梅本まどか選手にとっては3回目の「新城ラリー」だ。2018年にTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジでコ・ドライバーとしてラリー参戦を開始し、同年C-1クラスでチャンピオンを獲得。翌2019年には全日本ラリー選手権にステップアップし、その年の新城ラリーでは川名賢選手とペアを組みJN3クラス5位・総合13位となった。昨年2020年の同大会では板倉麻美選手とペアを組み、このときは残念ながらリタイヤという結果に。そして迎えた今回の新城ラリーは約1年振りのラリー参戦となった。
参戦チームは、昨年同様「Wellpine Motorsport」。参戦クラスも昨年同様のJN6クラスだが、昨年と異なるのはマシンが昨年のヴィッツから、GRヤリスRSに変更となったこと。そして、ドライバーが村田庸介選手となったこと。毎年違うドライバー、違うマシンでの参戦となるが、3回目となり、しかも地元愛知県での開催となる新城ラリーだけに、レース期間を通して、その表情には落ち着きとともに沸々と沸き立つ意気込みが垣間見られた。
ドライバーに気持ちよく走ってもらうために レッキを終えてドライバーの村田選手とインカ―映像を見ながらペースノートを確認する。 ラリー本番前日の金曜日、レッキを終えた梅本選手はサービスパークに戻り、チームのテントの椅子に腰掛けるとさっそくインカ―の動画をチェックし始めた。横にはドライバーの村田選手の姿、手には今しがた書き込んできたペースノート。コ・ドライバーにとって最も大切だと梅本が言うペースノートとその読み方の確認だ。 「もちろん間違いがあっては大変なので、しっかりと動画を見ながら再度確認をしなければなりません。さらにもう一つ重要なのが、そのドライバーさんに合わせたペースノートの作成と伝え方です。ドライバーさんによって、言葉が違うのです。英語か日本語かという基本的な部分はもちろん、発音やアクセントの場所、言葉のつなぎ方などなど。実際に動画と一緒に声を出して、ドライバーさんに聞いてもらい、どう言ったら伝わりやすいかを確認しています。村田選手はキャリアがあるし、自分の言葉をもっているのでやりやすいし、すごいですよ」と梅本選手は言う。
チェックを終えた後は清書作業。ちなみに字はとてもかわいらしい。 村田選手が離れた後も、梅本選手はひとりテーブルに向かっていた。今度はペースノートの清書だという。 「本当は清書はしないほうがいいと言われています。レッキのときの感情とかフィーリング、臨場感とかがそのペースノートに込められているので。また、清書すると写し間違いがあるかもしれないし。ただ、やっぱりドライバーさんと確認したことを、ちゃんと読みやすくまとめておきたいし、あとレッキのときに書いたペースノートには自分で書いておいて読めない部分もあったりするので(笑)」とも。
清書した新しいペースノートをさらに指差し&声出し確認。 話を聞いていると、ラリー参戦以前のキャリアなどは全くと言っていいほど思い浮かばない。もちろんまだ完璧とは言えないのだろうが、全日本を堂々と戦うコ・ドライバーとして成長していっていると感じる。
ドライバーの村田選手からも高評価! ベテランドライバーの村田庸介選手とのペアは、初めてのラリーとは思えないくらいに息もぴったり。 村田選手に、梅本選手とコンビを組んだ率直な感想を聞いてみた。 「会う前は、元アイドルということで、まぁそういう人なのかな、と思っていたのですが、実際に会ってみて走ってみるとその想像を見事に覆してくれました。しっかりナビゲートするし、ペースノートもちゃんと作れる。最初のテストのときから本当にいいコ・ドラだなと思いましたよ」
写真提供:WELLPINE MOTORSPORTS これまで梅本選手と一緒に戦ってきたドライバーさんに聞くと、みんなそう言うのだが、ホントだろうか? リップサービスなのでは? とも訝しんでいますと言うと、 「もう何戦も出ているから、ベースはできていると思う。あとは、個人のリクエストとして『ここはセットで読んで』とか『こういうふうに読んでほしい』と言うと、割とすぐにできるんです。飲み込みが早いのでしょうね。よく考えると、アイドルというのは、けっこう大変な勝負の世界なので、そんな厳しい戦いをくぐり抜けてきたから実は芯はしっかりしているのかな、と。
写真提供:WELLPINE MOTORSPORTS 走っていてもまったく不安を感じないですね。2週間前に一緒にテストをしたのですが、自分の以前のペースノートを事前に渡しておいて、『こういうふうにやってほしい』とお願いしていたのですが、蓋を開けてみると、ちゃんとやってくれていました。 ただ、今回のレッキでは、SSのフィニッシュ地点を通過して幹線道路に出たときに、右と左を間違えたというのはありました(笑)。『あっ、逆でした!』って。そこは『おいおい!』って感じでしたけど(笑)。その程度の小さい“ボケ”はありましたけどね。それぐらいですね」。 かなり突っ込んで聞いてみたが、歴戦の猛者である村田選手をしても「期待に添えるような答えじゃなくてすいません(笑)」と言われてしまった。
TOYOTA GAZOO RacingよりGRヤリスでJN1クラスに参戦している先輩コ・ドライバー安藤裕一選手からアドバイスをもらうシーンも。 ペースノートの清書が終わり、一段落したのは、ペースノートチェックを始めてから2時間以上が経過して日が少し傾き始めたころだった。途中、取材や来訪者の対応、チーム内での打ち合わせ、そして先輩コ・ドライバーからアドバイスを貰ったりと、コ・ドライバーにとっては忙しくとても大切な1日となるレース前日が終わった……、と思ったら、ホテルに帰った梅本選手は再びレッキの動画とペースノートのチェックをしたとのことだった。 <つづく>