各素材と鉄の鋳物のスキレット、パンチングのアルミ板の耐久性が心配なので鉄の網も用意。

薪は横に置く。横に寝かすのは暖を取るのに有効だが、大きめの調理器具にも向きそうだ。

左が「銅板」で右が「鉄板」。明らかに肉の縮み方が違う。

調理器具、金属対決は、まず銅板vs鉄板。銅板は肉を置いた時に、付着したようであるが、これはすぐに剥がれるレベル。鉄板は付着することもなく、シーズニングはできているようだ。大きな違いは、銅板は肉がほぼ縮むことがなく、鉄板はかなり縮む。

左がアルミのパンチング、右が鉄の網。焼き加減の差は少ないが、明らかにアルミの方が肉の縮み方は少ない。熱伝導率の高いほうが肉は縮まないようだ。

次にアルミのパンチングと鉄の網を比べてみた。こちらも鉄の網の方が縮んでいる。金属と食材の接触部分が少ない網でも、差が出たのは驚きである。多分、気体は熱伝導率が低いので、金属による熱伝導率の違いが出たと考えて良さそうだ。固体の金属は熱伝導率が高く、空気等の気体は低いので、熱は接触部分から伝わる方が早い。それで肉に編み目の焦げ跡が付くわけだ。ゆっくりと肉に火を通したいのなら、なるべく金属には触れさせないで、「気体で熱伝導をさせて火を通す」がいいわけだ。オーブンだ。

古の先輩方の結論は網で焦げ目を付け、オーブンで中まで火を通す。確かに一番香ばしく、柔らかく仕上がる。

結果として「高級和牛のような肉」なら、箸から離さず、しゃぶしゃぶのように、焦げ目を付けずにさっと表面を焼きたいなら銅がよい。香ばしく焦げ目を付けて、なるべく中迄火を通したい場合は、鉄が良いと言う事だろう。




試した焼き方で、一番楽で、美味しく感じたのは、網で焦げ目を付け、スキレットをふたつ使い、オーブンがわりにして中まで火を通す調理法だった。




さて、とりとめのない結果ではあるが、今後の調理器具の選択の参考にはなりそうだ。


ー吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだない。ー

See you next week!

情報提供元: MotorFan
記事名:「 A4サイズに収まる焚き火台を使って熱伝導率を考える。銅・鉄・アルミ。肉を焼くのはどれがいいか? 【スズキ・ジムニーでアウトドアへ 】