ただ廃棄されるにとどまる熱について、むしろ積極的に直接的なエネルギー源として着目する。そのような観点から熱を電気エネルギーに変換するのが熱電変換の考え方である。

熱を電気エネルギーとして変換するというのは、自動車に限らなければ珍しいことではない。タービンを回すことによる発電には、火力や地熱、原子力による熱源など、さまざまな方法がある。船舶においても発電はエンジンの排熱によって行なわれているし、古くは蒸気機関車も蒸気タービンによって発電機を回していた。しかしいずれの場合も、発電機を回すまでに至るまでは、膨張や圧縮など熱源によって媒体を変化させ、そのエネルギーによって発電機を回転させる、という段階を経るため、どうしても変換損失が生じてしまう。




昨今、自動車において注目されているのはそうした何度かのプロセスを経る間接的な変換ではなく、物質の「ゼーベック効果」による「熱電変換素子」を用いて熱を直接電気に交換する方法である。




自動車の走行には、一定の熱量は必要とされるものの、あるレベルを超えればあとは余剰となる。燃費向上の機械的な方策もきわめて複雑高度化し、すでに手詰まり感さえもあるいま、厄介ものとして手を焼いていた「廃熱」を、「排熱」としていかに有効利用するかが、今後の鍵として期待される。

BMW:Thermoelectric Generator

BMWの想定するTEGシステム搭載の5シリーズセダン。触媒後の排気を利用し、ポンプを介して熱電変換デバイスを作動させる仕組み。

2004年にアメリカ・エネルギー省の施策として始まった「Thermoelectric Waste Heat Recovery Program(廃熱熱電変換プログラム)」。同プログラムは「10%の燃費向上」「エミッション低減」「商業化ならびに実現の可能性」などを目標とし、その実行部隊として4チームが結成されている。




そのうちのひとつがBSSTと北米BMWを主体とするチーム。彼らは2006年9月、530iへの熱電変換システムの搭載を想定し、実車にThermoelectric Generator(TEG)を装着してテストを行なった。シミュレーションによれば、8%の燃費向上が確認できたという。高速走行時で最大1kW、市街地走行で最大500Wの出力、熱電変換効率12%、1ポンド(約454g)以下の重量、1ドル/Wの価格を数値目標としていた。

テスト車両に装着されたTEG。触媒直後に備わる。4層のフラットパネルの内部には8枚の熱電変換モジュールをセット。バルブによって高温、中温、低温の排気のTEG通過量がコントロールされ、出力向上を図る。低温側は冷却水による方式。

前方に見えるのがTEGシステム。その右側の管は、高負荷時にはTEGをバイパスするルート。やはりバルブによって制御する。

BMWの想定する熱電変換システムを備えたコクピット。TEGシステムをリアルタイムで把握しながら、入出力をコントロールし、燃費改善と出力向上に結実させる。

GM:Thermoelectric Generator

TEGシステム試作モデル。最大出力109W(16.5V/6.6A)の結果を得た。製品では121W(17.4V/7.0A)のスペックをねらう。

GMはゼネラル・エレクトリック(GE)と組んだチームを結成。こちらは、排気ルートとラジエータールートのふたつのTEGシステムを備える。しかし予想されるように、冷却水側の温度は排気側レベルを見込めず、当然効率は劣る。




BMWと同様、分岐した排気ルートの片方にTEGシステムを介し、もう片方はバイパスルートとしている。平均で350W、最大で914Wの出力をマークした。350Wの出力は現状のオルタネータと照らし合わせれば、高速/市街地走行でおよそ3%の燃費向上に相当する。GMは2009年にもテストを重ね、三年以内の製品化を目標としていた。

TEGモジュール。GM側のテスト車両は、シボレー・サバーバン。テストの結果、5%もの燃費改善データが得られたとしている。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | 熱を電気エネルギーに変換する:熱電変換の技術